作品タイトル不明
間者が居ないよ
地面に置いた明かりを消すと同時に、元あった場所へと戻す。音をたてないように、細心の注意を払って。
一層の暗闇の中でシンと息を殺し、身を屈めてまで音に気を配る。
慌ただしく廊下を走り回る足音は、一直線には進んで来てねぇ。
つまり、まだ俺の所在までは割れてねぇってことだ。
これは外からの監視の目が薄いことを示していると言ってもいい。
窓から明かりが点いている部屋の位置を特定されていれば、この足音はすでに俺の下まで届いているはずだからな。
今回の戦利品が辺りかどうかの見極めはまだ・・・つっても、これ以上粘るわけにもいかねぇ。
そこかしこで扉の開く音が聞こえてくるんだから、部屋の中まで調べているのは確実。
ここで身を潜めてみたところで、見つかっちまうのが落ちだろう。
隙間や天井に張り付いてどうにかなるとも思えねぇ。
そうなると監視の少なそうな窓から飛び出るってのが選択肢にはなるが、あえて・・・っつー可能性もある。
窓の端から下を覗き込んでみるものの、ついさっきまで光にあてられてたこの目じゃ暗がりなんざ見抜けやしねぇ。
5階からの飛び降り。
着地はまぁどうにでもなるだろうが、待ち伏せまでは難しいな。
大した実力もない一般兵程度なら、蹴散らせばいいと思うかもしれねぇが、なんといっても相手は軍だ。
その他大勢が形成してこその軍という形であり力だ。
下手に傷付ければ国力を低下させるだけの結果になり得る。
後、指名手配とかもされたくねぇしな。
下りらんねぇなら上ればいいとか、安易な考えは無しだ。
屋上へ出たって状況はなにも変わらねぇ。
どうせ、俺がみつからなけりゃぁ最後には上ってくるだろうしな。
こういう時にどうにかできるのが魔法やら魔法道具ってもんなんだが。
生憎とこんな見つかり方は予測してなかったんでな。
姿を隠す、潜める、眩ます、変えるような道具は用意してきてねぇ。
魔法で煙を出したり、炎や氷を使って位置や距離をごまかすくらいはできるだろうが、それが限度だ。
なにより、そういう魔法は妨害されやすい。
なんのためにそんな魔法を使うのか、がバレてりゃ当然だわな。
煙は風で、炎は水で、氷は火で。
そうなりゃ数の暴力だ。
追走の過程で顔が割れることもあるだろう。
どっちにしろ賭けになるんなら、デカく賭けた方がいい。
誰にも見られずに、痕跡も残さず移動するなんつー魔法を。俺は1つだけ知っている。
空間跳躍の次元魔法。
幸いにも魔力の問題も警備用の魔法道具が解決してくれる。
後は成功するかどうか・・・・・・。
なにせ1回しか使ったことのねぇ魔法で、しかもほとんどが偶然みたいな出来だった。
ジーナの作った転移扉みたいな出入口があるわけでもなければ、あの時のドラゴンのような明確な目標が居るわけでもねぇ。
距離は近すぎず遠すぎず、外壁の裏辺りがいいか。
外壁の近くを狙いすぎてめり込んだら・・・なんて考えたくもねぇからな。
全力の探知魔法を使って完璧な空間把握を行う。
「なんの魔法だッ⁉ 向こうからだぞ‼」
必然、全力の探知魔法なんかを使えば位置もバレるわけで。
ドタドタと走る音が近づいてくる。。
刻一刻と迫りくる限界の前で、鋭敏に尖らせた神経を頼りに自分と目的地を繋ぐ。
バンッ‼‼ という扉を強く開く音が、遠ざかるように聞こえた気がした。
瞬間――――、
《ビーー‼‼ ビーーー‼‼‼》
けたたましい音が鳴り響く。
「なんの音だ⁉」
「中はどうなってる⁉ 誰か居たのか⁉」
「居ません‼」
「誰かこの音を止めてこい‼‼」
「止めろと言われてもなんの音かわからない以上は・・・」
「隊長! この音の原因は侵入者検知の魔法道具が魔力切れを起こしたからのようです‼」
「なに⁉ こんな時にか⁉」
「予定よりは早いそうですが、故障ではないとのことです‼ さらに、魔力補給のために集合せよとのこと‼」
「今は不審者の捜索中だぞ⁉」
「警報が鳴ってもいないのに不審者などと、取り合ってもらえず・・・」
「これだから現場を知らん連中は‼」
といったような嘆きとも怒鳴りともとれるような声が、外壁の向こう側から微かに聞こえた気がした。