作品タイトル不明
side――ライザード・F・ガルバリオ
帝国を訪れてから、自分のちっぽけさに嫌と言うほど気付かされます。
今までではあり得なかった共同生活。
最低限以上の自活。
なにかをしたいと思う欲求に対する行動の制限。
その窮屈さに嫌気がさす自分自身の矮小さにさえ、辟易したものです。
この僕は皇王になるのだと、そのためには見聞を広げることも必要なのだと、言い聞かせてはみるものの。それでおさまりがつくわけではありません。
それでも、場を仕切る人間。ここではゼネスですね。彼に褒められれば、少しは腹に据える事ができました。それはなにも、彼に傾倒しているというわけではなく、あくまでも。自身の努力を評価されているのだという、自己肯定感によるものだと言えるでしょう。
ですが、限度もあります。
こんなニオイの酷い場所に入りたいわけがない‼ これはわがままじゃありません! 酷く当然な一般的理論に過ぎないのです‼
そう強く、強く主張したのですが・・・対案も無しに受け入れられるはずもなく、かろうじてニオイをごまかすための道具を渡されたくらいです。
急遽、魔法を掛けただけの布。それは祈祷というのは? 素朴な疑問が頭をよぎりますが、聞くほどの興味はありませんし、長々と説明されても鬱陶しいので放置しました。
しかし、これを顔に巻いてニオイを紛らわせろだなんて、よくもまぁ皇族たるこの僕に言えたものですね。
しかも言うに事欠いて、似合っている? 普段より男前だ? なんて、言ってくれるじゃありませんか。
ああ本当に・・・――この僕を誰だと思っているんでしょうね?
そう思うのに、いざ重要な話し合いが始まっても、この僕には。その中へ入り込むだけの力がない。
ここ帝国の地では、皇族の力さえ及ばない。であればこの僕はなど・・・ただの子供にすぎないのだから、致し方のないことでしょう。
だから、
「巻き込んでおいて、こんなことを言うのは虫のいい話だとは思うのだが、帝都城強襲の際には・・・そちらの少年はここへ残ってもらいたい」
フリードリヒとかいう帝国の将軍にそう告げられた時には、心臓を掴まれたような感覚になりました。
役に立たないのだから当然だと諦める気持ちと、こんな場所に1人残される恐怖が絡み合いながらせり上がって来ます。
「なっ‼ いきなり、どういう⁉ 冗談でしょう⁉ この僕を誰だと――」
「――断る」
思っているんですか⁉ そう続けて、それから―――・・・・。
ここの環境の劣悪さや。皇国の人間として、帝国の人間を心の底からは信用できないと言って、どうにか要求を跳ね付けるつもりでした。
ですが、それよりも早く。
何よりも先に。
「コイツの覚悟をてめぇの尺度で測るなよ。どうするかを決めるのはコイツ自身だ。戦況的な判断? 政治的な都合? そんなもん、知ったことかよ! 俺達にはいつだって、降りるって選択肢があることを忘れるな‼ 選ぶのはこっちだ‼」
この僕に選択の機会を与えると。それを尊重するという。
なぜ・・・?
この僕を丁寧に扱ったことないでしょう? 皇王を重んじていても、この僕のことなど――そこで思い出しました。
今回の件は皇王陛下直々のお達しだと。
であれば、この僕でさえ丁重に扱ってみせる。そういうことでしょうか?
諦念、焦燥、恐怖、安堵、信頼、疑念、嫉妬。
目まぐるしく襲い来る感情の波。それに振り回されている場合ではない。
分かってはいるのです。ですが、
「どんな危険からも守ってくれるのでしょう? ならば、付いて行きますよ。ええ、どんな結末になるか。この目で確かめさせてもらうとしましょう」
少しくらいならば、嫌味な態度を取っても許されるでしょう。
この僕を不安にさせた罰です。