作品タイトル不明
間者が居るぞ!
取り敢えず扉を閉める。
これにより俺は真っ暗闇な空間に溶け込む形になるんだが、ここでふと気付いた。
この状況で明かりを灯してもいいのか?
この部屋まで廊下を歩いた感じ、誰の気配も感じなかった。
廊下にこそ薄暗いながら明かりは点いてたものの、誰も居ねぇんなら部屋の明かりなんざ点いているはずがねぇ。
そんな中で、この部屋の明かりだけが点いてたら、どうだ?
あからさまに怪しいんじゃねぇか?
なにより、ベルの現在がわかってない以上、この嫌疑によってその立場がより悪くなる可能性すらあるよな。
どうする?
かといって、既に見張られていたんなら、廊下からの明かりが漏れた後かも知れねぇし、元より・・・このままじゃこの部屋まで来た意味がねぇ。
最悪なのは明かりをつけてまで部屋を漁っておいて、なにも見つけられなかった場合だ。
だが、アイツのことだ。
なにかしらの手掛かりくらいは置いてあるっつー確信がある。
なら次点ではどうかってんなら、情報のつり合いが取れなかった場合だろうな。
既に知ってる情報しかなかったら、最悪の状況となんら違いがねぇ。
しかし、それ以上の場合なら全て意味があったことになる。
一番の大当たりは行方不明になった人間の名簿。あるいはそれにつながる情報。
一時的とはいえ大量の失踪者が出た案件だ。名簿ぐらいは作ってあったはず。
もしくはベルザフォン自身の所在が分かるようななにか。
御父上の近くで働いてたアイツは情報の塊だからな。完璧じゃなくてもなにかは覚えてるはずだ。
ベルを信じるなら明かりをつける一択だが―――ッ‼
とまで考えたところで、人の気配だ。
恐らくは3階か? 慌ただしく駆け回る足音。しかもこれは登ってくるな。
1階でのやり取りで気取られたか!
あの大柄の男が気安く話しかけてきたのが、宿舎に上官は居ないはずという認識を基にしていたなら、あの場での俺が可笑しいことにはすぐ気付く。
急いで明かりをつけて壁際の地面へ置く。
少しでも窓や扉から光が漏れるのを防ぐためだ。
入るときにうっすらとは見ていたが、見事に整頓された綺麗な部屋だ。
これならさぞ資料なんかも探しやすいんだろう。
場所さえ知っていれば、な‼
本や書類が隙間なく詰め込まれた棚から目的のものだけを引き当てるのは不可能に近い。
だからって手当たり次第に持っていけばいい、なんて話でもねぇ。
余計な面倒はごめんだ。
理想としては、なにがなくなったのかわからないこと。
それには軍部の資料には手を付けないってのが手っ取り早いが、だとしたらなにを選ぶ⁉
いっそ部屋を引っ掻き回して目をくらませるか?
しっちゃかめっちゃかにしちまえば確認作業を遅らせられる。そうすりゃ紛失物の確認も遅れるはずだが―――・・・いや、ダメだな。
ベルと合流できた後、この部屋のなにかが必要になるかもしれねぇ。
その時にひっくり返した資料の中から、必要になるはずだったものだけを持ち去られてる・・・なんてことになりかねねぇ。
特に、ベルが誰にもバレないように隠して保管してたりしようもんなら、目も当てられねぇほどの大失態だ。
そうなりゃぁ選ぶべきはベルの私物。
他人が知り様のねぇモノなら、なくなってても気付かれはしねぇ。
標的が私物だって決まれば、漁る狙いも定まる。
本棚や資料棚は無視。
机、及びその引き出しだけで十分だ。
机の上にはなにもなかった。これは明かりをつけた瞬間に確認済みだ。
引き出しは丸々引き抜いて、地面において中身を精査する。
光が下からじゃ逆光になって見えねぇからな。
音をたてないように、けれど素早く。
下から順番に中を調べていったが、これは失敗だった。
引き出しの使う頻度で言えば、一番上が一番多いに決まっているからだ。
一際薄い天板裏の引き出し。
その中にはベルのものと思しき手帳と手紙、更には書き置きがあった。
それらを懐へ突っ込んだ瞬間、廊下から足音が広がってくるのが聞こえた。