軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寝間で語らう

「戦争について・・・そなたはどれほど存じておるかな」

陛下は天幕の隙間から椅子を指さし、またベッドへと背を預ける。

持ってきて座れってことだろう。

しかし、かつては神聖だとさえ思えたその体も、流れる時間の中で削り取られてしまったのか。

それを目の当たりにして、少し心が痛む。

「あまり多くは・・・・・・。ただ、地獄であったと」

「地獄、か。そうだな。あの地にいた者達にとっては、すべからくがそうであろうな。奪われたものは、取り返せるものだけではなかった」

土地は返った。

だが、人、物、時間―――失われたものの多くは戻らなかったと、物好きな爺さんから俺も良く聞かされた。

「しかしだ。それは一方的なものの見方にすぎない」

「・・・どういうことでしょう?」

「あの地にいなかった者達・・・いや、違うな。戦争の被害を受けず、その需要だけを授かった者達にとっては、あの戦争というのは、多くの利益を呼ぶだけのものだったのだ」

「利益・・・ですか」

「そうだ」

戦争とは発展のための礎である。

人が死ねば雇用が、物がなくなれば需要が、策に詰まれば研究が捗る。

そう言ったのは誰だったか。

人や物が多く動く以上、ありとあらゆる需要が高まるのは必然。

矢面に立たなければ、その被害を受けないのもまた必然か。

「当時は私もまだ若かった。皇王と頂かれようとも、その中身は経験も浅いただの男に過ぎぬ。日々の政務ですら誰かに頼らねばならなかったというのに、そこへ戦争が降ってくるわけだ。参ったよ」

なにかを思い出すように、陛下は窓へと視線を伸ばす。

「そんな折に現れたのが御父上・・・ということでしょうか?」

「そのような呼び方をしているのだな」

「生憎。あまり関係がよろしくはありませんので」

「そうか。そうだな。そなたの父。ダンデは私の苦境に颯爽と現れた。爽やかというには、些か怒りに燃えた瞳をしておったがな」

御父上が皇王陛下の前へっつーことは、故郷であるはずの現辺境伯領を奪われた後のことだろうからな。

復讐の炎を宿していても、なにもおかしくはねぇ。

「そなたは知らぬだろうが、あの地が奪われたのは私のせいなのだ。私の判断の遅れ、指揮の間違いによって生じた失態であった。多くの民草はその時に、私へ対して落胆の声を上げたりもしたほどだ」

「それは知りませんでした」

「失態を後世に残す意味はないと、英雄となったそなたの父が言うもので、誰も語らなくなったのだ」

「失敗を隠さないということは、決して無意味だとは思いませんが・・・」

「私もだ。だが、皇王の威光を陰らせてまで残すものではないと進言され、家臣たちも賛同したために、私はなにも言えなかった」

それが良かったのか、悪かったのかは、もっと後の時代にならないとわからないことだ。

それでも、本人が悔やんでいるのなら、陛下自身は辛かったんじゃないだろうか?

失態すら帳消しに、ひたすら持ち上げられることが。

「少し話を戻すが、ダンデが私の前に現れた時、私は問い詰められるかと思ったのだ。なぜ、防衛が遅れたのかと。なぜ、救援がなかったのかとな。しかし、ダンデはそのようなことを言うことはなく、まして私を貶めるような発言をした者へ、毅然とした態度で言い放った」

『なにも知らぬはずの貴殿であれば、完璧に敵を撃ち滅ぼし、侵略を抑え、あまつさえ敵の領地を掠め取って見せたと。そう言われるか?』

この言葉をもってゴルドラッセは御父上についたと聞いた。

「有名な英雄殿の啖呵ですね」

「流石に存しておるか。それを言われたのは私の弟の1人。つまり皇族に向かって、そなたの父は平然と言ってのけたのだ。皆の前で。貴様は王たる資格も持たずに、その資格を持つ者へ唾を吐くのか・・・とな」

「失礼ですが、それが陛下の言った利益を貪ったものと、どう関係があるのでしょう?」

「はっはっは! ここで聞くということは、わかっておるのではないか? その利益を貪ったものが誰なのか、その上に誰が座っていたのか」

失態を犯した王を糾弾する王位継承権を持つ皇族。

それを支援する貴族や商人達。

その理由はどこから来るか―――考えるまでもない。

「私を王座から降ろし、その権力を握ろうとした弟。それを阻んだのが、そなたの父と現教会勢力だ」

「ッ⁉ 教会が・・・ですか?」

「教会でさえも戦争の利益は授かる。いや、それどころか1番の恩恵を受けたと言っても過言ではないだろう」

それはそうだ。

軍を大きく動かすなら薬は必要不可欠。祈祷の依頼もひっきりなしだろう。

孤児の受け入れや、戦場へ赴く家族を思っての寄付だってあったはず。

「ではなぜ陛下を支持したのでしょう? 当時なにか政策でも打っていたのですか?」

「まるで私を支持しない方がいいみたいだな」

「そうではありませんが! ハッキリ申し上げるならば、金は沈黙を呼びます。皇王がすげ変わったところで、教会に変化があったとは・・・」

「真相はわかりかねる。なにしろ私は教会の人間ではないからな。ただ、」

「ただ?」

「望福教と言ったか。アレは当時からあったのではないか? と今になって思うのだ」