作品タイトル不明
離間の刻
少しだけ当たり前の話をしよう。
皇城の正門前は大きな広場になっている。
とても大きな広場だ。
なぜなら、それだけであらゆる行為への牽制になるからだ。
例えば侵入対策。
俺が軍の施設へ侵入を試みようとした時、正面からの挑戦は諦めた。
理由はそう。遮蔽――つまり隠れるところがなかったからだ。
身を隠すことができない以上、どうしても発見され注目されてしまう。
視界的に開けた空間がある・・・ただそれだけで、犯罪や暗殺といったような危険を遠ざける事ができる。
そのため、皇城の正門前には大きな広場があるんだ。
その広場が――人で埋めつくされている。
こういった光景はあり得ない無いわけじゃねぇ。
皇王陛下の子が生誕した時や、皇王位の継承、皇太子殿下の成婚などでも人が押し寄せ、波や生垣のような人壁を形成することはある。
だが、皇族に関係しない宗教による一幕で、この皇城の前を人で埋め尽くすことになると・・・誰が考えたことだろう?
しかも、普段のそれらと違う点がある。
この一面が覆い尽くされるような人の壁。それを構成する人間が明らかに違っている。
一言でいうならば、この場に集まっている全員は戦うことのできる大人達であるということだ。
老人や子供の姿は無い。
更にその半分ほどが体格にも恵まれているのがわかる。
あれらは招集を受けた軍人なのだろう。
その大勢がひしめき合う先で、教皇たるグレアムの爺さんと外套を纏った男が言い争っている。
皇城の正門を直ぐ背にして、ここは通さんと爺さんがその手を広げているように見える。
それに対し、外套を纏う男が身振り手振りを大きく動かせば、民衆という名の巨大な生物が轟くようにその身を蠢かす。
ここは広場の最後列。
正門前の階段で言い争っている姿は見えても、こっからじゃ内容なんざ聞こえやしねぇ。
いつからこうなっていたのか、なにがどうなってるのか・・・なに一つ、わかりゃしねぇ。
なのに、事態は今まさに動き出しそうになっていやがる。
そしてなにより、この現状を変えようと煽る外套を纏う男の後ろに、よくよく見知った顔がある。
止めなきゃならない。
ただ漠然とそう思った。
義務があるわけじゃない。迷いがないわけでもない。飛び込んで、どうすりゃいいのかも分かっちゃいねぇ。
この人の壁を相手に、飛び出す方法さえ・・・・・・―――。
――それでも。
俺はここで前に出なければ、なにかを失う気がした。
とんでもねぇなにかを。
今まで生きてきた中で守ってきた、貫いてきたなにかを失くす気がした。
「行くのかい?」
まるで引き留める気のない声が問う。
「なら、今の状況にピッタリな魔法を教えよう! なぁにお礼は要らないよ。君に言われて、君のために研究した、君自身の魔法だからね。使い方もそう難しくはない。好きなようにしたまえ! どんなことがあったとしても、私だけは君の味方だ‼ なにせ、君ほど面白い存在を私は知らないからね‼」
そう言って俺の背を叩くのは、あまり馴染みのない良い女。
こんなやつに心当たりはねぇんだが、まぁいいさ。
教えられた魔法で首尾よく話が進んだなら、その時改めて礼でもしよう。
「俺のことも忘れないでくれよ・・・上手く場を作ってくれれば、こちらも参戦する。それに、昔からの付き合いだろう? どうなったって腐れ縁くらいは続けるさ」
そんな頼りになるんだか、ならねぇんだかわからねぇ言葉を携えて、俺は歩き出す。
人の壁など気にもせず、ただ真っ直ぐに突き進む。
すり抜けた先の反応も、表情も、知りはしない。振り向くことなどしないのだから。
目指すべき場所へ、ひたすらに進み、辿り着いた先で言ってやるんだ。
「この騒ぎは貴公の謀り事か? その口で答えて見せよ‼ 救国の英雄‼ ダンデ・L・グラーニン‼」
てめぇはそこで、なにやってやがるんだ――と。