作品タイトル不明
side―――将軍フリードリヒ
私が帝国へ帰ってから早数年。
帝国に蠢くなにかの調査に時間をかけ過ぎた。
それは仕方のないことでもあったが、結局はそのせいで多くのものを失ってしまった。
時間が掛かった理由は幾つもあるが、一番の理由は将軍の計らい。
要は、私を次代将軍へ据えるための時間だった。
調査と並行した人脈作りや地盤固めが主な原因。幼い姫様にも、この時に出会った。その甲斐あって私は将軍に成れたが・・・・・・。
『こんなものしか残してやれそうになかったのでな』
恩人の最後の言葉が胸に刺さる。
時間を使うということは、帝王様と将軍が。あるいは他の要職の人間が謁見する回数が増えるということであり、それが増えるということは――症状の侵攻が悪化するに等しいことであった。
つまり、何が起こったか?
帝王様の崩御である。
死因は暗殺だと推察された。
そしてその犯人は――将軍。
そんな噂が流れ始めた頃、事態は急変する。
大臣も、帝王様と同じような死に方をしたのだ。
より一層、濃くなる疑い。
だがそれを晴らすかのように、将軍もまた・・・・・・。
帝国内は恐怖に震えることとなった。
全ての不審死で、争った痕跡はなく、しかし外傷による死亡。
故に親しい人物による暗殺だと推察されたのだ。
そうでもなければ、相当な凄腕の暗殺者がこの帝国を跋扈していることになってしまう。それは許されないことだ。国の面子としても、一国民としても。
だからこそ、そう発表された。
信用や信頼が重さを増した。
早急な立て直しを要求されたため、先の疑いがありながらも、私が将軍職を継ぐことに。
次代帝王も直ぐに決めてしまおうということになり、速やかに第一王子の即位、および戴冠式が予定された。
反対する者はいなかった。
いや、反対などできなかった。
要職のほぼ全てで入れ替わりが発生したためだ。
皆が皆、自分のことで手一杯だったのだ。
唯一、この件の黒幕を除いて。
問題はすぐに表面化した。
第一王子が帝王様達と同様の状況でなくなっているのが発見されたのだ。
あの症状について調査していたのに、私はどれほど不用心だったのかと、己の拙さに怒りを覚えた。
帝王様は黒幕ではなかった。
事態を波及させるための装置に過ぎなかった。
しかしそれでも、帝王様であることに違いはなかった。
では帝王様は誰と会う回数が多いか? 誰と過ごす時間が長いか?
そんな簡単なことさえ見落としていたのだ。
第一王子は直系の子供であり、正式な跡継ぎでもあった。直接顔を合わす機会にも恵まれていたはずだ。
それは第二王子以下、王子全員に当てはまり・・・・・・。
帝王候補となった王子達は次々と命を落としていき、生き残る王子達も、そうなることを恐れ早々に身を隠していく。
いよいよ候補となる王子が居なくなると、本来帝王位に成れなかったはずの姫を使おうという流れになった。
王子達とは違い、姫は帝王様とは距離を置かれていた。
それは跡継ぎになり得ないためか、いずれ政治的な判断で嫁に出すためかわからないが、王家から出し公爵家へ引き取らせた上で、適当な役職を与えて格付けだけを済ませていた姫を利用する。
そんなことが許されるのか? それは本人達だけでなく、国民への顔向けという意味でも。そう思ったが、帝王不在のまま荒れるよりマシだと言われては、返す言葉も在りはしない。
せめて正しく帝国を導ける姫を選ぼう。そう思える姫を。
私にはそんな人物に心当たりがあった。
丸腰で戦争中の隣国へ和睦を結びに行くような姫様に。
だが、それだけでは足りない。
姫様を帝王にするには力が必要だ。言葉や理想だけでは届かない。
しかも、裏切らないであろう確かな力だ。
私だけでは、軍だけでは賄えない大きな力が。
しかし今の情勢を鑑みれば、帝国内から見出すのは難しい。
なにかからの影響を受けているかもしれないためだ。
国外からの助勢・・・もし、そんなものが用意できたなら、今後の姫様の求心力にもなろう。
皮肉なことに目星はある。
いつか、この俺に憧れていると言ってくれた子供達の1人。
そんな人間を、今は違う道を歩いているであろう後輩を利用する。
いつか手にと願った自由はどこへ行った?
受け継いだはずの誇りはいつ失くした?
ドブに沈んだはずの世界を憎む醜い自分が顔を出す。
それでも勝ち取らなければなければならない。
払われた犠牲は無駄ではなかったと、抗って、掴み取るのだ! 望む未来を‼