作品タイトル不明
side――ベルザフォン・C・ノクアッド
この施設に入れられて何日経つかな?
外の状況を見れない上に時計がないせいで時間感覚が失われる一方だ。
最初は集会が時間を基準に行われるのかとも思っていたけれど、そうじゃないのはすぐにわかった。
アレはまやかしだ。
集会に来る人物を特定の組み合わせにして順番に登場させることで、さもそれだけの時間が経過したかのように思わせる姑息な手法。
それに気付けたきっかけが腹時計だというのは恥ずかしいから内緒だ。
ダンデ将軍はどうしているかな・・・大丈夫だといいんだが・・・・・・。
何者かが軍内部に潜り込んでいることには気付いていた。
それはゼネスとのやり取りや、失踪事件を纏めていく中で、疑惑から確信に変わっていた――にもかかわらず、
「この体たらくじゃ意味がないな・・・」
自身のあまりの不甲斐なさに愚痴が零れる。
しかし、だ。
それに反応するものは誰も居ない。
そう、反応するものは誰も居ない――であって、この空間に誰も居ないわけじゃない。
それどころか、
「これだけの人数の中で、未だに自我を保てている人間はどれだけいるか」
広い部屋に大勢が押し込められる形で、今まさに集会が行われている。
その先頭に立っているのは望福教の幹部? らしく、順番に集会へ現れる三組の内の三番目担当だと思われる。
思われるっていうのは俺が一番後方でこの集会をやり過ごしているためだ。ここからじゃ先頭に立つ人物の顔なんて碌に見えない。
でも声は同じだし、順番も確か三番目だったはずだ。
だから多分、同じ人物に違いない。
そして、集会の内容も毎度同じようなことばかり。
要約すると望福教へ入信しましょうって話だ。
そんな勧誘がここへ集められた大勢の軍士官に定期的に行われている。
わかり切ったことかもしれないが、当初は反発の声ばかりだった。
暴動のようなことも怒りそうになった。
なのに、
「今じゃ誰も騒ぎさえしない」
前列では先頭の幹部を崇めるように敬う信徒がひれ伏し、後列は立ったままそれをただ眺めている。
その2つの中間には祈りの姿勢を取るものや、頭を抱えて呻くものまで。
異様としか言えない光景が広がっている。
そういえば、暴動が起きなかった理由だけれど。
それは偏に”この環境を利用されたから”だ。
この環境とはなにかといえば、既に言った通り・・・外の状況を窺えず、時計さえ存在しない居住空間のことだ。
俺達はそんな場所で生活を強いられている。
明かりの使用こそ自由とは言え、まだ窓がある分、牢屋の方がマシだろう。
それでも上層部からの命令とあらば、従わざるを得ないのが軍というもの。
流石にこの広い部屋に全員で雑魚寝というようなことはないが、与えられる部屋は酷く狭く、独房と言われても納得できるような部屋。
食事の時間も不規則で、相手の企みを看破した腹時計でさえ、最早ガラクタになってしまった。
そして思い出したように何度でも開かれる全員参加の勧誘集会。
とてもじゃないが並みの精神では耐えられないだろう。
じゃあそれのなにを利用されたのか、なんだが・・・・・・そう、だな。言うまでもないか。
入信すれば待遇がよくなる。
本当にただそれだけの話だった。
さらに言えば、早く入信した人間ほど良い待遇を得られる。
そういう仕組みだった。
どれぐらい待遇がよくなるのか・・・詳しくはわからないが、少なくとも外出が許されているのは確認済みだ。
けれど、
「あの態度を見て入信したいとは思えないよな」
ひれ伏しながら、中には涙を流すものまでいる前列を見てしまうと、その程度のことで品性を売り渡してなるものかという、人としての矜持のようななにかを強く抱いてしまう。
ここから脱出するための一番の手段は”外部からの干渉”。
監視までされているこの空間で、なにかをしての脱出なんて真似は出来そうにない。
だから頼むゼネス‼
この場所を探り当ててくれ‼
そのための鍵は残してきたんだ。できるだけ早く、この空間から解放してくれ‼