作品タイトル不明
間道の先に
「こんな通路まであったのか・・・」
俺はグレアムの爺さんから受け取った手書きの地図を頼りに地下道を進む。
ワンダーゴーレムとご対面した、あのダンジョンへ向かう時と似たような地下通路。
そのうちの1本が、どうやら皇宮――皇城の、直系皇族が日常生活を送る空間へと続いているらしい。
万一の時の避難通路にもなっているんだろう。
細いながらもしっかりとした頑丈な造りと、足元まできれいに整地してあって異様に歩きやすい道になっていた。
俺はこの通路を1人で歩む。
ライザードに来るか? と聞いてみたが、そんな権利はないのだと辞退された。
家族に合うだけのことに権利が必要なのか? と意地悪な質問までしてみたが、時にはそういうこともある。今がその時だと、やけに大人な返しをされた。
そのあっさりとした対応には一抹の寂しさを感じたが、これも成長だと割り切って1人で来た。
続けてバロンを誘ってみたところで、同じ反応をされそうだったからってのもある。
英雄の息子が会えるなら、英雄の孫だって会えるだろう。
陛下の息子の友達で通るなら、陛下の孫の友達も通るだろう。
だが、本人にその気がないのなら仕方がない。
それは俺の言葉じゃなく、俺へ向けたグレアムの言葉でもあった。
俺が、俺だけがその気になったんだから、1人で行けと。
多分そう言いたかったんだろう。
あぁ、違うはずがない。
―――なんて、恨みがましくも責め立てていると、やがて通路が終わりを迎える。
教会から貴族街の地下を通って、皇宮のさらに奥へ続く道。
その終わりは、ひっそりと存在する地下通路に見合わない豪華さを携えた入り口と階段。
貴金属などは使われちゃいねぇが、真っ平に削られた壁や床の石材に、職人が描いたと思われる美しい彫り込み。
金や銀には輝かなくとも、ここは優雅で優美な空間なんだと告げるには、十二分過ぎる装飾が施されていた。
非常用の通路にこんなもんが必要なのか? という疑問が消せなかったが、現に俺のような奴がこうしてお忍びで訪問しているんだから、その手の連中に重大さを理解させるのには必要か・・・などと馬鹿みたいな納得をしつつ、壁のような扉に手を当てて地図に記された合言葉を唱える。
『顔の見えない来訪者が、影を落としにやって来た。耳の聞こえぬ来訪者が、この場で声をも失うだろう。貴方を目にした来訪者は、心を洗われ鱗を落とす。来たれ、去れ、開けよ、閉じよ。選ぶならば参れ。さぁ、いざ行かん。この地より彼方へ』
扉に当てた手には魔力を通してある。
合言葉を唱え始めると同時に扉はボゥ・・・と鈍く光り始め、唱え終えると同時に光を失う。
その後、
「ーーあっつッ⁉」
首筋に熱っした首輪をかけられたような感覚を受け終えると、ようやくズズズと壁のような重たい岩の扉が動き出す。
確認する術はねぇが、首に熱を感じたのは”契機の呪印”が浮き出たせいだろう。
合言葉の前半は契約の口上で、魔力を通して読み上げることで誓いを立てる。
『表向きに来れない客人が、役に立つ情報を持ってきた。ここでの全ては聞かなかったことにするし、誰にも話さない。皇王陛下のことを裏切るようなことは決してせず、そのために契約します』
おおよそこんなところだ。
破ったらどうなるか―――まで言う必要はねぇか。
奥へ奥へと動いていた壁のような扉は、姿勢をそのままに途中で進路を変え横へと収まり、今度は木の板のような壁が現れる。
その眼前に立ったところで、パカッ! とまたも壁が奥へと開き、長い毛の高級であろう絨毯が敷き詰められた部屋が飛び出す。
そのまま部屋まで進むと、木の扉が勝手に締まり、なんの変哲もない壁へと姿を戻すと、その裏でまた。ズズズと重い岩の動く音が聞こえた。
部屋を見ると変わった造りをしているのがわかる。
水場が在ったり、荷物を置くための棚や、服を掛けるための家具が有ったり、見る人物によってはこう言うだろう。
『まるで玄関のみたいだ』ってな。
それぐらい室内にあるのはおかしな部屋だ。
それらを確認し終えた辺りで、
「―――失礼します」
まるで計ったかのように出迎えられた。