作品タイトル不明
迅速たる戦場
――アスクレ岩床地帯。
望福教が国教変更を掲げてから2週間。
配置されていた防衛部隊は驚きの声を上げる。
「本当に来たッ‼‼」
それが誰の声だったかは定かではない。
だが、全員が同じ感想を抱いていたことだろう。
”速すぎる”と。
なぜなら。
「大尉ッ‼‼ 予想通り、東の領軍が連合を組んで押し寄せて来ました‼‼ その数、2万ッ‼‼」
一帯を覆い尽くすようなおびただしい数が迫りくるのだ。
そう2週間で、だ。
例え、鍛え上げられた精鋭部隊であっても。僅か2週間で2万という数を率いてというのは現実的ではない―――・・・誰もがそう思っていた。
命令を下した将軍や、それを承認した皇王陛下を除いて。
「止まれ‼ これより先は皇王陛下が領地‼ 無許可で軍勢を率いるなど、言語道断であるぞ‼」
「我らは東の地で立ち上がった改宗軍である‼ 並びに、これは陛下へ具申あっての進軍‼ そちらの了見には賛同できない‼ 我らの歩みを妨げるのであれば、押し通るものである‼ 道を開けよ‼」
「我々皇国軍がここに鎮座するは陛下が意志‼ 貴様らの具申など無用‼ それが陛下の出した解答なるぞ‼」
「それが真実であろうとも、我らはそれをご本人より賜る‼ 道を開けぬなら容赦はせぬ‼ 決して恨み申されるな‼‼」
一言二言の分かり切った問答を終え、皇国軍による防衛戦の火蓋が切って落とされる。
「先陣‼ 駆けよ‼‼ 中央突破だ‼‼」
「来るぞ‼ 各員所定の持ち場へ付け‼ 迎撃開始‼」
望福教を掲げる連合軍は数にものを言わせた一点突破を仕掛ける。
これが辛いのは初めから想定済み。
皇国軍は正面からの当たり合いを回避し、わざと薄い箇所のある防衛陣で誘い込む。
思惑通り。狙われたはずの隊員達は早々にその場から離れ、誘われた連合軍の先陣はあらかじめ設置されていた罠へ。
うわぁあああ‼ という悲鳴や馬の嘶きが響き渡るが、
「後続‼ 続け‼ 止まるな‼‼」
愚かとしか言いようのない指令により、連合軍はどんどんと突撃する。
しかし、何度も繰り返すうちに罠のある場所も少なくなっていく。
連合軍の数は減らない。
なんなら罠にかかったはずの連合軍の中から、這い上がってくるものさえ出始める。
これは陛下のお慈悲である。
罠は殺傷力のあるものではなく、あくまでも捕縛のためのもの。
本当ならば、罠にかかったものを次々と捕虜にしていく予定だった。
それを基に交渉を呼びかけ、時間を稼ぐというのを一次目標とした。
けれど、そうは問屋が卸さないと。連合軍は苛烈に攻め続けた。
2万という数がそれだけの愚直さを実現させた。
ここに陣取る皇国軍の数は精々3千足らず。
手が足りないと正にこのことだ。
捕虜に出来たのは最初の方で罠に掛かった数十人。
2万からすれば、そんなものは端数と切り捨ててしまえた。
「大尉ッ‼ 駄目です! 罠が足りません‼ 突破されます‼‼」
現場の指揮官は部下からの報告を受け、打開策について考えるが・・・、
「無茶はするな‼ 罠に残った敵の確保を優先‼ 迎撃、やめ‼‼」
即座に不可能と結論付け、最低限の役割を全うする。
これ以上の粘りは敵の反撃を招くと判断したのだ。
せめて塹壕でもあれば、もう少しの戦果もあげられただろうが。
2週間では満足のいくものは作れないと諦め、少しでも通り辛いアスクレで迎え撃ったのだ。
その結果がこれなのだから、これで満足するべきなのだと大尉は考えた。
これだけが防衛の作戦ではないのだから。
後は捕虜を連れ皇都へ帰る。
むしろ難しいのはここからだ。
「敵の捕縛を終えたら移動する‼ 怪我をしたものは救護所へ行け‼ 捕虜は数人に分けて移送する‼ 武装解除を忘れるなよ‼」
2万から削れたのはたったの100人程度。
あまりにも速すぎる幕引き。
それでも下された命令は遂行しなければならない。
「どうか持ちこたえてくれよ・・・」
その場にいる全員が、ただただそう願っていた。