作品タイトル不明
帝国へ。一考
「始まりはなんだった?」
「なんだったのかしらね・・・気付いたらこうなってたのよ。ただ、間違いないのは暗殺があったってこと」
暗殺――確かに聞いたな。
「帝王が殺されたんだったな?」
「ええ。でも、それだけじゃないわ」
「それだけじゃない?」
「私の兄・・・と言っても、特別親しかったわけじゃないけれど、継承順位の高い王族が立て続けに殺されたのよ。殺害方法は全員同じ。夜間、何者かに呼び出されたところで胸を一突き。争った形跡も、抗った形跡もないことから、顔見知りの犯行だと言われてるわ」
本当にそうか? そうだったとして、警戒が薄すぎる。あるいは、警戒させないだけの立場の人間だったか・・・。
「そんな顔しないで! 分かってるわよ。同じ方法で何人も、なんて・・・警戒心がないのかって言いたいんでしょ? 私だってそう思ったわよ。でも、現にそうなってるんだから、なにかあるのよ! ・・・それがなにかまでは分からないけど、そうじゃなきゃそうはならないでしょ⁉」
あまりにも言い表し辛い状況に、言葉が破綻しそうになっているが、いいたいことは分かる。
原因はわからねぇが、確実に種はある。そういう話だ。
「それはいいんだが、それだけの理由で望福教が台頭しだしたのか? 教祖様を信じれば、貴方の願いが叶います‼ とでも触れ込んで?」
「流石に王族が何人か死んだだけで、特定の宗教が蔓延ったりはしないわよ。帝王が死んじゃったのは国民からしても予想外だったでしょうけど・・・、問題はその後。王位継承の候補者から、望福教を支持する人間が出たのよ」
「十中八九、そいつが暗殺の犯人だな」
「私もそう思ったけど、実行は無理よ」
「なんでだ?」
「面識がないのよ。私と同じ立場だから。帝王様――つまり、実の父でさえ、ほとんどあったことがない。年の離れた兄なんて、名前も知らないぐらい」
「だが、相手は妹であることは知ってるし、継承権を持ってることも知ってると・・・だとすりゃ、呼び出されたところで警戒はするだろうし、夜間の呼び出しになんざ応じやしねぇ。対応も公式に屋敷か城で行う、か・・・」
「そういうこと。私にとっては姉にあたる人よ。役職は北部防衛指揮総司令。北大陸からの侵略を抑えるのが役目。私と同様、名ばかりだけどね」
望福教が南下して来てるのは、それが理由か。
「私達に――っつってたのは、そういうことか。そいつは元から王位に興味があったんだな?」
「そうよ。だからみんな疑ってる。持ち上げてる望福教も含めてね。でも、なぜか国民は望福教を受け入れてる・・・・・・私達はお飾りのはずなのに。侮られているから、いくら前に出たって、誰にも理解されないのが当たり前。私自身に覚えがあるから間違いないわ。なのに、どうして?」
姉にはそれだけの人望があった・・・そう思えないのは、現実から目を背けたいからってだけじゃぁねぇんだろうな。
「望福教は精神操作の魔法を使う。多分そのせいだろ」
「はあ⁉⁉ なによそれ⁉ どうやって⁉⁉」
「詳しくは知らねぇが、皇国では診療所を開いたり、商会を抱き込んだり、皇城の中にまで。その手を伸ばしてやがったよ」
「そんな事ができるなら、暗殺なんてやり放題じゃない‼‼ 親しい人間を操ればいいだけなんだから‼‼」
「実際、皇都でも同じようなことをやろうとしてたはずだ。下手してりゃぁ陛下が・・・なんてのは考えたくもねぇよ。今この国で起こってることは、その代わりって可能性もある」
「なんてことしてくれてるのよ・・・とは言えないわね。アンタ達は未然に防いだだけ、同じように出来なかったのはこっちの落ち度だもの」
それをすんなりと飲み込めるのは大したもんだが・・・・・・、
「皇国での失敗を理解してたから、強引な手を打ってきたのかも知れねぇな。皇国と比べりゃ、帝国の進行速度は異常だ。明らかに速すぎる」
全く同じだったわけじゃねぇだろうことは確実。悔いても仕方ねぇこともある。
「そっちではどうだったの?」
「こっちは皇都から始まったが、数か月経って雰囲気を変えるのがやっとって感じだったな。いよいよ宗教革命を起こそうってところで、俺が介入して止めた。事前の仕込みはもっと長いはずだが、それは皇国に限らねぇだろ」
「宗教革命・・・その差もあるんでしょうね。そっちでは冒険者の活躍もあってか、加護信仰が盛んなのよね? だから止められた。けど、帝国にはそういう宗教がないわ。個人で信奉している人はいるかもしれないけれど、国が認めてる宗教はない。国民が信じるべきは帝王でこそあるべき。今までそうしてきて、問題がなかった。でも、その帝王が死んだ今。国民は信じるものを失って、次に信じるものを探してる。そんな中、次なる帝王さえ――だから、この速度ってこと・・・?」
不安は人を駆り立て、恐怖はいとも簡単に選択を誤らせる。
そう言った心の隙間を縫うような宗教のことを、人は邪教と呼ぶのだろう。