軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

峡間の応接

「それでこちらがですね―――」

あれからしばらく待って現れたのが今、目の前にいる太った男で名をゴーリスと言うらしい。

贅肉をたらふく取り込んだ体からは訓練の名残を見出せず、中途半端に伸ばしたチョビ髭からは不信感しか得られず、塩でも刷り込むような手揉みからは組織の腐敗を感じる・・・大したお迎えもあったもんだ。

こんな男の階級が、なんと准将だっつーんだから、開いた口も塞がらねぇ。

俺達はそんな男の案内を素直に受けて施設の中を移動していた。

ちなみにジーナの拘束は必要ないとのことでそれを解き、俺達は大手を振るって施設の中を歩いている。

なぜ拘束が必要ないのかについては、ここ1ヶ月の捜査でそう判断したっつーんだが、どうにも胡散臭さが残る。

「なにか気付いたことはないかい?」

「無駄に長い廊下を歩かされてるだけじゃぁな。監視室らしい部屋も見当たらねぇし・・・・・・俺達をどこへ連れてくのかってぐらいだな」

先頭を歩くゴーリスはぺちゃくちゃとそれらしい説明をしながら歩くが、特別これと言ったこともない。

事務室、会議室、多目的室、仮眠室、待機部屋、物置部屋、便所等々。

そこでなにしてるかなんぞ聞くまでもなく部屋名で分かるだろう。

それを得意気に・・・なんの意味があるんだか。

「ん? どうかいたしましたかな?」

「いや、大したことじゃないよ? 部屋が多いなと思ってね」

「そうですか? マーラグ公爵はご邸宅もこれより広いでしょうし、ご自身の研究所も。この司令部より広いのではありませんかな?」

「公爵と言えど所詮は皇都貴族さ。この施設より広いなんてことがあるものか。貴族街自体が狭いからね。研究所にしても、これほどの敷地は用意できなくてね」

「はっはっは! 我ら軍の圧勝ですか! それは誇らしい限りですな!」

「いやはや、羨ましいばかりだよ」

小声でのやり取りを不審に思ったのかゴーリスが探りを入れ、ジーナがそれを軽く躱す。

しかし、このままさっきまでのように説明に戻られても時間の無駄だ。

どうにかそれらしい話に持っていきたいところだ。

「それより、俺達はどこへ連れられてるんだ? 話を聞くだけにしちゃぁ奥へ進み過ぎだろう。会議室でも良かったんじゃねぇのか?」

「とんでもない! それは軍の規律を甘く見すぎですよ! ここだけの話ですがね。なにをするにも、目的外利用は厳罰って規律あるんですよ。軍には。だから、会議室を使うには会議として申請を出さなきゃならないんですが、そこで尋問なんかしようものならもう! 私が拘束されて尋問を受けることになりますよ!」

天井を仰ぐようにあっけらかんと笑いながら話すゴーリスの表情に嘘はない。

確かに、その手の規律に厳しく煩いのが軍だと言われれば、納得はできるが・・・。

「だとしたら俺達は尋問部屋に連れていかれるってわけか?」

「まさか! 今ご案内しているのは談話室ですよ。あまり使用しない部屋でもありますから、奥の方に設置されているだけです。対外的な交渉事を除けば、ほとんど使用することのない部屋ですからね」

利用率が低いから奥まった場所にある、ね。なるほど、筋は通ってるな。

「内部的には使われない部屋なのかい?」

「軍人は皆、宿舎に自分達の部屋を持っておりますから。ちょっとした広間のような休憩所もありますし、わざわざ談話室を申請してまで何をするというんで? 密会するにしても、もうちょっとやり様はあるってもんですよ」

「その口ぶりじゃぁ2人だけで申請した日にゃ噂になりそうだな」

「お恥ずかしい話ですが、過去に一度そんなこともあったりしたんですよ! いやぁ当時は大変でした。噂ってのは放っておくとどんどん広がるもんで、ああ! 私のことじゃないですからね? 真偽を問う人間が溢れて大変だったという話です」

「だが、男女の仲なんざどこでだってあるもんだろう?」

「閉鎖された空間ですからな。そういった話題はいつだって格好の的なんですよ。それに・・・」

「それに・・・なんだい?」

「男女の仲ではなく、男同士だったので余計に噂になりまして」

「面白そうな話だね? 是非詳しく聞きたいものだ‼」

変態が厄介な話題に食いついたあたりでゴーリスが足を止める。

「それではこちらで詳しくお話しさせていただきますよ。どうぞ中へ」

そして廊下の突き当りにあった扉を開いて中へ誘う。

その扉の上には、聞いていた通りに談話室の表札が。

開いた扉越しに奥を覗くが、不審な点は見受けられず。

仕方なくそのまま部屋へ入る他なかった。