作品タイトル不明
俗世間の反応
あの一件から数日。
皇都では混乱が起きて――・・・などなく。
むしろ、何事も無かったかのような日常が続いていた。
「さて、周囲の人間はいつまでこの僕を放置しておくつもりでしょうね?」
マンサ商会の用意した部屋でライザードが愚痴る。
「皇城はまだ浮足立ったままなんじゃねぇか? 望福教を手引きしてた連中が居たんだろ?」
「ええ。ですが、精神魔法による支配や操作の確証がありませんので、処分するべきかどうか・・・で揉めているようで。おかげで、この僕はこうしてまた貴方の近くへ置かれているということですね」
「僕は殿下が居てくれて嬉しいけどね。叔父様と2人だと凄く困るから」
「エイラスはマンサ商会が実家だし、ジェーンとビューティーは実家が皇都にあるからな。ここへ残る理由がねぇ」
「そんなことより、2人でいることを”凄く困る”と、バロンにそう言われていることを気にしてはどうです?」
底意地の悪そうな笑みを浮かべるライザード。
「構わねぇよ。教師と生徒なんだ。居心地の悪さぐらいあって然るべきだろ」
「そういうことじゃなくて、叔父様はあんまりじっとしててくれないでしょ。なにかと人が出入りするのもあって、落ち着けないというか・・・」
「ああ! 不遜にも神を自称したんでしたね。それで、なにか変化はありましたか? 周囲の反応だったり、集まってくる人物の性質だったり」
「多少はな。てんで変わらねぇお前らのような奴の方が珍しい。擦り寄ってくるような連中については、周りにいる誰かしらが対応してくれるおかげで気にせずに済んでる。いや、ありがてぇこった」
「まったく。皇王の存在を揺るがすような発言をするからですよ。この僕が皇王に成ったとしても、その上に神が鎮座していたんじゃ拍子抜けです。早いところ撤回するなりして欲しいものですね」
「別に神って存在になったわけでもねぇし、それで皇王陛下を軽んじるつもりもねぇよ。お前はお前のままだけどな。ただ、教会の定義上、神に近いってだけの人間だ。偉くもねぇし、万能でもねぇよ」
「そういうところは変わってなくて僕も安心した。でも、学園はどうするの? 教師は続けられそう?」
何気ないバロンの質問だったが、ライザードの表情が一瞬、張り詰めたように見えた。
「特に辞める理由がねぇよ。生きてく上で収入は必要だしな」
「そうでしょうね‼ ですが、教会でふんぞり返らなくてもいいんですか? そうしていても、誰も文句は言わないでしょうし、楽に生きていけますよ」
「いいように扱われるのは好きじゃねぇ。あの教皇の爺さん・・・あれで人使い荒いんだよ。教会へは、たまに手伝いに顔出して小遣い稼ぐぐらいがちょうどいいんだ。昔からな」
なぜかちょっとだけ機嫌が良さそうなライザード。やっぱり俺が神のような立ち位置に行くのは嫌なんだろうな。
自分が一番偉くなりたいとは、まだまだ子供だな。
「・・・って言っても、学園はしばらく休止になるんだよね?」
「実地演習から戻ってこれてない学年もあるからな。それに、望福教が貴族学園に関与していた証拠が出てきちまったせいで、色々と調査も入るようだしな」
「その調査に乗り出すのが軍だと言うのだから、意味があるのか甚だ疑問ですがね・・・・・・」
他に公正を冠す機関がない以上、頂点である将軍が精神操作をされた疑惑があろうとも、軍が出動することになるのは仕方がない。
「お爺様の様子は?」
「ベルが言うには平常な状態にあるらしい」
「なぜ人伝手なのでしょう? 直接話したのではなかったのですか?」
「そりゃ話したがな。元を知らねぇんじゃ判断のしようがねぇよ」
「なるほど。そういうものですか。では、そのベル? という方の言葉は信用できるので?」
「そう思ってたんだがな。この間の一件以来ちょっと怪しいかもしれねぇ」
「なにがあったの? 叔父様」
「それがな? あの野郎、日記の付け方が無駄に詩的になってやがって―」
などと。くだらない話をしていると、
「ゼネスさんはいらっしゃいますかな?」
家主のサンパダが顔を出した。