作品タイトル不明
side―――自由騎士・フリーダム2
だというのに、迷っている暇さえ与えられないことに俺は嘆いた。
将軍からの手紙が途絶えた。
『ちと厄介なことになりつつあるが・・・なに、お前の手を借りたいというほどじゃぁねぇよ。大いに悩むがいいさ』
そんな一文を終わりに記した手紙を最後に、だ。
子供を育てると決めた時、自分なりに全うしようと誓った。
あの子は強く大きくはなったが、まだ何者でもない。置いて行けるはずがない。
かといって帝国へ連れていくこともできない。
なぜなら俺はあの子を冒険者としてしか育てられなかったからだ。
帝国に冒険者など居ない・・・。
いや、今は居るのかもしれないが、それでも生活できるとは限らない。チャード集合国と比較できる水準にあるとは、到底思えない。
しかしだ。
恩人を捨て置いていいのか? と、俺の心が叫ぶ。
下手をしなくとも、あのままならば碌な人生を送れなかっただろう自分を、ひとかどの人間にまでしてくれた。その機会を与えてくれた恩人を。
なにかあったんじゃないか――とわかっていて、それでも捨て置けるか?
折角手に入れた強さは何のために?
この悩みに答えをくれたのは、他の誰でもない俺が育てた子供自身だった。
『私が自由騎士を引き継ぎます。だから―――』
無謀だと、そう思った。
強さの面でもそうだが、なにより自由騎士・フリーダムは公式にチャード集合国から個人S級冒険者だと認められている。
それにまつわるような行動や、行事への参加なども広く行ってきた。
だからこそ与えられた権利もあれば、立場上課せられる使命もある。
なにより、冒険者ギルドがそんなことを認めるはずがない。
S級ともなれば辞職にも相応の理由が必要となるが、かといって替え玉でどうにか出来るはずが―――・・・・・・。
結果から言えば、世代交代の話は受け入れられた。
あの子の強さが認められたのだと思うと誇らしくもあったが、複雑な心境だったと言わざるを得ないだろう。
注意点として、入れ替わり自体は公表しない事。
俺自身が自由騎士であったと触れ回ることの禁止などの取り決めもあった。
あるいは、俺は扱いにくいと思われていたのかもしれない。
ギルドマスターになったあの暴虐の螺旋とは、あまり反りが合わなかったしな。先代が色々と優遇してくれていたというところもあるが・・・。
だが、これで身軽になる事ができた。
育てたあの子に全てを教えられたとは思っていない。不安がないわけでもない。けれど、将軍から貰ったものを引き継ぐことはできたと思っている。
後は将軍へ直接返す事ができれば!
俺は子供に背中を押される形で帝国へ帰った。
久々の帰郷。
そこで待っていたのは、異様な空気だ。
出ていく前の帝国、帝都の面影はどこへやら。いつでも、どこからでも、這い上がってやろうろいう気概に溢れていた地下ですら、活力がない。
まるで全てがどうでもいいとでも言うように。
数十年あれば人は変わるが、街さえこの様とは・・・・・・。
どうにかして正式に将軍と会おうと努力してみたが、にっちもさっちもいかず。仕方がないので将軍から教えられていた抜け道を使って王城へ忍び込んだ。
将軍がその地位に居ながら、度々地下へ顔を出せたのは、将軍が王城で暮らしていて、且つ地下へ繋がる抜け道があったからだ。
細長い月の出る日を選んで、俺は王城へ、そして将軍の部屋へ忍び込んだ。
「不肖フリードリヒ。将軍と交信が途絶えたことに居てもたってもいられず、恥ずかしながらこの度、舞い戻って来てしまいした‼ 御身を信じきれず! ご容赦いただきたく、馳せ参じましたことをご報告します‼」
皆が寝静まったであろう時間に、響かぬ声で謝罪した。
将軍は座っていた。
寝ては居なかった。
なのに、反応が返ってこない。
不審に思い、近付いて確認した。
死んではいない。そのことにまずは安堵した。
しかし、呆けたように虚空を見つめたまま、視線さえ合うことがない。
いったいこの帝都で、なにがあったのか?
「失礼します!」
謝って。直ぐに将軍の部屋から調べた。
確信には迫れなかったが、得体のしれない何かが帝国を支配していること。
それだけはわかった。
そして、そのことに将軍も気付いていた。
ただ。
それがなにか? どうすればいいか? なにができるのか?
それらが1つもわからなかった。
そのことが、どうしようもなく怖かった。
その日はそれ以上なにも調べず。一縷の希望を託し、将軍が座る椅子と対の机に、自身の存在を示す手掛かりだけを置いて部屋を去った。
後日、そのことに気付いた将軍から呼び出され、ようやく再会が叶った。