作品タイトル不明
side――ベルザフォン・C・ノクアッド3
嫌な予感は確信と共に的中した。
加護レベルを上げるッ⁉
できるのか⁉ そんなことが⁉⁉
・・・・・・いや、できるんだろうな。
じゃなきゃあんな話し方はしないし、会話をこうも誘導しないだろう。
いつからだ? いつからそんな事ができた?
加護を持って無いことさえ知らなかった俺に、そんなのは分かりようもないんだろうが・・・・・・。
親しいと思っていた友を遠くに感じたせいで自虐的になりつつ、なんとはなしにダンデ将軍へ視線を向けた。
無意識に自分のやるべきことをやろうとしたのか。あるいは、将軍は知っていて当然だと思っていたのか。自分でもわからない。
ただ、
「―――ッ⁉⁉⁉」
そこには見たこともない顔があった。
驚いているだけじゃない。
悔いているような、恥じているような、謝っているような。
目も口も。開いているのに機能していないような。
そんな表情だった。
「知らな、かったんですか? 将軍・・・」
「・・・知らぬ。そのような力は・・・・・・でなければ―――」
でなければ? でなければ、なんだというんだろうか?
ダンデ将軍はそこで言葉を止めてしまった。
けれど、将軍が知らないということは、アイツを実家を出てから手に入れた力なんだろう。
あるとすれば、ギフト。
子供の頃なら自分のギフトを自慢するということは珍しくもない行為だ。
一番簡単に特別感を得られるから。
俺達の教室でもそういう話が横行していた瞬間があった。
その時、アイツはなんて言ってたっけ?
・・・・・・そうだ。多分。
『知らない』
そう言ってたはずだ。
あの頃のゼネスは荒んではいたが、嘘を言うような奴じゃなかった。
生い立ちを聞く限り、そんな余裕がなかったんだろう。
だったらいつ?
その答えはもう知っている。
教会へ出入りするようになってからだ。
そうでもなければ、加護無しと蔑まれていた奴が教会へ寄り付こうなんか思うはずがない。
だったらなんで、その時点で加護を上げる力のことを公表しなかった?
それこそ、復讐でも逆襲でも思いのままじゃないか‼
ここでアイツの言葉を借りるなら、逃げたってことになる。
なぜ?
そんなの幾らでも答えはある。
けど、一番の理由は”嫌だったから”なんじゃないのか?
神という立場が、持ち上げられるという行為が、縛られる状況が、嫌だと思ったんじゃないのか?
力があって、見返したいと思う相手が居て、それでもしなかったのに。
「・・・なんで今になって?」
「・・・・・・民のために立ち、自らのために誇れ」
「ッ⁉」
ビックリした。
俺、声に出てたかな?
急にダンデ将軍が皇王陛下のお言葉を呟くから。
『民のために立ち、自らのために誇れ』
帝国との戦争が激化した時に陛下が、貴族や軍人へ向けて送った言葉だ。
私腹など考えず、守るべきもののために戦い、それこそを財産としろ。 そんな意味の言葉だと学園で教えられた。
そして、それは一時期。俺達の口癖だった。
ゼネスに貴族としての言葉や立ち居振舞いを教える時によく使ったからだ。
もしかして、それを今になっても忘れずに。律儀に守ろうとしてるのか?
そんなことのために、お前は自分を犠牲にしようっていうのか?
神様とやらになって! その後どうするつもりだ‼ どうなるつもりだ‼
他にもっと‼ やりたいことないのかよ‼‼‼
俺だって。貴族として、軍人として。やらなきゃいけないことばかり。
もっと自分のやりたいことがある。そう思って生きてるのに。
冒険者として好き勝手生きてきたお前が‼ それをやめたからって、全部投げ捨てる必要なんかないだろ‼
そう叫んでしまいたかった。
でも違う。
きっとゼネスはこう言うだろう。
『俺が自分で選んだんだ』
頑固な奴だよ! お前は‼
だからこうと決めたらもう譲らない‼
それなら俺も‼ できそうにないことでも、やらなきゃな‼
「将軍、貴方はいいんですか⁉ アイツはあのまま・・・神になりますよ⁉ くだらない理想論のために! より多くの幸せの犠牲になります‼ なのに貴方は‼ 守るべきものを見誤ったまま、なにも出来ずに! 責任まで息子に押し付けることになる‼」
肩を掴んで呼びかける。
あくまでも静かに。例え、声が届きそうになくとも。
この感情にだけは逆らえないから。
「あの手紙はなんだったんですか⁉ 側近の自覚を持って、躍進の旗となり、貴方の意図を理解しろって⁉ どうやって⁉⁉ 立場は奪われ、進むべき道は途切れ、その真意はわからないまま‼‼ どこへ行こうって言うんです‼ アレは反攻の手紙でしょう⁉ その合図はいつです⁉ いつまで!! 指をくわえてみているつもりなんですか‼」
そうだ。あの手紙は間者の存在を示すのと同時に、時期が来るまでの潜伏と反撃の意志ありを伝えるためのもの。
心のどこかで信じていた。
全て演技だと。わざと手の内に入り込んだのだと。
必ず。逆転の手を用意していると。
そう信じていた。
この国を救った英雄だからじゃない。
どんな時でも劣勢を覆してきた俺の悪友。ゼネス・C・グラーニンの父親だから。
きっとそうだと。思っていたんだ。
それこそが繋がりだと、勝手に思っていたんだ。