作品タイトル不明
合図を待て
踏みしめる地面からおおよそ10メートル先に行けば、切り立つ崖が迷路のように広がる旧採掘場通路跡地だ。
ちょうどその真下辺りで”栄光ある騎士団”が踏みとどまっているらしい。
今は蟻に発見されないよう、崖で視線を切って待機中だ。
「まだか・・・⁉」
そういって、旧採掘場側の空を見上げるのはサンだ。
偵察で見た時から余裕がないのを心配していたようで、報告が終わってすぐに俺達は本隊より先行し、ここで待機となっていた。
「まだしばらくかかるだろ。それに、合図があってもお前は待機だ。焦る必要ねぇだろ」
俺達はここまで少数でさらに魔法で強化して移動してきたが、本隊は100人を超える大所帯。移動も馬車になるはずだから、まだしばらくは待機のままだ。
「心配じゃないのか⁉」
「前情報で蟻が相手なのはわかってたはずだ。対策ぐらいはしてんだろ。だからこそ、今も生きてるんだろうしな」
「それでも! 一つのミスも許されないんだ‼ それに、痺れを切らして一気に襲い掛かるかもしれないだろ⁉」
それはない。こうしている今も、気配に敏感なモンスターの習性を利用して、威圧している。単独なら自棄もあるだろうが、群れなら無駄に危険を冒そうとはしないだろう。
ここからじゃその群れの動きを確認することはできないが、反対側には”蒸気の騎乗者”メンバーのフッチが単独で物見役としている。なにかあれば、ギルドカードの個人通信で送ってきてるはずだ。
「自分の仲間も信じれねぇか?」
「なんだと⁉」
「まぁまぁ。リーダーも、心配しすぎなんすよ。それより、万が一があっちゃまずいんで。もっかい合図があった時の行動を確認しときましょうや」
「ッ! そう・・・だな」
なだめるように話に割り込んだのはホウ。”蒸気の騎乗者”の回復・サポート役を担う男だ。
「そうです! というより、本当に大丈夫なんです? 合図もなしに打ちまくっても!」
「もしあなたに当たっても、加勢できない」
物騒なことを言っている小女がスイ。魔法使いで合図で俺が飛び降りた飛び降りた後、援護してくれる今回唯一のメンバーだ。
もう一人の女がタン。淡々としている感じがそれっぽいんだが・・・キャラ作りじゃねぇよな? アタッカーらしくデカい武器を持ってるが、それゆえに狭い場所では戦い辛く、今回は待機だ。
この二人も”蒸気の騎乗者”に所属している。
「あぁ。もうすぐ昼だ。太陽が頂点付近にあれば、上からの援護は影で判断できる。代わりに、言った通り援護は真上から落とすように、出来れば固体を降らせてくれ」
「任せろです! スイはそーゆーの得意です!」
息まく姿はなんともかわいいが、これでもA級パーティーの火力職だ。援護の威力は心配ないはず、むしろ被弾なんてすれば蟻にやられるより重傷を負うだろうな。
「でも本当にいいんすか? 単独で。上からじゃ碌なサポート出来ませんぜ?」
「問題ねぇよ。元居たパーティーでの俺の仕事はサポートと雑魚処理だったからな。上の・・・というか、こいつらの面倒を頼む」
到着時に下を覗いた時から口数が少ない駆け出し二人を指差す。
「そりゃもちろん・・・けど、大丈夫なんすか? それ」
ヨハンは小刻みに震え、リミアは終始無言だ。
はたから見ても、心配になるか。
「アレを見たからな」
見下ろした通路は地面がなく、群れるだとか寄せ集めるだとか、そういう次元じゃなく、折り重なるとでも言うか・・・足の踏み場どころか隙間すら見つけられないほど蟻そのものとなっていた。
「だ、大丈夫ですよ? 先生にもらった罠も設置してありますし・・・」
ヨハンは自分に言い聞かせるように震えた声で言いながら、設置した罠に異常がないか確認している。
罠はヨハンに合わせて設定した。
影縫いと呼ばれる縛り罠で、踏み込んだ相手を影で捕らえて動けなくするもんだ。落とし穴と違い範囲が広く、起動対象のサイズも指定できる上、影を伸ばす性質上当たる数も多く、起動位置が離れるから罠の回収も楽、と。今回の蟻みたいな相手にはうってつけの罠といえる。
変わりなく突き立つ罠を見ながら安堵の息を漏らすヨハン。これが起動してたら蟻が来てるってことだからな。起動してないうちは大丈夫とか考えてるんだろう。
「相手は蟻だぞ? 地面ぐらい食い破ってくることもある」
「その場合はどうするのでしょうか⁉」
震えあがるヨハンよりも先に声を上げるリミア。
「大丈夫。そういう時は音が聞こえる。それに、なにかあっても私たちがいる」
「あんまり怖がらせちゃ可哀想じゃないすか? 初陣でしょ?」
「可能性はあるだろ?」
「それは・・・そうすね。確かに、ないと決めつけるのはまずい」
「大丈夫です! スイがそんなことはさせないです!」
「具体的に言ってみて」
「えぇ⁉ うーん・・・こう・・・」
「こう?」
「全部ぶっ飛ばす!」
「絶対やめて」
雑なやり取りだが、楽しそうだ。その空気に充てられたのか、ヨハンとリミアも硬さがマシになったように見える。
「いつもこうなのか?」
「そんなことない・・・とは言えんでしょうね。リーダーがアレなんで、ちょうどいいと言えばちょうどいいすけどね」
言われたサンは少し離れたところで、彼方の空を睨んだままだ。
「頼りにはなるんすけどね。張りつめすぎっつーか・・・」
すぐそばで仲間がキャッキャしてても気にも留めず、か。いや、仲間が騒いでるならリーダーとして止めるべき、とでもいった方がいいか?
数年でA級まで駆け上がったらしいが、考え方が凝り固まったら視野が狭くなるだけなんだがな。
何処か気になる後輩に、先輩風でも吹かすか? と思っていた矢先、サンの視線の先に天を貫く光柱が立つ。
それは、本隊の攻撃開始を告げる合図だ。