作品タイトル不明
離間の刻6
「正面から・・・というと、お主。神を自称する気か?」
「他にねぇだろ? 多分だが、向こうも同じことをやってくるぞ」
「それはそうだが――しかし、良いのか? お主の望む道ではなかろう? 今すぐにとはいかなくとも、他の解決策も見つかるかもしれん」
「ねぇよ・・・・・・そんなもん。見ろ!」
爺さんはどうしても負い目を感じてそんなことを言ってしまうんだろう。
息子の言葉が。自分に、孫に、浴びせられた言葉が。まだ後ろ髪を引くんだろう。
こんなはずじゃなかったと。
けど、顔を上げて前を見ろと促す。
「俺達の前に出来上がったこの壁は、全て偽りに塗りつぶされてできた壁だ。
騙されて、操られて、そうやってできた壁だ」
まとまりもなく、ただそこに集まるだけの人だかり。
扇動者の言葉に流され、手振りに煽られ、思想を共有させられた人ばかり。
「国民全部をあんな風にするつもりか?」
「宗教とは・・・心の拠り所。生活に根付き、共にあってこそ。例え国教から変わったとて―――そのように考えて居った」
「そんな甘い考えが招いた結果がこれだ。ここで止めなきゃ国が亡ぶぞ」
「いいや、甘えた結果ではない。甘えさせなかった結果がこれなのだ。どこまでも儂は・・・」
「だからって、俯いてる場合じゃねぇだろ? できることをやるんだ。本当かどうかなんざどうだっていい。向こうがだまくらかそうってんなら、こっちも同じく騙してやりゃぁいい。優しい嘘なんかじゃねぇ。信じたいものを、信じたくなるものを見せてやる」
「・・・・・・後悔はしないか? 誰かの、いや。儂のせいでそんなことになって、望まない道を、背負いたくもない責任を負って、後悔しないか?」
「するに決まってるだろ?」
「だったら‼」
「けどな。やらなくても後悔するんだよ」
「ッ⁉⁉」
面倒なことは嫌いだ。
やらなくていいことならやりたくはない。
だが、
「本当にやりたい事ができるだなんて、もう思ってねぇよ。この歳だ。挫折の味ぐらい知ってる。後悔の意味もな」
できることをやらなかった度に、もしあの時と思うことの虚しさも知っている。
冒険者に”もし”なんて言葉はない。
それは、いつ死んだっていいという気概を持て、後悔しない生き方をしろ。そういう教訓であると共に、取り零したものは戻ってこない、進めない道もある。という示しでもある。
「どっちにしろ後悔するなら、せめて自分で選んだ道で後悔するさ。誰かのせいにしなくていいように。自分で選んだって言えるように。できるだけ抗ってからな」
「ふ・・・それは神を自称して尚、教会には寄りつかないという宣言か?」
「まぁな。立場は利用させてもらうさ。権力もな。それでも、俺は俺として生きる。器用じゃないんでな。アンタみたいに、自分を騙せやしねぇのさ」
「聞き間違えでなければ、これから人々が望んだ神の姿を演じると言っていたはずだが?」
「一時な。演じ続けると言ったつもりはねぇよ。目を覚まさせるような姿を。一瞬だけでも見せられりゃぁ精神操作ぐらい解けるだろ」
「まぁこの人数を1人ずつというわけにもいかんしな・・・それはいいが、道具や方法はあるのか? こっちで用意できるものなら早急に手配させるぞ」
「それらしい姿は魔法でどうにかするさ。さっきちょうどいい魔法を教わったばっかだしな。道具についても持ち合わせがある。つっても、向こうの持ち物にも依存するが・・・そこはどうしようもねぇ。どんなであれ宗教っつー体裁を保ってるなら、その手の証明ぐらい持ってるだろ」
「それらしい魔法――というのは、先程割って入った時のアレか?」
「あぁ。そのまま使うわけじゃねぇが、応用でどうにかなる範囲・・・の、はずだ」
「はず、か。酷く曖昧だな?」
「言ったろ? ついさっき教わったばっかなんだよ」
「変わったな。あれだけ確率論にこだわって居った小僧が」
「そりゃ色々押し付けられて、無茶も無謀も踏み分けてきたからな。時間が人を変えることもある」
「儂も。変われるだろうか?」
「印象は随分変わったけどな。変われば正しくなれるわけじゃない。頑なであることで正すこともある」
「頑固であったが故に変えられ、変えられたがために凝り固まり、それが今変われと迫るのに、それでもまだ。揺らぐなというのか・・・恨めしいな」
「そんな恨み言は連中に、面と向かって言ってやれよ。ようやく御出ましみたいなんでな」
見据える先から現れるのは、またも外套を纏った男。
そこまでして身を隠すなら、反逆なんざしなきゃいいだろうに。