作品タイトル不明
帝国へ。三味
『こんなところで話すわけにもいくまい。場所を変えるぞ』
後から悠々と現れた将軍にそう言われ、さらに奥へ。
「ここは?」
「先程聞いたであろう? 浄化装置の技術者のために用意された休憩所だ」
休憩所――というには、あまりにも家過ぎる。
玄関こそないが、寝室以外に。居間、台所、便所、風呂まで・・・・・・、これが常時使われてねぇとなれば、そりゃぁ住みつく奴も出てくるわけだ。
「ここは元からあったんだったな?」
「そうだ。街の方はこちらに合わせて拡張した。正面にあった橋も、後から架けたものだ」
「だろうな。ご丁寧に通路の幅が変わらねぇように壁を削り取ったんだろう。アンタの仕業か?」
「この地下街の歴史はもっと古い。私の恩師とでも言うべき人の業だ」
「恩師・・・・・・ね。それが原因で将軍なんざやってんのか? それとも、冒険者の方がそうだったのか」
俺も俺で、恩人の顔を思い出す。
牢獄のような要塞を出て、周囲とも馴染めず、ただ強さだけで生きようとしていた幼少期に出会ったおっさんを。
ここへ出向く前にも挨拶をしに行った顔を。
「そのどちらも・・・だろうな。恩師はより多くの世界を見よと言っていた。そして、将軍職でもあった。だが今、こうしているのは―――俺の意思だ」
その答えはどちらでもよかった。
俺も人のことは言えねぇ流される人生だ。ただ、ハッキリと口にした最後の言葉だけは信じてもいいと、そう思えた。
「なら聞いておくが、市場の商人はアンタの仕込みか?」
「そう思ってもらって構わない。身内ではないが金を握らせた商人だろう」
「俺達の特徴を教えておいたのか・・・不用意だとも思うが、仕方ねぇか。後は・・・そうだな。橋の下は見張らせてたか?」
「いいや。ここにはここの――と、言われなかったか?」
「っつーことは、貧民街の連中か。戦力に数えてるのか?」
「まさか。金を握らせたところで逃げるのがオチだ」
「一安心だな。もしそうじゃなかったら、俺達が逃げてたところだ」
「背中を預ける相手ぐらいは選ぶさ」
「それで選ばれたのが敵国の人間だってんだから、世も末だな」
「その世を終わらせようというのが姫様だ。故に、必然である」
相変わらず、こういう返しは達者だな。
「それで? 酔狂でこんな所へ連れてきたわけじゃねぇんだろ? この後はどうする?」
「言うまでもないかもしれないが、城への抜け道がある。それを使ってここから強襲を仕掛ける」
「ま、予想通りではあるな。だが、だとすりゃぁ言っとくべきことがあるんじゃねぇのか?」
ここで予想が当たるということは、もう1つの懸念も的中することと同義。
それを肯定するように、フリードリヒを名乗る将軍は口を噤む。
「どういうことだ?」
一瞬の静寂にさえ気になったのか、あるいはそれを許したくなかったのか、サンが俺に聞いてくる。
「今の話を聞いただろ? 強襲。つまり、城はすでに占拠されている・・・違うか?」
集中する視線に参ったのか、一拍の間を開けてから首肯する。
「その通りだ。城は既にミレ様率いる一派の手中にある。我々はそれを食い破り、勝鬨を挙げねばならぬ」
「どうしてだ? 帝国へ来たばかりの頃には五分って話だったじゃないか。それがどうして、敵に城を占拠されるような事になってるんだ?」
まっとうな疑問を持つサン。あるいは全員に分かるように話せという主張かもしれない。
「情報を把握しきれなかったか、それとも。腹の中に虫でもいたか?」
「どちらでもない、はずだ。情報取りは広く行っていた。その上、同じ人間ばかりに任せていたわけでもない。故に、全体を騙すことは不可能だったと言える。だがそうなればこそ、敵の力を見誤っていた。ということになる」
「要約しろ。どこを見誤っていた?」
「わからん。ミレ様の統制力か、望福教の求心力か。しかし強い力だ。城に残っていた政務の連中も、まるで操られたかのように向こうへついた。敵方の南下速度が速かったのも、そこらが原因ではないかと踏んでいる」
「精神操作の魔法は教えといたはずだが?」
「甘く見ていたつもりはない。政務の連中にもそれとなく伝え、対策させたのだ。だというのに・・・だ」
それほど強力だったか? と、ジーナを連れて皇国軍の施設へ潜入した時のことを思い返してみるが、ベルの収監をとっても、あまり即効性があったとは思えない。
また別の方法か・・・・・・―――だがそんなものがあるんなら、皇城の前で。教祖が追い詰められた時にでも使ったんじゃねぇのかとも思う。
ただそれでも。
ないとも言い切れねぇせいか、どうにも胸騒ぎが収まらなかった。