作品タイトル不明
仲間が居ないよ
「さて―――本丸に行く前にまずはこっちにも探りを入れておかねぇとな」
サンパダから幾つかの魔法道具を仕入れた俺は、ノクアッド侯爵邸の前で気を入れなおす。
その間に教会側からも手を尽くすとは言ってたが、どうするつもりなんだか・・・下手を撃ってバレなきゃいいが。
子供達についてはマンサ商会に置いてきた。
流石にここへ連れてくるだけの動機を用意できなかったってのが本音だ。
特にライザードなんかはあれでも皇太子殿下の嫡男だからな。
生徒だってだけで連れまわすわけにもいかねぇ。
今はサンパダが面倒を見てくれているはずだ。
っつーわけで、周りを巻き込む心配もねぇからベルザフォンの消息を確認しに来た。
直接軍部に行くことも考えたが、なんの情報も無しに行っても透かされちまったら意味ねぇからな。
まずは実家でベルの最近の足取りでも掴もうって魂胆だ。
「それにしても・・・」
まだ門の向こう側にいるってのに、圧巻だな。
隅々まで手入れの届いた~~ってのはこのことを言うんだろうなと思わせる門構え。
流石は家主が外交官を勤める邸宅だこって。
呼び鈴を鳴らすのにも勇気がいるとは。
いいご身分で育ったことだな三男坊め。
などと、心の中で友人を揶揄しながら呼び鈴を鳴らす。
リンゴーンという静かながらも力強い鐘の音が響き、まもなく使用人が現れる。
「どちら様でしょうか?」
「グラーニン辺境伯家の次男。ゼネスだ」
「これはこれは。本日はどういったご用件でございましょう?」
「友人であるベルザフォンと連絡が取れなくてな。実家にでも引きこもっているのかと思って顔を出した次第だ」
「そうでございましたか。しかし、誠に申し訳ございませんが、ベル坊ちゃんは当邸宅にも在しておりません。また、その行方についても詳しくはございません」
「最後に帰ったのは?」
「詳しくはお答えできませんが、私が最後にベル坊ちゃんとお会いいたしましたのは年始の時にございます」
「・・・近況について、なにか聞いてないか?」
「お話しできるようなことはなにも」
渋い顔で首を振る執事だが、なんというか・・・信用されてねぇな?
可能なら邸宅の中に入って精神魔法が使われてねぇか確かめるつもりだったんだが、どうにもこの執事を抜けられねぇ気がする。
「なら、なにか最近変わったことはなかったか? アイツの周りか、あるいはこの家のことでもいい」
「それならば1つございます」
「なんだ?」
「奇妙な訪問がございました」
「奇妙な訪問?」
「左様でございます」
「なにが奇妙だったんだ?」
「その方は有名な貴族家の名を出し、連絡の取れない坊ちゃんの友人を名乗り、その消息を尋ねてくるのです」
どっかで聞いた話だな?
「ですが、坊ちゃんからはそのような話を聞いた覚えはなく、何よりその坊ちゃんに対する敬意もみられず、あまつさえアイツなどと見下げた発言までするのです」
「・・・そいつぁもしかしなくても俺のことだな?」
「お気づき頂けましたか」
おい! しっかりと頷きやがるもんだから、つい掴みかかりそうになっちまったじゃねぇか!
今はそんなことをしてる場合じゃねぇぞ。
「アイツから俺の話を聞いたことがねぇってのは本当か?」
「少なくとも私は聞いた覚えがございませんね。これでも使用人の中では、最も距離が近かったと自負しておりますが・・・」
「思い込みだったんじゃねぇか?」
「では私はこれで」
「待て待て‼ なんかねぇのか? こう・・・アイツと仲が良ければわかる質問的な、なんかは!」
「そうでございますねぇ・・・」
この顎に手を当てて考える執事を見る限り、精神魔法への疑念はしなくてもいいだろう。
操られてる人間がこんな高度? な会話をできるわけがねぇ。
っつーか、これで操られてんなら、操ってる奴は何者なんだって話になるしな。真横で見ててもこんな芸当できる気がしねぇぞ。
「それでは、ベル坊ちゃんの洗礼名はなんでございましょう?」
「Cだ」
「その意味は?」
「コール」
そんなことで? と思ったが、即座に答えた俺の言葉を聞いて、執事は少しだけ目を丸くした。
「どこでそれを?」
「あ? アイツが昔、俺の洗礼名を呼吸できなくなるぐらい腹抱えて笑ってくれやがった後に自分で言って来たんだよ」
『なにかあった時には俺を呼べ。俺にできることなら協力するから』ってな。
その前の『猫⁉ お前が⁉⁉ ~~ッか、可愛いじゃ、ないかっぅは‼ 似合ってるぞ‼‼』と合わせて忘れたことはねぇ。
「そうでしたか。ベル坊ちゃんは洗礼名の意味を嫌がっておいででしたから、それをお知りになられているなら、確かに坊ちゃんのお友達なのでしょう」
むしろそんな話は初めて聞いたが、最も距離が近かったっつー執事が言うならそうなんだろう。
「そこで、私からもお願いがあるのですが・・・」
ここで断ったら話が進みそうにねぇな。
「なんだ?」
「ベル坊ちゃんの暮らしている寮へ、行ってきて欲しいのです」