軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

影も、毒も、知らねば在らず。

「ミレお姉様‼ ―――・・・どうしてっ⁉」

亡骸同然になった女にカーナが駆け寄る。

両腕の欠損。

出血の量も馬鹿にはならない。

放っておけば数分と持たずに死ぬだろうその体を見ながら、

「腕は生やせるといったな? ここから、どうするつもりだ?」

将軍は尋ねるが、

「どうするつもりだ?ってのは、こっちの台詞だな。もう、どうにもならねぇよ。あの野郎は逃げたんだからな」

そんな俺の投げやりな返しに将軍が憤慨する。

「策があっての愚行ではなかったのか⁉ 仮にも、ミレ姫はこの帝国の後継者たる身だぞ⁉ こんな場所で、あのような凄惨な死を遂げれば、我々のここまでの苦労はなんだったのか‼ わからなくなるではないか‼」

だが、そんな憤慨には意味がない。

「そりゃぁ、ただ時間を無駄にしただけだ。死体だけなら跡形も残さず消せるがな。血の痕跡を隠せば、交渉決裂の後に行方をくらませたとでも発表すればいい。どうせ、俺達の負けは確定したんだからな」

「何を言っている? この帝国を惑わしていた諸悪の根源を追い出したのだぞ‼ 勝利に間違いない‼ だからこそ、これからが重要なはずだろう⁉ 貴公の言葉が正しかったのなら、帝国自体が大きく変わらなければならない事になる。そのための象徴として姫様に活躍してもらうためには、この決着の形こそが肝ではないか‼」

気付いていないのか、忘れているのか、あるいは浮かれているのかもしれねぇが、これで勝ちだなんてのは幻想だ。

「そう思うなら形だけは整えてやるよ。カーナ少し離れてろ」

カーナを血濡れの人形もどきから剥がし、もう動かない女に魔法を掛ける。

「此の姿は正しく非ず、彼の雄姿こそ今に在るべし」

回想再現などと呼ばれる便利な魔法だ。

肉体を最も健康であった最盛期に戻す魔法である。

当然、欠損した手足なんかも元に戻る。インチキな時空魔法・・・今では次元魔法か。まぁ現象は同じだ。体の時間を戻す。ただそれだけだ。もちろん血液なども含まれるため、身体だけは間違いなく健康体になっている。

「ミレお姉様‼ 目を‼ 目を覚ましてください‼ 今度こそ、一緒に‼」

身体の再生を確認したカーナが再び駆け寄り、必死に呼びかけるが、

「・・・・・・・・・・・・」

反応はない。

治せるのはあくまでも肉体だけだ。失われた精神を呼び戻すことなど不可能である。

「で、もう一回聞くんだけどな? ここからどうするつもりなんだ? この女の体を元に戻して、何がしたい? 精神を奪われた人間がどうなるのか、確認しておきたかったのか? まぁ確かに気にはなるが、あんまり褒められた行為じゃねぇと思うがな」

「ミレ姫は自殺と公表する。その上でこの国をカーナ姫様に頼んだとしてな。ミレ姫には悪いが、暗殺の濡れ衣も被ってもらう。と言っても、望福教と呼ばれる宗教の人間が勝手に行ったこととして、望福教を弾劾するための手段に使わせてもらうだけだがな。ミレ姫はその真実を知って自殺した、という筋書きだ」

「論外だな。今までの暗殺と同じような死に方をした人間を自殺と公表して、自分達はその後を任されました! で納得できる人間なんざ居ねぇよ。その女も暗殺されたんだろうと思われるだけだ。そうなりゃ発端は生き残った方、つまりお前らに疑いの眼が向いて終いだ。統制なんざ取れたもんじゃねぇよ。なにより、その女が望福教を使って地盤を築いていたなら、弾劾される望福教がその筆頭になって国民を操る。目論見通りにいくわけがねぇな」

そんな発表をすれば、十中八九内戦が勃発する。

「なら、どうすればいいというのだ? ミレ姫はもう助からんのだろう?」

「現状をそのまま伝えりゃいいだろ。意見がぶつかった結果一騎打ちになり、見事討ち取って見せたってな。この国らしく力を証明して人心を集めろよ」

「それでは今までと変わらぬではないか‼ それに姫様は力による誇示ではなく、話し合いこそを好む主義だ‼ その思いがあるからこそ我々は‼」

「その主義とやらで、なにかを成し遂げられたのか? なんの役にも立たなかったから、今あそこでああしてるんだろう? 死体に話しかけて、目覚めるわけもなく、失ったことだけに嘆いて、自分の危機にすら気付かねぇ」

「危機だとッ⁉ まだなにかあるというのか⁉ それとも、貴公が――‼」

「馬鹿にするなよ。この国のことにも、お前らのどうこうにも興味はねぇよ。だが、忘れてるようだから思い出させてやるが、この国の王族やらは軒並み身体を乗っ取られて殺されたんだぞ? なんで自分だけ無事だと思える?」

「まさか‼ そんなはずが―――‼」

「さっきもそんなこと言ってたな? けど事実はどうだった? だから俺は条件にこだわった。嫌な想像をしたくなかったからな。これ以上、誰かを奪われたくなかったから・・・ま、それも空しく看破された上で逃げられたんだけどな」

本当に。笑えねぇ。

精神を乗っ取るのための条件。

これがもし。相当に緩ければ―――カーナはもちろん。

グレアムの爺さんの周りにいた人間も、人質に取られたようなものだ。

そう例えば、孫のユノだとか。

場合によっては、皇王陛下でさえ・・・。

だからこそ、確実にその条件を引きずり出すべきだった。

ここでそれができなかった以上、もう一度。

今度こそ、その全てを抉り取る。

次は恐らく皇国の東領。

内戦が起こる事になる。