作品タイトル不明
仲間が要るよ
軍士官宿舎。
それがベルが生活に使っている拠点だと言う。
それは言っちまえば、独身士官のための寮に違いない。
では、その寮ってのはどこにあるか?
学園の寮は学園の敷地内にある。
当然、軍の寮なんだから軍の敷地内にある。
と、いうことでだ。
「皇都軍中央司令部兼、指揮演習及び戦闘訓練場ね」
皇城から目と鼻の先と言える距離にあるデカく広い施設。
それこそが皇都の守りを司る軍の本拠地。
寮はその最奥に位置する。
「どうしたもんか・・・・・・」
これも当然ながら、部外者がおいそれと立ち入れる場所じゃぁねぇ。
用件がある人間でさえ、中にいる該当者を呼び出すのが基本で、立ち入りが認められる場合は少ない。
それこそ、皇王陛下でもなけりゃ、ふらっと立ち寄るなんざ出来やしねぇだろう。
まぁ、陛下にそんなことをする義理も理由もないわけだが。
施設は手前から演習場・訓練場・司令部・宿舎の順だ。
つまり目的地へ行くには、屋外施設、屋内施設、秘匿施設の3つを超えていかなきゃならねぇわけで・・・。
かといって、目を盗んで~~ってのも不可能だ。
なぜなら遮蔽が存在しねぇから。
屋外施設には外壁以外が存在しねぇ。
入り口から奥にある屋内施設まで、日除けの1つもありゃしねぇ。
おかげで見通しはばっちりだ。
様子見がてら入り口の前を素通りしてきたが、あそこで立ち止まれば門番に、なんの用だと声を掛けられるだろう。
そこでなんと答えて立ち去ろうとも、怪しまれるのは確実。
警戒させないための素通り。
その上で正面突破は不可能だと判断する。
そうすると外壁を超えての侵入になる。
これなら正面からの距離なんざ関係なく、裏の壁からすぐに宿舎へ行けるって寸法だ・・・・・・なんて、そう簡単に話が進むわけもなく。
侵入者検知用の魔法道具が設置されてやがる。
検知されりゃ警報がなって即バレだ。
遠目から見ただけじゃ詳しくはわからなかったが、一定間隔で外壁の内側に配置されているらしかった。
この手の利用法の特徴として、出力を同期させることで消費魔力の軽減や、効果範囲の均一化を測れるというもんがある。
恐らくだが上だけじゃなく、地面の下にまで効果範囲が広がっていることだろう。
だから上空はおろか、地下を掘り進んだとしても検知されちまう。
流石に地下を掘り進めば即バレはしないだろうが、そんな馬鹿な真似をする奴もいねぇ。
しかしそうなれば侵入は不可能―――と、思われるかもしれねぇが。
実際のところはそうじゃない。
魔法道具に警備を頼るってことは、人の目による監視が減るってことだ。
現に俺は今、軍施設の外周を見て回るっつーこの上なく怪しい動きをしているわけだが、中から軍人が出てくることもねぇ。
人の目による上からの監視がねぇことの証左だ。
それと、魔法道具を複数使っての安定化には副作用も存在する。
俺は勢いよく塀の上に登る。
この外壁は分厚く、幅が30cm以上はあるため、登ったところで体勢を崩したりもしねぇ。
注意するべきは塀の上からはみ出さないことだけ。
するとどうだ? 警報が鳴り響くはずが、そんな素振りはおくびにも出さねぇ。
これが安定化の副作用の1つ。範囲の見極めやすさだ。
魔法道具の真上と真下に向かって効果範囲が伸びているせいで、こうやって塀の内側に設置すると、塀の上は効果範囲外になっちまう。
それでいて人の目もねぇんだから、登るだけならやり放題。
真昼間なら宿舎の人間が気付けたかも知れねぇが、今はどっぷり日の沈んだ夜の時間。
闇に紛れる人影を正確にとらえるには光量が足りねぇ。
なにせ宿舎の裏。窓からも離れた位置なら視界にも映らねぇ。
そしてもう一つの副作用。
それは同じ魔法を使って同調すれば、新しい魔法道具として認識されることだ。
これにはどんな魔法が使われているのかを詳しく知る必要があるが、塀の上からなら魔法道具が直接観察できる。
それっぽい魔法を使っていって、同調の反応があれば成功だ。
こうして俺は軍の敷地内へ容易く侵入せしめたわけだが・・・・・・。
だったら、何に悩んでいたのか?
その答えは俺の手に握られているコイツ。
『こちら、必要になるかと思いますのでお持ちください。幸い、貴方様は坊ちゃんとそれほど体格も違わないようなので』
といってノクァッド侯爵の執事から手渡された品。
そう、軍服だ。
ベルが実家に置いていった予備の一着。
俺はこれを着るかどうかで悩んでいた。
侵入前なら着ない方がいいのは確実。見つかっても逃走できるからな。
所属の確認だとかをされちゃ困るだけだ。
だから変装して正面からもいかなかった。
だが、宿舎の中にまで入るとなれば別だ。
元の恰好じゃ浮きすぎる。
かといって。
そう、かといってだ。
俺はその道を否定して冒険者になった。
なのに今、この服に袖を通すのは・・・なんというか、生き方を曲げるようで、今までを否定するようで虫唾が走る。
しかしながら、友人の安否確認の意味もある。
より確実な選択肢は他にない。
で、あるならば俺は――――。