作品タイトル不明
間隙の刺激
俺は再度、精神魔法の話を持ち出しその魔法を使える人間の名前を教える。
「ってこたぁうちのマーテルについても、そのローランって奴が裏で動いてやがるんだな?」
「マーテルが人質にされてるのか、匿われてるのかまではわかりませんがね。同じ氏族だってんだから、なんらかの関係はあるだろうって話ですよ」
「なら一旦、マーテルは無事って考えてもいいんだな?」
「恐らくは」
「そぉか・・・・・・」
はぁ~~と大きな安息を漏らす教官。
厳つい顔のせいで見た目にはわかり辛いが、ずっと心配していたんだろう。
「にしても、まさかこんな面倒を引き当てるとは・・・流石ですね」
「そんなところ褒められてもうれしくねぇってんだよ! しっかしまぁ、確かになぁ」
「行方不明になる直前までの行動はわかってるんですか?」
「前日も自宅には帰ってたらしい。大家と世間話をしたのまではわかってる。その次の日から急に出勤して来んくなった。夜中の出入りについてまでは、どうにもならん」
「変わった様子もなかったってことですか・・・」
大家との会話が頻繁に行われているのかは知らねぇが、そこで態度がおかしけりゃ一言ぐらい添えるだろう。それがねぇってことは異常なしってことになる。
「おおよその無事がわかっても手掛かりはねぇし。そっちもまた、振り出しだな」
「そうでもないですよ。鍵とやらは見つかったんで。ただどうするかって話にはなりますが・・・」
「司令部の監視室・・・だったな。宿舎へは忍び込めたんだろう? 同じ調子じゃどうにもならんか?」
「最後は力業だったんでね。まったく気付かれずに潜入出来てたなら、もう一度もあったでしょうけど」
「警戒されてちゃ敵わんか」
「どんな状態であれ、軍は軍ですからね。数も多けりゃ規則も固い」
「例外的に入る方法も取れんのか?」
「例えば?」
「親族へ緊急の連絡とかはどうだ? 誰かが倒れたとか」
「誰か―――って、俺以外は兄上の一家ぐらいですよ? 親族なんて。領主が倒れたら俺が知らせるより先に噂になりますよ。逆にそれ以外なら、直接伝えるほどでもねぇ」
「母親はどうなんだ? 不謹慎かもしれねぇが、なりふり構ってる場合でもねぇだろ?」
「母上の居場所すら知りませんよ、俺は。どこでなにをやってるか全くわからねぇ。でも多分、元気ですよ。そういう人です」
「だったらお前さんの親の親――と思ったが・・・」
「既に故人ですね。まぁ当時戦場になってますから」
「そうだな。そうすると、お前さん自身しか残らねぇわけか」
「俺の仮病を伝えたところでなにも変わらねぇでしょうし、なにより誰を送り込むのか、送り込んでどうするんのかって所はどうにもなりませんね。精神魔法に高い耐性を持っていて、且つ御父上と渡り合えるような人材に心当たりもありませんから」
「今のその話を聞いてて思ったんだが、居るだろぉ? 適任が」
「誰のことです? 俺の中じゃ正直、掠りもしねぇんですが・・・」
気付いてないのか? それともわざとなのか? と露骨な顔をする教官に、俺は首を捻る。
一瞬クライフの顔が過ったものの、アイツは今皇都にゃ居ねぇし、御父上相手に渡り合えるかと言えばそれはそれで怪しい。
アイツも皇族ではあるが、その責務ってやつから逃げ出した側でもあるからな。
経験と貫禄の差は否めねぇ。
「なんというか・・・お前さんも薄情な奴だわな。色々と話題にもなっとるくせに、その相手のことをすっかり忘れるとは・・・」
「話題?」
「貴族家の当主であり表舞台でも活躍しつつ、個人としても他国と交渉する立場に居りながら、お前さんと噂になっとる人物。すなわちジーナ・V・マーラグ公爵だ」
「はあ⁉⁉」
いや・・・‼ いや、確かに言われてみりゃ”精神魔法に高い耐性を持っていて、且つ御父上と渡り合えるような人材”には近いかもしれねぇ・・・しれねぇが‼
「俺の仮病のお使いとして公爵を行かせるって? そりゃぁ無理ってもんでしょう‼」
「なにも仮病を使う必要はねぇだろぉ? 都合のいいことにお前さんらには婚約の噂もある。その報告だとでも言えばいいじゃねぇか」
「そんなことしたら事実になるだろうが‼ そんな気はさらさらねぇよ‼」
「詰まらん奴だな。お前さんは・・・」
「人の婚姻を面白いかどうかだけで決めようとしてんじゃねぇよ‼」
「そういう意味では言っとらんが、そぉだな。ワシが口を出すことでもねぇわな。じゃぁアレだ。確か、ジーナの奴は学園の理事として軍に追われておったはずだ。今は雲隠れ中ってこった。それをお前さんがとっ捕まえたってことで、身柄を運べばいいだろ」
「あぁ・・・まぁそういうことなら・・・・・・。逃走防止つって俺が中まで連れてくなら簡単に入れるか? 問題は監視室がどこにあるかだが」
「そこは今考えても仕方ねぇんじゃねぇか? まずはジーナに協力を取り付けることからだろう。それと――もう1つ用件があった。コレだ」
「なんですか? これ」
教官が机の山積みになった紙束から一通の封筒を取り出して寄こす。
「本部からお前さん宛だ。中身のことは知らん」
本部から? 俺はこの間のドラゴン襲来の一件で冒険者ギルドとは無縁の存在になったはずだが・・・・・・そう思いつつも封筒を開けると中からは、
『サルベージの復興は順調に進んでいる。貴様へ支払うはずだった資金も、約束通りこちらで消費させてもらった。その義理として、ある物を同封しておく。これは冒険者ギルド本部からの最大限の譲歩であり、特別な処置だ。決してあの時の判断が間違っていたなどということではないからな‼』
ヴィーちゃんが書いたと思しき手紙と、新しく発行されたギルドカードが出てきた。