軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

離間の刻8

「ッ⁉⁉ これは・・・・・・なんと・・・」

「お分かりですか? 醜いでしょう? この眼は。故に、普段は秘匿しているのです。見たことがありますか? こんな眼を」

「いや、そのようなことは・・・」

口を覆いそうになるほど驚いていた爺さんが、なんとか誤魔化すように濁して返すが、

「目は口程に物を言う。我々望福教の中では、それを暗黙の了解として、お互いに探り合わないよう、頭巾を設えた外套を纏うことを礼儀としています。我々はお互いの望みを蔑んだり嗤ったりはしない主義ですので。それは我ら自身が向き合ってきた現実を鑑みての判断。そう、貴方の目のような雄弁な視線が突き刺さるほど・・・この眼が醜いものだと理解してきたからです」

驚いた時点で結果は決まっているようなもんだ。

「流石は教祖様‼ 偉ぶるだけの教皇などとは比べ物にならない‼」

グレンゼーはそういって喜んでいるが、その他の反応はまちまちだ。

ま、人の顔に竜の眼がついてりゃぁ気味悪がられても無理はねぇが・・・それで傷付くほど繊細なたまにも見えねぇんだよな。

なんつーか、口実・・・おべんちゃらってやつだ。

そうでもなけりゃ、こんな気楽に正体を明かしたりなんざしねぇ。

一種の交渉術。見せ札にも近い。

自分を弱者に仕立て上げ、相手を責め立てるための手段に過ぎねぇ。

「そのような些末なことはどうでも良い。次は名を明かしてみせよ」

「・・・この眼が些末―――でしょうか?」

「そうだと言ったはずだが? それとも、それほどの大事だったか?」

「我が人生においては」

「であれば災難だったな。それで目の色を変えられたというのだから皮肉でもあっただろう。しかし、卑下と敬意は釣り合うものでも、渡り合うものでも、ましてや張り合うものでさえもない。顔を隠す、名を偽るなどの不信行為の理由にはならぬ」

「敬意を持てばこその気遣いだとは思われませんか?」

「この私が貴公の眼を見た如きでたじろいだか? 答えは否だ。さすれば、この私などより余程できた人間であらせられる皇王陛下が、そのようなことを気に留めたりなどするわけがなかろうよ」

「・・・この眼が気味悪くはないと?」

「正体を知らねば恐れるのも無理はないだろうが・・・生憎とな。そのような眼には覚えがある。つまり、私はその目について。既に知っているということだ。その上で、恐るるに足らぬものだと理解もしている。気味を悪がる必要など、どこにある?」

この時初めて、教祖はその眼を見開いていた。

あからさまな動揺が見て取れた。

これは大きな前進だ。

この教祖には感情があることは確定した。そして、それを完全に隠せるほどの胆力を持ち合わせてもいない。

なにより、俺の言動が完全に予想外だったことの証明でもある。

なにをどこまで企んでるのかは知りようもねぇが、今この時点で完璧な計画ではなくなったと見てもいいだろう。

なぜなら、俺は必ずコイツの邪魔をするからだ。

「おかしなことをおっしゃる。この眼を、見たことがある? どこで⁉」

「南の霊峰と呼ばれる山。アドレスにあるサルベージという街で」

「いったい、いつ⁉」

「年の変わるころに彼の山の上を竜が飛ぶのだ。その時にな」

「―――ッ⁉⁉⁉ そんな、馬鹿な⁉」

竜という言葉に反応したな。

っつーことは、コイツ自身。自分の眼がドラゴンのそれだって知ってやがるんだな。

「いや・・・いや‼ そのような言葉は戯言だ‼ 同じ目を見たなどと‼」

「少し調べれば証言はすぐに集まるはずだが・・・むしろ、あのような珍事を知らぬのか? それとも証明でもして見せれば満足か?」

「・・・証明を、できると?」

「よく見ているがいい」

そう宣言し、俺はさっきジーナから教えられた魔法を使って半透明になる。

これは自分自身の次元をズラして存在している状態――らしい。

分かりやすく言うと水面に映った姿に近い・・・という説明を受けた。

水面の代わりに次元断層の壁に姿が映っている状態なんだそうだ。

次元の壁っつーと、あの虹が押し込められたような壁だ。

あの防御壁と違って、この魔法は干渉を拒絶しているわけではないから、人や物が壁にぶつかったりはしないらしい。

それと同様に、俺の体も次元の向こう側にあるせいで、世界の干渉から逃れる事ができるんだと。

人垣を押し退けずに突き抜けられたのはこれの恩恵だ。

ついでに、水面に映ったそれとは絶対的に違う点がある。

それは、あくまでもこれが魔法で起こした現象だってことだ。

どういうことか?

水面に映った自分は波打ち歪むことはあれど、自分以外の姿にはなれない。

だが、この魔法ならば形も大きさも好き放題に変えられる。

――即ち。

急に俺の眼が龍王のそれと同じになっても、おかしくはねぇってことだ。