作品タイトル不明
離間の刻5
「すまなかったな。どうにでもなると啖呵をきっておいてのこの体たらく」
「一応、なにがあったのか聞いておいてもいいか?」
グレンゼーが現場から離れ、御父上の様子も変わらないのを確認した辺りで、教皇グレアムから声が掛けられる。
「儂が想定して居った以上に、向こうの動きが早かった・・・というのは、言い訳であろうな。見ての通り、精神魔法の影響は計り知れぬほどのところまで来ている。儂らを取り囲んで居る民草もそうだが、気付いておるか? ここは皇城の前だというのに――」
「――これだけ騒いでも衛兵が現れねぇってことか?」
「うむ。陛下や皇太子殿下までは及んではおらんだろうが・・・時間の問題。あるいは、最早待つ必要もないと思っての行動なのかも知れん」
「かもな。けど、そんなことはどうだっていいんだよ。あれだけ自信満々にしてたんだ。策ぐらいあったんだろ? それはどうなった?」
「相変わらず、言いにくいことでもズバッと聞きよるな。言うまでもないだろうが失敗したよ。色々な意味でな」
「この期に及んで長ったらしい言い回しは無しだ。教祖様とやらが本当に顔を出してくるんなら、こっちも方針は決めとかなきゃならねぇ。そのためには正確な情報が必要だ。中途半端な認識で齟齬を起こせば、即席の結束なんざ、あっという間に消し飛ぶんだからな」
俺にとって宗教なんてのは飾りもいいところなんだ。
なにを信じるのか、なんで信じるのか。
そんなもんは自分で決めりゃいいと思うからだ。
だから恩があろうと、このグレアムの爺さんを持ち上げるだけに止め、俺自身は教会には寄り付かなかった。
欲しいものがなかったとか、目指すものが違ったとか、そういう根本的なこともあれど・・・それ以上に。
考え方として、俺にとって宗教はその程度のものでしかないんだ。
そういう意味で一枚岩には成れないし、教会内にも派閥ってもんがある。外敵に対して一同に対処しようとしてはいるだろうが、望福教と比べて1つに馴れているかといえばそんなわけがない。
向こうは魔法って力で無理やりにでも1つになってるわけだからな。
これまでの立場から来る慢心もあるだろう。
だからこそ、今この場を取り仕切る俺と、教会の頂点たる教皇が一丸とならなきゃ迎え撃つなんておとぎ話だ。
「・・・・・・親子の情は残っているものだと、思って居った」
「今更、父親として接してやれば止まってくれると思ってたのか? そいつは考えが甘すぎるだろ」
「そうではないが・・・考えが甘かったというのはその通りだな。ユノには辛い思いをさせた」
は? と思ったが、そうか。
望福教の掲げるお題目はなんだった?
本気で望めば願いは叶う。
それこそが唯一絶対の教義。
そしてその勧誘文句が、何に対して最も有効であったか?
子供に与えられるギフト・・・って話だったよな。
「つまり、その甘い考えでユノを矢面に立たせて、結果として否定されたわけだ。そんなやつは我が子じゃないと」
「概ね・・・・・・その通りだ。ユノは半ば無理やりに引き剥がして私が保護したという経緯があった。だから、もし本当に望むだけで願いが叶うというのなら、お前の娘であるユノには。例え離れていたとしても、お前が望むギフトが与えられていなければおかしいだろうと、見事言い当てて見せよと。それができなければ、望福教の教義を否定してみせた上で、教会がなぜ加護を頂くのかを説明し、民衆の目を覚まさせる計画だったのだが・・・な」
親しみやすいようにと演じている爺らしさも忘れて落ち込むほどに、手痛く切って捨てられたんだろう。
それはもう自分の子供などではないと。
どんな言葉だったのかなんざ想像も付かねぇが、碌でもねぇことだったってのだけは簡単に思い描ける。
ざっと見てみたがユノの姿はここにはない。
当然ではあるが心配でもあるな。
後で機会があれば、親に相手にされないことなんて普通のことだと、俺の噛みしめた無力感と一緒に教えてやろう。
「全力で謝ることだな。それで許してくれるかは知らねぇが」
「分かっておるさ。つくづく保護者としての責を全うできぬ自身に嫌気がさすほどにはな」
「仕方ねぇさ。時代か、はたまた役割か。立場を与えられた人間にはありがちなことらしいからな」
「お主の方でも何かあったのか?」
「今まさにな。俺はその他大勢にも勝てねぇらしい」
「―――ッ‼‼ そうかっ・・・そうか。すまないことを聞いた」
「今更だろ。くだらねぇ幻想を捨てられただけ十分だ」
「お主は強いな・・・昔から」
「肚括って来ただけだ。それより、教会側から打てる手はもうねぇのか? 子飼いだとかの話はどうなった?」
「踏み絵という行為を知っておるか?」
「帝国で反乱が成功して当時の皇帝が討ち取られた後、新しい皇帝がやった反乱分子を見極める方法だったか? 確か前皇帝の肖像画を踏ませたとか」
「良く知っておるな。言ってしまえば信仰心を踏みにじれるかという行為だな」
「それをやられたのか・・・」
「心水で、な。教会が頂く加護の神に決まった姿はない。故に、出されたものが絵であれば踏みぬいてしまえばいい。そんなものは誰かが作った蜃気楼のようなもの。しかし、望福教は逆に。我らを信じるならこの心水を飲めるだろうと言われてしまったようだ」
断ればそれは密偵だとバラしてるのと同じだ。
仕方なしと言われるがまま飲んだ結果、取り巻きのようにされちまったと。
「だったらもう、正面からぶつかるしかねぇな」