作品タイトル不明
side――バロン
上手くいってる!
思ってたよりずっと‼
手応えがある!
考えてたよりもっと‼
自分が集中できてるのがわかる。
周りの動きも手に取る様にわかる。
戦うことが怖くない!
それどころか・・・楽しいくらいだ‼
弾む息に合わせて、戦闘がまるで踊っているかのように感じる。
頭に思い描いた映像が、そのまま現実になる感覚。
この感覚のことを皆はなんて呼ぶんだろう?
とにかく早く動きたい!
敵と離れた時の魔法攻撃が煩わしいくらいに。
そうして、渡り合うこと2度3度・・・・・・少しずつ頭の映像と現実にズレが出始める。
けどそれは悪いズレじゃない。
当たらないと思ってた攻撃が当たるようになったり、来ると思った攻撃が来なくなったり、僕らに取って有利なことばかり。
これはもうすぐ決着がつくんじゃないかな?
僕らの圧勝で。
なんなら僕の手で・・・‼
それなら殿下を見返せる!
叔父様の犠牲も、無駄じゃなかったって言えるはずだ‼
そう思い始めたところで4度目の支援攻撃。
もうただの大きい的に成り下がってしまったゴブリンが死んでしまわないか冷や冷やしたけど、まだ大丈夫だったみたいだ。
随分濁った眼で、僕らを睨む。
目が死んでないっていうのは、こういうことを言うのかな?
今度実家に帰ったら、ゴルドラッセに聞いてみよう。
なにを狙ってるんだろう?
いまさらなにをしたって無駄なのに。
軽い気持ちで前に出る。
だって僕の隣にはジェーンが居てくれる。
殿下達だって、ただ見ているわけじゃない。
だから、早く終わりにしよう。
この手で勝利を掴んでやろう!
動き出しはより早く、先手を取って動きを制す。
腕も、脚も、もう十分には動かせないはず。
頭を狙え、目を狙え、下がれば足を、避ければ胴を。
刺し、穿ち、貫く気概で槍を突け。
それでもし、隙ができたなら―――その一瞬を決して逃すな‼
ゴルドラッセから教えてもらった槍の使い方。その通りに動いていると、来たんだ。
決定的な瞬間が‼
お互いの足先がぶつかりそうな間合いで・・・なのに、敵が避けも離れもせずに振りかぶる瞬間が‼
勝てる‼‼
勝利の光景が脳裏に浮かんだ直後、視界が開ける。
大きく上段に振り上げた槍が切り裂いたように、僕の腕の向こう側・・・今にも倒れそうになジェーンの顔が見えた。
それと同時に、ゴブリンの振り上げられた腕の先が、硬く握られた拳ではなく、柔らかく解けた平手の形になっていることに気が付いた。
そして、その狙う先は僕なんかじゃなく、隣に立ち尽くすジェーンだということに。
この槍を大胆に振り下ろせば、たぶんだけどこのゴブリンは死ぬはずだ。
でも、腕の勢いは止まらない。
振り上げられた腕は真上からじゃなく、より遠心力の効いた斜め上から横回転を伴って飛んでくる。
ジェーンはもうそれにも気付けてない。体力の限界だったんだ!
僕なんかと違って、重い盾を持って動き回ってたんだから当然だ!
それにジェーンは女の子じゃないか‼
だけど‼
僕も! 間に合わない‼
この槍を力一杯振り下ろしても腕はジェーンを薙ぎ払う。
かといって、ジェーンを連れて避けるなんてことも出来そうにない。
吹き飛ばされたジェーンは立ち位置の都合上、僕の方に飛んでくる。
そこを受け止めるのは・・・?
なんて考えもあったけど、槍を振り下ろした後の体勢でそんな事できるわけがない。
僕だけ避けるなんてのは論外だ‼
だったら‼
大きく振り上げた身体ごと槍を引き戻し、角度を直して突き出す。
狙う先は振り上げられた二の腕。
太く逞しいゴブリンの二の腕を狙うのは簡単だった。避けるそぶりも見せないその腕に、槍がブスリと深く突き刺さる。
けれど腕の動きは止まらない。
痛みに叫びながらも、ゴブリンは僕らを薙ぎ払う。
でも、その勢いは確実に弱まっていて・・・・・・。
すぐに槍を捨ててジェーンを受け入れるために腕を広げる。
一緒に弾かれた盾がガィンッ‼ ゴィンッ‼ と飛んでいく横で、僕はジェーンを必死に抱き留める。
といっても受け止めきれるはずもなくて。
2人一緒くたに地面を転がる。
そして遠くで魔法が輝く。
僕らから離れた敵を撃ち滅ぼすために。
ああ・・・―――そういえば、
『槍を大きく振り上げてはいけませんよ? それは剣でやることです。距離を詰められないようにするにしても、横に小さく振ってください。絶対に』
ゴルドラッセにもそう言われてたっけ。
忘れてたなあ・・・・・・。