作品タイトル不明
side――ゴーリス
ドンドンドン! という慌ただしく扉を叩く音。
「入りなさい」
私はそれに短く答えます。
「失礼します‼ 准将殿‼ 現在。施設玄関に民間人が現れ、ただ今も捜索中であるジーナ・V・マーラグ公爵を連れてきたので中へ入れろと要求しています! いかがいたしましょうか⁉」
「そんなものは引き渡しを要求すればいいだけではありませんか?」
「それがですね、拘束が十分ではないということで逃亡の危険がある以上は引き渡しには応じられないと・・・」
「なんですと? どういうことです?」
「その、公爵は魔眼持ちでありまして・・・目隠しが無ければ我々では管理ができないだろうと」
「魔眼持ちですか・・・それならば確かに。しかし、なぜ目隠しをしていないのです?」
「目隠しと拘束を施した状態の公爵を連れまわして、変な性癖を持っていると噂にされても困る――という理由らしく・・・本人曰く、自分ならば目隠し無しでも抑えられると。その証拠に公爵はこの施設玄関まで連れて来られてもいるので否定が出来ない有様」
「我々軍が噂に迷惑させられていることも承知の上での発言ですか。現場ではどうにもできないでしょうね」
「はい。全くその通りでして」
朝からの珍客の相手で疲れているというのに・・・と、ため息が出ますね。
珍客の正体は報道陣。
どこからか漏れた施設への侵入者の噂を取材に来たらしいのですが、ハッキリ言って非常に迷惑でした。
今の軍は再編成や新教育などで大忙しですからね。
士官も一箇所へ集めて指導を行っていますし、とにかく人手が足りません。
したがって、残された者が多くの雑事に振り回されなければならず、私はこの度外れを引いてしまったというわけですね。
「わかりました。私が直々に伺いましょう」
まぁ私の階級は准将です。
そんな人間が出張れば、相手も震えあがって引いてくれるでしょう。
そんな楽観的な考えを基に、迂闊に虎穴へ飛び込んだ少し前の自分を殴ってやりたくなりました。
施設玄関へ向かう途中、魔力の流れを感じました。感じてしまいました。
恐らくは探知魔法。
ですが、こう・・・カチッとしたぶつかるような感覚はなく、少し温度の低い部屋へ足を踏み入れたような、漂う霧に包まれる感覚と言うべきでしょうか。そんな魔法を感じ取ってしまったのです。
「どういたしました?」
「・・・なんでもありませんよ」
隣を歩く兵士のように、私がもう少し鈍感であれば、気になどせずにいられたものを・・・・・・。
自らの優秀さを悔いながら玄関へと赴いてみれば、どうしたって勝てそうもない2人組が待ち構えているではありませんか。
片方は報告通り、巷では天才と名高いジーナ・V・マーラグ公爵。
さっき感じた魔法は彼女から発せられているのかと思っていましたが、どうやら違ったようですね。
その後ろ隣に立っている人物。
どことなく見覚えがあるような顔がするのですが、気のせいでしょうか?
しかし、これほど気配を薄められた探知の魔法を使っているのです。
覚え違いだろうと余程の人物に違いありません。
私の主義は長いものに巻かれること。
無理はしませんし、責任も取りたくはあるません。
なので、要求は全面的に受け入れてしまいましょう。
そうです。面倒なことなど、誰かに押し付けてしまえばいい。
そうやって私はこの座にまで昇りつめたのですから、今度もどうにかなるはずです。ええ、絶対に。