軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

side-蒸気の騎乗者 サン

ギルドマスターブロンソンに頼まれたアスク岩床地帯の偵察結果を伝えるため、俺は単独で皇都に急いだ。

「はぁ、はぁ。アスクレは予想通り蟻で埋め尽くされてた。数は到底数えきれない。救護対象も発見。作戦通りに動く」

「わかりました。すぐに呼んできます」

広場に向かい、近くにいた受付嬢に簡潔に報告して待つ。

先に来たのは指導員の方だった。

「救護対象は見つかったみたいだな?」

「間違いなく確認した。ただ、遠目から見ただけなので詳細までは分かりません」

「そうか」

俺はこいつが気に入らない。

救護対象はお前の受け持ったパーティーじゃないのか⁉ なのに‼ なんなんだ⁉ その態度は‼

「気にならないのか?」

「生きてんなら上出来だろ?」

「生きていればいいのか⁉ どうなっていても⁉」

「そこは自己責任だろ。それに、生きてりゃ怪我ぐらいなんとかなるさ」

言うだけ言って離れていく。

怪我ぐらいどうにかなる⁉ 手足を失うような怪我なら再生魔法が必要になる‼ いくらかかると思ってるんだ⁉ それに‼ トラウマでそのまま冒険者をやめるかもしれないのに、なにをいってるんだ‼

立ち去る背中に一言言ってやろうと思ったところに、

「偵察ご苦労だったな」

ギルドマスターが来た。

「・・・いえ。大方は予想通りです。作戦の通りに動くつもりですが、大丈夫なんですか?」

「ああ。こっちはこっちでどうにかしよう」

「そうじゃないですよ‼ あんな奴に任せていいのかってことです‼」

「なんだそんなことか。問題あるめぇよ。奴はワシが知る中で一番優秀だったからな」

笑って言うギルドマスターに思う。

それは過去のことでしょう?

ギルドマスターが過去に指導員をしていたのは知っている。あいつがその時の教え子だっていうのも分かる。

でも、年齢までは知らないけど、見てくれは30にも届いてないように思え、それでいて引退だなんて実力がなかったとしか考えられない。

最終等級もAだったと言うが、パーティー等級で上がりたてとはいえ俺だってA級だ。それほどの差なんてないように感じた。

子供の頃だけ優秀な人間なんてよく聞くじゃないか。あいつだってその類なんだ。

なんて・・・はやくA級になりたいと言って、お世話になったこの人には言えないが、そう思ってしまう。

「わかりました。でも、なにかあればすぐに介入します。いいですよね?」

「好きにしろ。だが、任務はあくまで監視だ。わかったな?」

すごんでいるわけではないと思うが、そう言うギルドマスターの顔には迫力があった。

「・・・はい」

俺は押し負ける形で返事をするしかなかった。

少し休んで門を出ると指導員と一緒に2人子供がいた。

「もしかして連れていくのか?」

「教官・・・ギルドマスターに連れてけって言われたからな」

やれやれといった反応から、おそらく事実なんだろう。

それにしてもどういうつもりなんだろうか? 緊急依頼の、しかも特別行動に駆け出しを連れて行けなんて・・・。

そもそも、

「どうやって連れて行くつもりなんだ?」

周りには乗り物もない。まさか、一人ずつ抱えていくとか言わないだろうな⁉

「普通に走っていくに決まってるだろ」

「走っていくって――」

「話は移動しながらでいいだろ。さっさと行くぞ。案内しろ」

俺の言葉を遮って走り出す。すごいスピードだ。

慌てて身体強化を使って追いかける。

「待て‼ どこに行くつもりだ‼」

「どこって・・・アスクレだろ? いいから先導しろ」

そうは言うが、ついていくので精一杯だ。出遅れたのも痛い。

それより、

「あの二人は⁉」

なに言ってるんだ? って顔で、答えずに指を指す。

そっちを見れば、子供二人が太い木の枝を足場に飛び移っている。

「初心者には地面より走りやすいからな」

道なき道を行くより、太い木の枝の上を移動する方が楽だというのは聞いたことがある。でも、このスピードでというのはありえない‼ しかも初心者にそれをやらせてる⁉

言いたいことがたくさんある! なのに、息があがる! ついていけない!

そんな俺をみかねたのか、あいつはため息をついて・・・。

「どうだ?」

言われて、なにが⁉ と答えようと思って気付いた。

この感覚。

「 融合強化(フュージョンブースト) ⁉」

「出来ねぇなら言えよ。ったく」

身体強化と属性強化の同時使用。

しかも、詠唱無しで周りにまで強化を⁉

パーティーではサポートだったのか? だとしたら、これが出来るのになんで引退なんか・・・。

気になった・・・気にはなったが、今はただ・・・前に出ないと気が済まなかった。

合図までの間にも聞きたいことがあった。

でも、どういったらいいのか分からないまま、うまく話すことも出来ず、考えているうちに光柱が立つ。

「合図だ‼」

振り返って声を上げた。

けど、そこにはもうあいつの姿はなく、探したころには崖から消えていた。

早すぎる⁉ いつの間にそんな⁉

なんて、考えている場合じゃない!

「スイ!」

「任せろです!」

俺達の中で手伝いを頼まれたのはスイだけだ。

タンもホウも俺も、子供二人の安全の為に周りを警戒してくれとしか言われなかった。

そしてその子供も、装備がおかしいから守る必要があるのかわからなくなっている。

あんな大きな結晶石・・・見たことないぞ。あの籠手も、なんの素材で出来てるんだ⁉ しかもあの高度な罠。聞こえてきた説明だけでとんでもないものだってわかった。

「なんなんだ・・・あの人」

上から眺めてるだけじゃわかることなんてたかが知れてるけど、それでもあの数のモンスターに囲まれて傷一つ負ってないどころか、挑発しながら遊んでるように見える。

踊るように、嘲笑うように、わざわざ蟻の上に乗って戦う必要があるか⁉ 今なんて踏んでいた蟻が動いたぞ⁉ 危険なだけじゃないか‼

気付けば、食い入るように見下ろしていた視界に、ありえない大きさの岩が映り込む。

バッ‼ と顔を上げるとスイが崖淵から覗き込む。

危ない‼ そう叫ぶ早く、ズドォン‼ と岩が落ちる。

「スイ‼ なにやってるんだ⁉ タン‼ ホウ‼ 降りるぞ‼」

そう言って二人の方を向くと、

「必要ない」

「まぁ大丈夫でしょうよ」

のんきな返事で、やる気もなかった。

「なに言って――」

確認しようと視線を戻す途中、下に向けて手を振っているスイが目に入った。

すぐに下を見ると、スイを見上げて手を挙げている。

「当たってなかったのか・・・合図もなかったのに・・・」

「合図なんていらんでしょう」

「影を見ると言っていた」

確かにそう言っていた気がするが、足元には黒い蟻が敷き詰めたようにいるんだぞ? 影なんて見えるのか?

「って⁉ 待て‼ スイ‼」

「え?」

俺が一息ついている間にスイが次の岩を落とす。

慌てて覗き込むが、やはり上を確認したりしない。しないまま、何事もなかったかのように避けていた。

「たぶん大丈夫です! よ?」

スイはそう言って止めることなく次々に岩を落とす。

僅(わず) かな通路の空間を埋め尽くすような岩が落ち、音が響くまでその姿は見えないのに、地面が揺れる頃にはそこにいる。わけが分からない。

「気付かなかった? サン。あの人は強い」

「だなぁ。ありゃぁ相当なもんだ。なぁんで皇都の指導員なんかやってんすかねぇ?」

「いや‼ 確かに融合強化はすごかったけど‼ サポートだろ⁉」

そう言うと二人が目を丸くした。

「リーダー。合図が出るまでの間、殺気だけであの数のモンスターを釘付けに出来る人がサポーターなわきゃぁねぇって!」

「サン達が来るまで、その殺気の正体がわからなかった。だから私達は逃げるかどうかを相談してたんだ」

「そうそう。フッチなんざ一人でズラかるつもりだったんすからね」

「フッチは向こうで一人だったから。気持ちは分かる」

「そりゃぁね。でも、一人で逃げちゃ駄目だよ。こっちが困るから。それに、直接殺気を当てられたわけでもなかったしね」

「それは確かに」

二人が笑って話しているが、言っている意味が理解できない。

サポートでもないのに融合強化を何人にもかけられるって・・・そんなわけないだろ? それに殺気なんて―――

「あっ‼」

「どうした⁉」

びっくりしたようなスイの声に理解できない思考を放棄するが、

「 他人(ひと) の魔法を取るなんて・・・ひどい人です!」

聞こえて来たのはもっと意味の分からない言葉で、当の本人はプリプリしたままどういうことかを説明してはくれなかった。