作品タイトル不明
手間取る手紙
「まったく・・・こんな夜中にいきなり押しかけて来おってからに、ワシがおらなんだらどうするつもりだったんだ?」
「そんときゃ他の誰かの所にでも行ってましたよ」
「誰かって誰だ? ミリーのところにでも行く気だったのか? このスカタンが! こんな遅くに女子供の家へ押し掛けるおっさんほど、おっそろしい奴ぁ他にいねぇぞ?」
「そんなことわかってますよ! だからハゲあがったおっさんのところへ来たんでしょうが‼」
「ハゲてはいても、ハゲあがってはいねぇだろぉが‼」
軍の宿舎へ潜入した後、俺は閉業後の冒険者ギルド、そのマスターであるブロンソン教官の部屋へ上がりこんでいた。
「ま、どちらにしろ・・・ですよ。子供を巻き込むわけにもいかねぇでしょう? で、ことが宗教がらみである以上は教会にも近寄りがたい。そんな中で、どんな人物が居てもおかしくなく、且つ俺が頼れる相手となると教官の所が丁度良かったってだけですよ。ギルドの近況も気になってましたしね」
マンサ商会には生徒達を預けていて、教会とはお互いのために距離を置いておきたかった。
そうなったときに、俺にとって古巣になる冒険者ギルドは過不足のない格好の場所となる。
誰が居てもおかしくなく、なぜいるのかも詮索され辛いからな。
それこそ言い訳で”様子を見に来ただけ”っつっても通用するぐらいだ。
ここ以外となると、鍛冶屋のバルシムのところか・・・・・・不本意だがジーナの研究所ならまぁ・・・って感じか。
教官が居てくれたのは間違いなく幸いではあった。
「押しかけてきたんだ。まずはそっちの話を聞かせてもらおうか」
「そうですね。なにから話したもんか―――・・・」
取り敢えず、色々と経緯を話してみた。
望福教のこと、失踪事件のこと、その関連性。
現在の教会の立場、商会の立ち位置、今後の展望。
精神魔法の力、精神操作の可能性、そして陛下との対談。
友人の安否、軍内部の違和感、宿舎での騒動。
それらを包み隠さずに話してみた。
「―――――・・・・・・なんというか、お前さん。抱え込み過ぎじゃあないか? なにをしておったら、そんなことになるんだ?」
「まっとうに生きてきたはずなんですがね?」
「それが本当なら神様っちゅー奴はとんだ捻くれもんってことになっちまうな。あぁー頭が痛い」
「防御力低くそうですもんね」
「うっさい! その白髪交じりの髪引っこ抜くぞ⁉」
「そうカッカしないでくださいよ。折角涼しい髪型だってのに・・・」
「好きでやってねぇんだよ! 畜生め‼ けどま、そんだけ軽口叩けるならまだ大丈夫なんだろ。どうするのかは決めたのか?」
「いやまったく」
「はぁ・・・なにをしておるんだお前さんは。次の動きすら決まっておらんのか?」
「それについてはコレ次第ですかね?」
俺は懐に忍ばせていたベルの部屋から漁ってきた手帳、手紙、書き置きを取り出す。
「それがさっき言っておった手掛かりか。中は確認してないんだったな?」
「できるだけ安全な場所で確認したかったんで」
「その場所にワシの部屋を選んでくれるのは嬉しいが、こんな時間に来られても困るんだ。早いとこ中を確認してみろ」
「じゃぁまぁ書き置きから」
これについては漁ってる最中に軽く文字が見えていたが、それが示す正確な意味まではわからなかった。
書き殴るような字で『鍵は司令部の監視室』とだけ書かれている。
「司令部の監視室ってのは軍の施設のことだろうが・・・この鍵ってのが、なんの鍵かはわからんのか?」
「今のところ心当たりはないですね。どっかのなにかを開けるようの物理的な鍵なのか、なにかを覆す起点としての概念的な鍵なのか、それさえ分かりませんよ」
次が手紙。
宛先がベルザフォン・C・ノクァッドになってるから、誰かから送られてきた手紙だ。
裏を返してその差出人を確認してみると―――、
「御父上からだとッ⁉」
差出人はダンデ・L・グラーニンとなっていた。
封蝋も間違いなく我が家の家紋。
「内容はどうなっておる?」
『仕事には馴れたか? 私の側近としての自覚を、持てているだろうか? これから貴君は躍進の旗となる。嫌うことなく、疑うことをせず、我が意図を測り、その上で自助努力を忘るることなく、邁進せよ――』
「だそうで」
「随分と短いな? それに、手紙というにはちぃっとばかし野暮な内容でもある。偽装か? もしくは偽造もあるか」
「偽造は・・・たぶんないと思いますよ。封蝋もウチのだし、字も恐らくは御父上の筆跡です。なんでまぁ偽装でしょうね。別の意味があるはずです」
ただ、これがいつ送られてきたかによって、その意味は大きく変わる。
今の、望福教を持ち上げている御父上は誰かの手によって、都合よく精神を操作されている可能性がある。
だからそうなる前の手紙か、後の手紙かによってこの手紙の見方は変わる。
そして、残された手帳にそのことが記されていることを祈るのみだ。