作品タイトル不明
繋がれた者達の約束
「本人達と話して、当初の申し出通り、皇国側への護送に決まった。荒らすような提案をして悪かったな」
「そちらにも事情があったのだろう。それはぐらいは構わない」
「ついでで悪いが、護送の方も急いでもらうことになりそうだ。これも事情ってやつでな」
「それも承知した。しかし―――、姫様の件は・・・」
「どうしようもねぇよ。事が起こるかどうか、祈るぐらいが関の山だ」
「気付けさえしなかった自分を恨むばかりか、貴公にさえも憤りを覚えてる。その事実がまた、不甲斐ない」
どうにもできないことへの愚痴を零す姿は、かつての自由を求めるそれではなく、一国の将。あるいは、主を思う従者のそれだった。
もう少し聞きたいこともあったが、余計な話をする気にもなれず、俺はその場を離れた。
最後に一応の承認を得ておこうとカーナを探した結果、バルコニーで見つけた。
「もしアタシが乗っ取られたら、その後この国はどうなると思う? 国民は? 新しい帝王は誰になるかしら?」
「さぁな」
「アタシはアンタになると思うわ」
手すりに肘を置き空を見つめていた姿勢から、振り返って俺を見据える。
その眼差しにからかうような色はない。
「本気で言ってんのか?」
「他に”私”を討てる人間を思いつかないもの・・・」
「国なんてもんは俺の手に余る」
「そうでしょうね。アタシにだってそうよ。でも、誰かがやらなきゃ」
少し俯いて。
「信念だけじゃなんにも出来ない。言葉だけでもどうにもならない。立場があって初めて、言葉は聞いてもらえるんだって。そう思うきっかけをくれたのはアンタだった。あの時、アタシは変わらなきゃって思った。でも――」
また、空を見上げるカーナ。
「立場を手に入れるには実績が必要で、じゃあその実績を手に入れるには? ってなった時、結局は力なんだなって思い知らされた。対立を終わらせるには威厳が必要で、威厳の多くは力なのよね」
「力には使う、使わないの選択はあっても、力のねぇ奴に抗う選択はない」
「そうね。だって話を聞くつもりのない相手がいるんだから、言葉だけでどうにかなんて、出来るわけがなかった」
もうすぐ日が昇るわね。白む空を見上げた呟きを挟んで、カーナが続ける。
「けど、私にはその抗う力がない」
これに掛ける言葉を、俺は持ち合わせてねぇ。
精神を乗っ取られる。その結果がどうなるか、目の当たりにした人間に。俺は何て言えばいい?
しかも国家元首になった後の出来事だ。巻き込まれるのは全国民。その恐怖のなにを分かち合える?
「アンタは内戦を止めに行くんでしょ?」
「・・・そのつもりだ」
「どうして?」
「復讐、だな」
「復讐? 意外ね。被害を出さないために~とかじゃないんだ」
「そんな気はさらさらねぇよ。ましてや、誰かを助けようなんてことも考えちゃいねぇ。ただ、あの教祖に復讐するだけだ」
「アンタなら、あの教祖を確実に討つんでしょうけど・・・どれくらいで終わりそう?」
「最短で今から1ヶ月」
「1ヶ月――それがアタシの余命なわけね」
「・・・可能性の話だけどな」
「気休めをどうもありがとう。アンタもわかってるでしょ? そんなこと、あり得ないって」
「・・・・・・・・・・・・」
「あそこまで入念に。お姉様の人格まで準備していたのに、アタシにだけ何も用意してないなんて、そんなわけないじゃない?」
「・・・・・・・・・そうだな」
「でも、なるほど。1ヶ月ね。だからあの人達の護送を共和国側にしようとしたのね。1ヶ月じゃ皇国まで行けないから。道が使えない~なんて、ただの言い訳じゃない。そんなに、アタシに期限を知られたくなかった?」
「・・・・・・ああ、そうだな」
「・・・そう。じゃ、なにかあった時はよろしくね? 皆は止めるでしょうけど、気にしなくていいから。アンタの力ならきっと、出来るんでしょ?」
「出来る限り、悪あがきはするさ」
「期待してるわ」
夜明けの空に光がさす。
それはなんの啓示だろうか?
新たな国の門出を祝うか、それとも。
覚悟を灯せとでも言うのだろうか?