作品タイトル不明
世間の事情
変わらぬ空間がそこにはあった。
中央には箱、手前に樽、上座にはボロいソファ。
砂地の床に詰めたて作られた壁。
あの時は俺の隣にはエイラが居たんだったか。
時間的には、それほど立っていないはずだが・・・その後のギルド訪問やらドラゴン襲来やらを思えば遥か昔に感じられた。
さっさと話をしようと俺が一早く樽に座ると、
「あんたは恩人なんだ。真っ先にそっちに座らなくても・・・」
と女は言うが、どっちだろうが構わない。
椅子の座り心地に苦言を呈すほど温室で育っちゃいねぇからな。
「席なんざどこだっていい。石の上でも構わねぇよ」
「粗野だねぇ。それとも、冒険者の流儀ってやつかい?」
「どうだろうな? それで、皇都でなにがった?」
「さっそくだね? でも・・・そうだな。なにから話せばいいやら」
「反逆を起こしたのは誰か、そしてその目的、更には後ろにいるだろう支援者の情報があればいいな。最後に現在の皇都がどうなってるかも聞かせてくれ」
「なるほど、わかったよ。けど随分と話が早いね? もしかして、もう大体のことは知ってるのかい?」
「それを確かめるために話を危機に来たんだろ」
「それもそうか・・・・・じゃあ覚悟して聞いておくんな」
ここで女は一度会話を切り、前に乗り出すようにして話し出す。
「反逆を起こしたのは望福教って宗教団体さ。目的は国教の変更。そのために現行の国教である加護教が如何に正しくないか、そういう演説を行ったそうだ」
ある意味予想通りの名前が出てきたな。
「やっぱりか・・・・・・しっかし、なんでまたこんな時期に」
「なんでこんな時期なのかって答えとは違うかもしれないけどね。勢いがあったからだと、あたしは思ってるよ」
「どういうことだ?」
「演説時のことなんだけどね。なんでも、その時に行方不明になってた皇都の人間が続々と見つかったそうだよ」
「あぁ、行方不明はそのための仕込みだったのか・・・印象付けか心象の操作か、あんまり良い手だとは思わねぇがな」
そもそも、行方不明者が望福教関係者なら、調べればその繋がりが明るみになる。
そうなった時点でどんな印象も心象も引っ繰り返るってもんだ。
それに、その繋がりは簡単に調べがつく。
俺がそうだったように、な。
持ち物でも家財でも、調べればすぐに証拠が出てくるだろう。
「あんたがどう思うかはわからないけどね。皇都ではそれが効果てきめんだったようだよ」
「なに⁉」
「まあ、そっちもきな臭いというか・・・仕込まれてたんだろうなってのはわかるんだけどね。相手が悪い」
「相手? 望福教にはそんな指導者がいるのか? 教祖がそうだとか?」
「いや、そうじゃないよ・・・・・・そうじゃないんだけど・・・」
ここで女はまた姿勢を変える。
今度は背もたれに身をゆだね、顔ごと視線をそらして、話を遮るように。
「歯切れが悪いな?」
「そりゃあ歯切れも悪くなるってもんさ」
「そんなのが相手にいるってのか?」
「それもそうなんだけど、やっぱりそうじゃないんだよ」
どうしても言い辛そうにする女に、
「話す気がないのか?」
脅しのように問いかける。
「~~~っ‼ わかった! 話すよ! けど、覚悟はしとくれよ‼」
あーもう! といった感じで女は肚を割るように、勢いをつけて再度前のめりになって続ける。
「戦争の英雄様。ダンデ・L・グラーニンが後見人になっちまったのさ‼」
「・・・・・・はぁ?」
俺の反応の悪さに、女は頭をかきむしるような仕草をしてから、もう一度告げる。
「だから! あんたの父親が望福教を国教に据えようとしてんだよ‼」
いや、言葉の意味は分かる。
それに村でもそれらしい情報はあった。
だが・・・、だがだ。
「なんでそんなことになる?」
「あたしが知るわけないだろう⁉ けど、間違いなく英雄様は向こう側に付いちまってる。この情報はここの領主様から直々に教えられた情報だ。あんたが来たら伝えてやって欲しいってな」
それなら領主屋敷に向かっても良かったか? いや、だが礼儀を気にしなくともいいこっちの方が気が楽か?
などと、酷くどうでもいいことばかりが頭をめぐる。
「どうしてこんなことになったのかはわからない。けど、英雄様は望福教を受け入れて、行方不明になってた軍人達を軍中央へ取り込むことで一気に皇都の情勢を変えたんだ。そのせいでこっちも大忙しさ。最悪、皇都へ向けての進軍もあるかもしれないんだからね」
頭が痛い。
面倒が過ぎるぞ。
ここでさっきの楽観視が効いてくる。
『持ち物でも家財でも調べれば、すぐに望福教との繋がりを見つけられる』
これが逆の意味を持つようになる。
まず、皇都軍が動かせ無くなれば持ち物や家財を調べることは不可能になる。
他に公平性を保証できる存在が居ねぇからな。
次に望福教とのつながりだが・・・、行方不明のところを助けられたので改宗したんです! と言われりゃわざわざ疑ったりなんざしねぇだろう。
これにより不正の摘発ができないまま、新興宗教の信者が爆発的に増える。
皇都の住民数は多いが、こういうのは勢いや雰囲気も重要なんだ。
教会の在り方や教えについて興味のない人間は、そういうのに流されやすい。
そして流される人間が増えれば、よりその流れは強くなる。
対抗するためには、それなりの根拠が必要になる・・・・・・なるんだが。
なんつっても宗教だ。
神様の存在でも証明できない限り、根拠なんてもんを持ち出す方法がねぇ。
本来なら軍っつー中立派が場を整えるなりなんなりをするところ、今回はその軍が抱きこまれてやがる。
教会単体で対立するか、国民・・・あるいは皇族を味方につけるかしねぇと国教のすげ替えがが起きるぞ⁉
たかが宗教が変わるぐらい―――と思うかもしれねぇが、教会の役割は広く大きい。
国際行事や重要行事での祈祷。
治療院の建設や回復薬の制作、販売。
孤児や学園へ通えない子供達への教育。
各地の調査・巡礼。
中には政への意見出しまである。
これらが替わるってことは、小さいことなら回復薬の効果から、大きくは国の運営まで。
それら全部がガラッと変わっちまうことになる。
その煽りを受けて、商会の取り扱う商品も変わるだろうし、仕入れ先も変わるだろう。
仕入れ先が変わるってことは遠征先が変わるってことで、そこまでの消耗品の使用料や道中の安全も変わり、それが商品の値段に反映される。
安くなればいいが・・・安定している足場を崩すんだ。そんなことにはならねぇだろう。
そうなりゃ庶民の生活は一変する。
当然、俺の生活もだ。