作品タイトル不明
離間の刻13
敵愾心はわかる。憤怒もだ。
俺が今やって見せたことは望福教がやって来たことそのままだからな。
会話による願望や欲望の聞き出し、そして誘導。
そうすることで、さも奇跡を起こしたように見せかける。
違いがあるとすれば、加護なんつーわけのわからねぇもんを使ったことぐらい。
だから羨望や嫉妬もまだ理解できる。
普通は加護をどうこうなんざ出来ねぇからな。
反則だと感じても不思議はねぇ。
だが殺意はどうだ?
念入りに進めていた計画を潰したから?
まぁ、確かに。無くはねぇだろうが・・・・・・それにしたって、恨みの籠り過ぎた眼だ。
それだけで今にも射殺すような眼差しになるもんか?
いや、計画にかけてきた思いも時間も知らねぇ俺に計り知れるもんじゃねぇのかもしれねぇが――。
「申し訳ありません‼ 教祖様ッ‼‼ 私はッ‼‼」
そうこうしているうちにグレンゼーが教祖に泣きつく。
「構わないですよ。グレンゼー。貴方は貴方が望むように生きなさい」
「違うのです‼ 違うのです・・・私は! まだ‼ 望福教に残っていたいのです! このような結果になってしまっても‼ 私を救ってくれた望福教に‼ この想いは‼ 嘘ではないのです‼‼」
「なにを信じるのかは貴方の自由です。私がそれを否定することはありません」
「教祖様‼ 教祖様ッ‼‼」
あれだけの眼を瞬時に切り替えた教祖はグレンゼーに許しを与える。
「貴方も、それで構いませんね?」
「何度でも言うが、信仰は自由だ。正義でさえ、己で決めるがいい。それが法に触れぬ限りは誰にも口出しなどできぬ」
ついでといわんばかりに確認しやがって。
さっきまでより上機嫌に見えるのは手駒が残ったからか?
「しかしだ。これで分かっただろう。貴公らの言う至急の相談とやらは、皇王陛下の耳に入れるまでもない些事だということが。この国には神の加護がある。神をも超える人が居ないのであれば、神を据えるまでだ」
「それはどうでしょう? 神の加護があれど、人の望みが叶うかは別問題。なにより、我ら望福教は軍の要請を受けて――」
「―――それはもう結構だ」
教祖の言葉を遮ったのは、今までもよりも幾分かハッキリとした口調で話す御父上。ダンデ・L・グラーニン将軍であった。
「・・・もう結構とは?」
「神が居らぬなら望みを叶える手段をと思ったが、そうでないならば神へ祈ろう。戦の責任を只人が負うには重過ぎる。一時の気の迷いで世話を掛けたことを謝罪しよう。大儀であった。これ以降、その責は負わなくて結構だ」
つまるところ、軍が望福教から脱退するという宣言だ。
そう言い切る御父上の隣では、ベルがこちらへ向けて一仕事終えた顔で視線を送っていた。
なにをどうしたのかはわからねぇが、精神操作を解除させることには成功したようだ。
「では、これからは貴方が神となると?」
「私は神を名乗るほど恐れ知らずではない。ましてや、それを超える存在だなどと宣うつもりは毛頭ない。貴様とは違ってな」
再度、射殺すような禍々しい眼差しで刺されたので、嫌味で刺し返す。
「神など・・・存在しない‼」
「そうであろうとも、決めるのは貴様ではあるまい?」
「・・・・・・後悔するがいい」
吐き捨てるように呟くと、外套を纏い直して踵を返す。
「では、後悔する前に聞いておこう。貴様の名は?」
「ここで答えずとも、すぐにまみえることになる。神を代行する愚か者よ。汝がその道を進むのであれば、な」
そのまま教祖は振り返りもせずに歩いていく。
後ろを追うのはグレンゼーのみ。
俺達を囲う観衆からは、その背に続く者は現れず、ただ静寂と混乱の狭間だけが切り取られ損なったかのように、広場に転がったまま。
天に高く君臨した太陽も、首をかしげるように傾く。
それぐらいにあっけなく。
宗教戦争は突如として幕を閉じた。