作品タイトル不明
side-リミア
信じられませんでした。
お母様が倒れ、それでも頑なに教会を頼らなかったお父様。
お母様の死を汚す領民の言葉。
学園の教師でさえ、爵位の前にへつらうばかり・・・。
私はなんなら信じられるのでしょう?
結論は簡単でした。
周りを信じられないのなら、自分自身を信じるしかない。
そうすれば、いつか。
信じられなかった人たちの考えも、わかる日が来るでしょう。
そう思って、冒険者ギルドの扉を叩きました。
ですが、冒険者になろうと変わりません。
自分自身に出来ることは限られていて、だからこそ信じきることが出来ませんでした。
私は完璧ではないのですから当然と言えるでしょう。
そんなある日、直近まで冒険者として前線で活躍していたという人物に指導してもらえるというのです。
信じられるとは思いませんが、知識は必要でしょう。
私は二つ返事でお願い致しました。
結果から言うと、信じられませんでした。
だってそうでしょう⁉
いきなり目の前でモンスターを倒し始めるんですよ?
言ってることは間違ってないのかもしれませんが、だからといって好きにしすぎなんです!
そのせいで空気が悪くなっての解散。
信じられるわけがないでしょう!
私は翌日、直ぐに続きを! とその人の下へ学友でもあったヨハンと一緒に会いに行きました。
ヨハンを誘ったのは・・・どんな理由であれ、独り身の男性に淑女である私が一人で、というのは憚られたからです。
そして、その後に起こったことを・・・私は一生忘れることはないでしょう。
魔法を教える、適性が、などと言って、私をこれでもかと挑発してくれました。
お父様の態度にも、領民の心無い言葉にも、憤慨したものですが、これはそれ以上でした!
なぜなら、私に向かってそう仕向けられたからです! そうであれと仕掛けられたからです! あれほどの怒りを覚えたのは初めてでした。
殺す。本当にそう思っていたわけではありません。ただ、そう言われて、本気で怒れと言われて、気付いたら魔法が出ていたんです。
学園で習ったものではなく、それよりももっと強い魔法が。
驚きと戸惑いが巡りました。
そんなことが出来てしまったことが、それが弾みで出てしまったことが、ですが・・・それすら簡単に捌いて見せ、どうせそうなると思っていたと言われれば、この胸に渦巻く感情さえも、またその巡りの中にありました。
魔力切れで座り込んでしまった後はヨハンの番で・・・その後はなぜか身の上話が始まっていました。
辛い過去を明かして向き合う二人。
なんでしょう? 男の人はそう言う生き物なんでしょうか?
仲間外れなど許しません!
ギフトの話を聞いて・・・失敗してしまいました。
教会のことは私にとってお母様との繋がりでもあります。
しかし、それを人に押し付けるのは・・・確かに、横暴が過ぎるというものでしょう。恥ずべき行為です。許していただけますか? 先生。
さらにその次の日も、私にとっては忘れたくても忘れられない、記憶から消しえない日になってしまいました・・・。
装備の参考にと先生がギルドマスターと模擬戦をする様子を見せてくれたのです。
私達にも使えるような、弱い魔法だけしか使わないという縛りを付けて。
なんでそんなことをするのでしょう? と思ったのですが、私達を舐めていたんだと勝手に決めました。
そうでなければ・・・その時見せた魔法が美しいものだと認めてしまうことになるのですから。
鮮やかではありました。それこそ、誰にでも使えるような簡単な魔法だけで、工夫と発想を積み重ね、相手を出し抜くその姿はまるで冒険譚に出てくる冒険者そのものといっていいほど。
でも、魔法自体はなんてことないんです! だから、たいしたものではないんです! だって、そうでしょう? じゃないと、悔しいじゃないですか・・・。
そんな思いを引きずったまま、装備を見に行きました。もちろん態度には出していませんよ?
そこで・・・・・・一生分の恥をかきました。
祈祷師ってなんですか⁉ 知っているはずないでしょう⁉
肌に服が張り付いている姿を見られました‼ 汗の香りまで堪能されていたかもしれません‼ そんな状態で触れられるなんて‼
そんなことを自分が許してしまうなんて⁉ 信じられません・・・。
信じられないことといえば、もう一つ。
その時に真っ赤な石が先端に付けられたメイスを頂いたのですが、それを手に取った時の喜びが・・・信じられませんでした。
こんなの、忘れられませんよ。
信じられないことは続きます。
緊急依頼が決まりました。
私達と一緒に指導を受けていたパーティーがなにかしてしまったらしいのです。
初めは大人しくしていろとのことでしたが、ギルドマスターの指示によって先生の後ろにくっついていけるようになりました。不謹慎かもしれませんが、楽しみです。話にならないと言われ、実践まで漕ぎ付けられなかった魔法を試せるかもしれませんからね。
目的地に向かう途中も良かったです。
強化魔法がこれほど効果があるとは知りませんでした。
目的地では・・・先生が楽しそうでしたね。
上からの眺めは悪くありませんでしたが、やることがなく、周りの反応を聞くだけでは、なにがどうなっているのか・・・わからないでしょう?
そして、その後の移動で、初めてモンスターに魔法を撃てました!
少し離れたところにいるモンスターを見据えての魔法は、違和感が拭えませんでしたが、生み出した水流に流されていく蟻の姿をよく見れた点では満足しました。
そうして、私達は出会うのです。
あの、衝撃と。
女王蟻。大きすぎる体躯と周りを埋める黒い波。
怖い、より先に、気持ち悪いと思ったのは仕方のないことでしょう。
なのに、先生は言います。
やることは変わらない、と。
ちょっと待ってください。
そんなわけないでしょう? なぜ自信あり気なんでしょうか?
私はギフトのおかげか、ある程度、人の魔力量がわかります。
先生の総魔力量は私とそうは変わらないはずです。
切り札だなんて・・・。
それならば、私にも出来ることがあるんじゃないですか?
やってもいいですよね?
先生はヨハンに聞く。
だからそっちを見ました。
それが功を奏したのかはわかりませんが、先生が折れて私達も作戦に参加することになりました。言ってみるものですね。
まずはサンという方が、続いて私が攻撃し、注意を引いている間に先生が止めを刺す。
ヨハンを連れて行くのは、近くで見たいと言ったからでしょうか?
ですが、最後はやはり一人で片を付けるつもりのようですね? 切り札、でしたか? どれほどのものか、見せてもらいましょうか。
そう思いつつ、私は私で・・・ここに来るまでに感じていた違いを全力で確かめてみます。
武器のおかげでしょうか? 魔力の流れが今までよりずっといいんですよね。だからたぶん、もっと強い力を使えるはず!
溢れる力で魔法を使うと、今までにない大量の水が天から降り注ぎました。
多すぎた水が周りを巻き込みそうになりますが、より魔力を感じるために目を瞑ってしまっていた間も守ってくれていた、サンさん? が意図しない方向へ流れる水を蒸発させて、それも防いでくれました。
先生はそこまで織り込み済みだった? なんて、流石にそれはないでしょうが・・・。
そんなことを考えていた矢先、女王が振り向きました。
いよいよですか・・・。
そう思うのも束の間。
気付けばすでに、全てが終わっていました。
空より近い青と白が線を描いた。
それは一瞬のはずが、永遠のようで・・・ですが、次に見た時にはもう、女王の冠は頭と共に失墜していたんです。
信じることが出来ない私ですが、まさか目で見たものまで信じられなくなる日が来るなんて・・・そんなおかしな話があるでしょうか?