作品タイトル不明
眼間に問う
「ならば、会いに行ってみるか?」
「誰に?」
「もちろん。陛下に、だ」
「ッ⁉ できるのか⁉ そんなこと・・・」
「お主なら可能だ。英雄の息子である、お主ならばな」
グレアムの爺さんは自信を纏った態度で頷く。
「そこまで重いのか・・・? 御父上と陛下との繋がりってのは・・・」
「戦争を、言葉でしか知らんお主らにわからんのは無理もない。あの時代を生きた人間にとって、お主の父親は特別なのだ」
遠く――その時代を見つめるような視線。
その目にはなにが映っているのか。
俺達にはわからねぇ。
俺にも、子供達にも。
「酷い時代でしたからな・・・。私にとっては大きな好機となったわけですが、そうでない人の方が多かった。失ったものを奪い返す戦いというのは、ただの戦いとは一線を画すのですから」
当時まだ子供だったというサンパダでさえ、酷い時代だったという。
もう50年は経とうとしている戦争の傷跡。
俺はそれしか知らない。
恨みを燻ぶらせ、品性を貶めてでも、敵を殺せと叫ぶ民衆。
自らの弱さを嘆き、現を見ないと目を潰した人の半生。
対岸を睨み佇む鋼鉄の要塞。
それが俺の知る戦争の全てだ。
子供達はそれさえも知らないだろう。
バロンですら、理解していなくてもおかしくはない。
戦争という痛みと、それが残した恨みの形。
忘れてはならないが、遺してもならない。
しかし、戦争を経験した人々にとっては、紛れもない現実で。
今なお、覚えている傷なんだろう。
「陛下に会いに行ったとして、俺まで操られたらどうするつもりだ?」
「お主がそのような失態をさらすとは思わんが、その時はその時でどうにかするだけだ。向こうには子飼いも潜ませている。種を暴いて意識を正常に戻せば、それだけでも事態は大きく収拾をつけるだろう」
「相手はあの御父上を操ってるんだ。そんな軽い考えしかねぇなら、下手に動くわけにゃいかねぇな。俺の存在はそれほど軽くはねぇはずだ」
「恐れておるのか?」
「あ?」
慎重に考えての俺の言葉に、冷たく返すグレアムの爺さん。
「恐れもすんだろ? 下手すりゃ国ごと乗っ取られるんだぞ?」
「そんなことではない。いや、お主にとってはそんなことなど、どうでもいいことのはずだ」
「どういう意味だよ?」
「お主が真にこの国を思い、お国のためにと思うておったなら、お主は冒険者などではなく、軍人になっておらねば可笑しいだろぅ?」
「今になって愛国心に目覚めるのはおかしいってか? 別に俺は、冒険者になったからって生れた国を捨てたつもりはねぇよ」
「そうではない。お主が軍人にならなかったのは対抗心があったからだ。認めたくないと、抗ってやると、そう心に決めて立ち上がったからだ。誰に? など言うまでもなかろぅ? その相手から、お主は逃げようとしているのだ。だから聞いておる。それで良いのか? とな」
腹にナイフを刺すように、グレアムの爺さんは言葉を紡ぐ。
ガンとして視線はそらさず、ハッキリ切り捨てるかの如く。
逃げるなと、そう突き付ける。
「皇王陛下へ会いに行くことが、御父上に勝つことになるのか?」
そんな爺さんから俺が視線を外し、背中を向け、はぐらかそうとした瞬間、
「いつまでも屁理屈を捏ねるつもりか⁉⁉」
怒気を孕んだ一喝。
「父親を御する相手へ背を向け、進んだ先になにがある⁉ そんなお前が、ここに残ってなんになる‼ 立ち止まる理由を人に押し付けるなと! 教えたはずだぞ‼ ゼネス‼‼‼」
ビリビリと空気を震わすほどの声で、出会ったころ思い出させる口調で、教皇グレアムが吠えた。