作品タイトル不明
我欲こそが全ての祖
気を引く。
実行するとなれば、言葉にするより少しは難しい行為だ。
手段を限れば―――の話だが・・・・・・。
相手を傷付けないという縛りを設けるのであれば、興味を引くような何かを必要とするが、今の俺にそんな余裕も容赦もありはしねぇ。
「ぐあっ⁉ 気を付けろ⁉ コイツ! 攻撃してくるぞ⁉⁉」
「おい! どういうことだ‼ こっちの攻撃は当たらないんだぞ⁉⁉」
「ヤバいぞ‼ 壁をすり抜けて攻撃してくるかもしれない‼‼ 逃げろ‼」
「待て‼ 慌てるな‼ 勝手な行動を―――うおぉっ⁉⁉」
人の体も、城の壁も、すり抜けて。
一方的に。好き勝手に。目につく兵士をナイフで斬りつけた。
死にはしない程度に、しかし十分な痛みを伴う攻撃だ。
狭い通路で無差別の攻撃。状況はあっと言う間に混乱し、混沌として行く。
怪我を負ったものは痛みを訴え、そうでないものは恐怖に嘆く。
次は自分かもしれない・・・そんな思い込みが逃避に駆り立て、周りを押し退けてでも脱しようとする。
こいつらは兵士だ。
だが、1つの部隊なんかじゃぁねぇ。
侵入者と知らされて集まって来ただけの烏合の衆。
初めから統率なんぞ取れるわけがねぇんだが、それでも俺は逃げようとする奴を狙った。
いや、そいつだけじゃなく、そいつの周りに居る奴をも。
そうすることで余計に恐怖を助長させた。
逃げようとした奴に押し退けられた奴を斬れば、そいつはさらに逃げまどい、逃げた先でそいつを斬れば、逃げた奴やその近くにいた奴が斬られるという印象を与える事ができる。
かといって、そんな恐ろしい状況でじっとしていられる奴ばかりのわけもなく。誰かが動いては釣られたように、堰を切るかの如く逃げ出す者達が現れる。
人だかりを押し退けて、どうにか自分だけは安全圏へと。
重要なのはそいつを逃がさないことじゃねぇ。
その流れを操ることだ。
どういうことか? 早い話が、俺に近寄らせないための演出だ。
ライザード達と合流する階段がある方向へ逃げ出し、先頭を走っていた奴の前に立ちふさがる。
「――っ⁉⁉ なんでッ⁉」
唐突に現れた敵を前に、兵が動きを止めた瞬間。
「うぎゃぁあああ‼‼」
下から上へ。顔面を切り裂く。
その衝撃を受け、兵士は天井を向いたようなままの姿勢で後ろへ倒れ込む。
すると、バッサリと抉られた顔面が鮮血と共に露わになり―――続く全員へ知らしめる。
コイツに近づいてはならないと、近付かれてはならないと。
倒れたままピクリとも動かない兵士がその証左であると。
そう理解させるため一瞬の間を、睨みで埋める。
凍り付いた時間がジワリとにじり寄る恐怖に溶かされたのか、波のように前から後ろへ。早く動けと熱を与えられたみてぇに、触られた者から順に。最後には1人残らず逃げ出した。
俺が望んだ通り、階段からは遠くへ。
足元で転がる兵士にはもう一働きして貰おう。
恐怖と痛みで気絶したようだが、死んじゃいねぇんでな。起きられて恐怖が薄れりゃ追撃を誘発させるかもしれねぇ。
おあつらえ向きに目玉ひん剥いて気絶してくれてることだし、幻惑魔法でもうしばらく眠っててもらおう。
その方が敵の足取りを重くしてくれるだろうからな。