軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

瞬間の脱出

「そうじゃないって・・・この集会の中を抜け出すつもりか? 出入り口には警備もいるんだぞ? もたつけばどうなるか・・・」

ベルの当たり前すぎる返しに、俺は同意しつつも指摘せざるを得なかった。

「その警備がザルなんじゃねぇかって話だよ」

「そうなのかい? 私には普通の兵士に見えるけどね? それとも、君達から見れば装備が弱いとか、そういうことだったりするのかな?」

「いいや、軍属の俺が保証しよう。アレは現場に適切な装備だ。皮鎧に籠手と脛当て。武器も室内制圧用の取り回しやすい棍棒だ。見えていないだけでナイフや魔法対策の道具も持ってるはず。装備が弱いってことはないよ」

「じゃあ、それを踏まえた上で・・・だ。説明してくれるかな? ゼネス。どこがザルな警備なのかを」

「鬱陶しい言い回しだな――ったく。まぁいい。ザルなのは装備じゃなく本人の方だ」

「本人? どこかおかしいか?」

「本気か? ベル。やっぱこの環境に長く居すぎたんじゃねぇか?」

「否定は出来ないな。それで、お前の目にはどう映るんだ? あの警備は」

「逆に聞くが、お前が警備担当なら俺達を無視するのか?」

そう。俺達は集会に見向きもしてねぇどころか、完全に無視した上で部屋の隅に集まり話し込んでるんだ。現場の警備として考えれば、見過ごせねぇ存在のはず。

あまりにも浮き過ぎている。なのに、警備はこっちに注意もしねぇ。どころか、ずっと外套の男を目で追っている節すらある。

「確かに。言われればその通りだね? 彼らはこの空間の警備として連れてこられたはず。なのに、この光景に目を奪われているようじゃ警備とは呼べやしない。つまり、事前に打ち合わせがあったわけでもなく、急に用意された人員の可能性があるってことだね?」

「あぁ。それも、この空間のことなんざ知りもしなかったんだろうさ。そうでもなきゃ、あれほど目を奪われたりはしねぇだろう」

「けど、それだけで今仕掛けるのか? 人数は向こうの方が多い上、装備もこっちには何もないんだ。魔法も使えないんじゃ、俺とお前の2人で全員を相手にするんだぞ?」

「どこの小隊を連れてきたのかは知らねぇが相手は5人ぽっち。しかも新兵ばっかだ。なんとかなんだろ? それとも、腹が減って力が出ねぇか?」

「まぁ空腹ではあるが、じゃなくてな! なんで新兵だって言い切れる⁉」

「アレが練達された動きに見えるか? 新兵どころか、隊も組んだばっかの新米部隊だろ。注意は散漫。指揮は取らねぇ。確認作業さえ見てねぇぞ? ま、士官やその候補生がこうして押し込められてるんだから仕方ねぇとは思うがな。それでも、アレじゃ数合わせにもなりゃしねぇ。だからこそ、ここへ連れてこられたってことなんだろうが・・・」

しかしそうなると、ベルが言ってた今日なにかを起こすつもりだって話が現実味を帯てきやがる。

「・・・なるほどな。けど、どっちが3人の相手をする? 目立たないよう音もなくってなると、2人が限度だぞ? お前にならできるのか?」

「無茶言うなよ。魔法も無しじゃ分断も出来ねぇんだぞ? 1人絞め落とすまではどうにかなるだろうが、2人目を黙らせるのが限界だ。3人目までは手が足りねぇよ」

「そうだよな。いや、安心したよ。余裕だなんて言われてたら、偽物かと疑うところだった。けど、だったらどうするんだ? 1人余るぞ? 無理やり行くのか?」

「なぁベル? 本当に馬鹿になっちまったのか? 算数ぐらいはできてくれねぇと、ここから抜け出させるのさえ迷うぞ? こっちにも、もう1人居るだろ?」

そう言ってジーナの方を向く。

「だが、彼女は魔法使いなんだろう⁉ それを――」

「お前はコイツを舐めすぎだ。こんなでも魔眼持ちだぞ? 俺達よりよっぽど騒ぎにさせねぇよ」

「こんなでも・・・という言い方が気になるけれど、信頼はされているみたいで気分がいい。だから、まあそれくらいは許そうじゃないか。私は寛容だからね」

賛成だ反対だとここで言ってても仕方ねぇ。

そうと決まったならそうするべきだ。出来るだけ早くな。

だから、早急に仕掛けた。

壁沿いに出入口へスッと忍び寄り、外套の男が両手を広げ、大きく天を仰いだ瞬間――信者の盛り上がる声に紛れ、手近にいた警備の2人を俺とベルが絞め落とす。

時間にして10秒程度。

どうにか抗おうと腕にかけられた指から力が抜け、肩からだらりと地面に落ちる。

それを地面へ寝かせ、立ち上がった辺りで、こっちに気付く様子もなく、背中を向けたままの残りの警備隊員から手が伸びる。

それは正に『おい、あれ見てみろよ‼』といったような動き。

視線をそのままに手だけで後ろに触れ、前を指を差しながら振り返る。

その表情は嘲笑であったが、それが持つことはなかった。

「―――ッ⁉⁉」

肩を引く。つんのめった様にこちらを向かせ、そしてそのまま片腕は首を、もう片腕は脇を通して吊り上げるように固定する。

この一連の動きに気付いたのか、隣にいたもう1人が振り返ろうとするが、そっちはベルが締め上げる。

唯一振り返った最後の一人は――、

「決して騒がず、私の言うことを聞いてくれないかい? お願いだ」

魔眼持ちの変態女に見つめられ、頭を上下させるだけの哀れな人形へと成り下がっていた。