軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

感激の間隙

『春を前にして 、英雄殿から直々に補佐役を任命されることとなった。初めこそ、なぜなのか? と頭をひねらせたものだが、あまり深い意味はないように思えてきた。もしかしたら、ゼネスとの繋がりが原因かとも考えたが、その手の話をした記憶もなければ聞かれもしない。なので、俺の能力を評価してのことだと思うようにした。残念なのは、その実感だけがないことだろうか』

パラパラとめくったうちの1頁にそれらしい文が見えた。

「この辺りからか・・・」

「この英雄殿というのがお前さんの父親のことだな?」

「まぁ間違いなく」

ベルが御父上を英雄殿と言っているのを聞いたことはなかったが、書き方からして御父上で間違いねぇはずだ。

わざわざ英雄殿という書き方をしているのは少々意外ではあったが、可笑しくはない。俺の話を聞いてか、あるいは父親経由の呼び方なのかもしれない。

ノクアッド侯爵なら御父上を英雄殿と呼んでいても、なんらおかしくはないからな。

『次々と失踪者が出てからの再編成。困難な作業のはずだが、英雄殿はそれほど苦心してないように見える。ただ淡々と事務的に配置換えや昇進を言い渡す。それに口を挟むのは、先まで将軍補佐をしていた上官。けれど、それも嫌味で言っているのではなく、選出意図が不明な人物についてのみ。そう、例えば俺とかだ。そんな目で見られも俺だって理由を聞きたいぐらいだ。そういう時の英雄殿の返答は決まって”この目で見てきた。間違いない”だ。よほど自信があるのだろうけど、それは勘というのではないだろうか? 終いには上官も聞くことをやめた』

「お前さんの父親はとんでもねぇな。実家じゃぁどうだったんだ?」

「問題が起こったりはしなかったんじゃないですか? なにせ大昔のことなんで記憶にはありませんね。兄上からの手紙にも、そういった内容のものはなかったと思います」

大雑把に括るなら実家は軍の一部だったからな。

厳しい上下関係があれば、上の言葉に一々異を唱えたりなんぞしねぇだろう。粛清されるのがおちだからな。

『ようやくこの秘書のような仕事にも慣れてきたと思った矢先に、幾つかの失敗が表沙汰になった。作成資料の誤記入や誤植、認証漏れなどだ。俺1人の責任ではないが、上がってきたそれらを確認して、正しいものを英雄殿へ渡すのが俺の仕事。それらを見つけられなかったことが俺の失態だ。中でも、失踪者の名簿に抜けがあったのは最悪だった。各所へ回した写しも含めて全て作り直しは堪えるだろうな。元補佐官には論外だと叱り飛ばされた。おもり隊の方は大丈夫なんだろうか? カールも苦労してそうだ。いや、アイツは苦労するべきか・・・なんて、考える俺は器が小さいのかもしれないな』

「仕事風景がよくわからねぇが、この元補佐官ってのも一緒に働いてんのか? 今は補佐官じゃねぇはずだろう?」

「役から外したからって他所へ回すとは限らんでしょ。引継ぎって可能性もある。なにより、手記ですからね。懇切丁寧に風景描写まで期待するのは、流石に酷が過ぎるってもんじゃないですか?」

「まぁそうか。とは言え、これ以上登場人物が増えると厄介だな。このカールってのは違げぇんだよな?」

「そっちは古巣ですね。俺と教官の関係に近いですよ」

「ってこたぁこのカールってのはお前さんのことか!」

「どっちかっつーと教官の方が近いですね」

なんでだよ‼ と叫ぶ教官を横に置きつつ頁をめくる。

なんでって、離れた組織の頂点って類似点があるからな。別に苦労すればいいだなんて・・・ちょっとしか思ってねぇさ。

『春の花が散るころのこと。最近、英雄殿の様子がどこかおかしい気がする。反応が遅れたり、なにか考え込んでいるような・・・? 以前とは雰囲気が違うというか、纏う貫禄に差異があるような気がする。ただ、なんと言って良いかがわからず、もどかしくなる。文字に書き起こせば整理できるかとも思ったが、効果が無い様でそれもまた口惜しい。そんな矢先、英雄殿から手紙が届いた。直接口頭では出来ない内容なのかとおもったが、大したことは書かれていない。なにかの暗号だろうか?』

「おお! 手紙が出てきたぞ! ということは、あの手紙はお前さんの父親がおかしくなってからの手紙ってことだな!」

「・・・・・・どうですかね?」

「どういうことだ?」

「御父上がいつからおかしくなったのか、教官は正確に知ってますか?」

「そんなもん! ワシが知るけわねぇだろが‼ お前さんの方が知っとるんじゃないのか?」

「それが、俺の方でもさっぱりでして・・・皇都から離れて、帰ってきたらこの様だったんですよ。それに―――」

「それに?」

「御父上がどうおかしいのかさえ知らねぇんですよ。だから、ここに書いてある態度が当てはまってるかどうかすらわかりゃしねぇ」

「会ってねぇのか?」

「どうやって? っつー話ですよ。向こうは今や皇都軍を取り仕切る将軍様ですよ? 血縁ってだけじゃどうにもなりゃしませんよ。ま、会いたいとも思いませんがね」

「じゃ、じゃぁアレだ! お前さんが皇都を離れてた期間から割り出せたりは・・・」

「俺が離れてたのはここ1月半。望福教の台頭は失踪者が戻ってきた後からでしょう? 御父上の様子がおかしくなったのをその前後と仮定して、それがいつ頃だかわかりますか?」

「今からだと・・・丁度1月前ぐらいだ」

「じゃぁ、この手帳の1月前ってどこでしょうね?」

俺と教官は2人でベルの手帳へ目を落とす。

最初から違和感はあった。

あるべきものがないという違和感が。

「どこ・・・だろぉなぁ?」

「あのバカが!」

この手帳には内容を記した日付がねぇ。

『春を前にして~』だの、『春の花が散るころ~』だの、無駄に詩的な表現を使って濁してしてやがるせいで、本当に必要な線引きが出来やしねぇ‼

「ってこたぁ今までのやり取りは全部が無駄か?」

「無駄とまでは言いませんがね。役には立たねぇかと」

御父上の手紙がなにか暗号ってことぐらいしか、わからなかったわけだからな!