作品タイトル不明
謁見の間にて
「皇王陛下がお呼びです」
皇城からの使いを連れたサンパダにそう言われ、俺はすぐに馳せ参じた。
「事後の報告が遅くなり、誠に申し訳ございません」
皇王陛下の前へ出ると同時に、俺は頭を下げる。
「良い。そのようなことで呼び出したわけではない」
そんな俺を軽く手で制して、陛下は皇王の椅子に腰かけたまま笑う。
そう、望福教の一件が一応の収束を見せたことにより、陛下は体調不良から治られ、今一度玉座に座られた。
そんな陛下の隣には見覚えだけはある御父上の顔があった。
「では、どのようなご用件でしょうか?」
「うむ。ダンデよ。連れて来るがいい」
「承知しました」
御父上は言われるがまま、少し外したかと思うと、予想外の人物を連れて戻ってきた。
「ゼネス。この者のことは知っているな?」
「名前程度ですが・・・なにしろ同僚ですので」
そこへ連れてこられたのは、隣の教室を受け持っていた女教師マルチナ。
例の教祖とぶつかり合ったあの時、周囲の壁を演じていた1人でもある。
「ダンデから聞いたところによると、彼の宗教は貴族学園にも根深く関わっていたそうだ。そして、その者こそがそれを証言してくれた」
「彼女が・・・ですか?」
「そうだ。しかし、話を聞くとどうも腑に落ちぬ点があってな」
「それは?」
「その者がここに残った理由だ」
確かに、望福教の信者の内、この皇都に残った人間はほとんどいない。
いや、望福教に入って日の浅かった皇都の住人達は残ったが、それは精神操作が解けた影響だと考えられる。
根っからの信者となると、それこそこのマルチナぐらいだろうか?
「彼女はなんと?」
「そなたのせいであると」
「私の・・・・・・?」
「いかにも。そなたの存在こそが、全てであると」
嫌な言い回しだ。
恐る恐る視線を向けると、熱い視線と交わってしまう。
すぐさま視線を戻しながら、陛下へ問いかける。
「私になにをご所望でしょうか?」
「その者の情報が信じられるかどうか、見極めてほしいのだ」
「つまりは嘘を暴けと・・・そういうことでしょうか?」
「遠からず――といったところだな。正確に言うならば、我らにその者の言葉を信じさせてもらいたいのだ。寝返った理由が個人というのも、疑いに拍車をかける。真偽以前の、信用の問題なのだ」
なるほど。マルチナがあまりにも不気味すぎるせいってわけか。
まぁそうだよな。
宗教ってのは信念に近い。
そうやすやすと鞍替えできるものじゃないはず。
なのに、このマルチナは俺個人を理由にその信念を大きく折り曲げた。
だが、どう見てもあの視線は愛だの恋だのいう感情じゃなく、もっと一方的で勝手な感情にしか感じられない。
だから信用に値しないと思われた。
軍からは偽装や演技の類だと判断されたってわけだ。
「わかりました。それで、私はどうすればいいでしょうか?」
「しばらくその者の面倒を見てやってはくれぬか? 復讐であれば、矛先はそなたへ向くであろうが・・・」
「その程度、どうということはございません。しかし・・・」
「分かっておる。教師であることを優先したいのあろう? ライザードも世話になっているようだしな。しかし、学園は今。その者の情報を基に調査中であり、まだ当分は再開できそうにない。遠方から戻って来られぬ生徒もいるようであるし・・・その間だけで良い。その者の心根を見極めて欲しい」
もう一度マルチナを見ても、熱視線は勢いを落とさず降り注いだまま。
かといって、皇王陛下直々のご命令とあらば、断れるわけもない。
「了解しました。この不肖ゼネスが、この者の心根。試させていただこうと思います」