作品タイトル不明
side――ライザード
余計なことを言ってしまった。
そんなことはすぐにわかることでした。
あの時、バロンの表情が歪んだ瞬間。
理解していました。
ですが、この僕は未来の皇王。
態度を変えることなど、そう簡単に出来はしないのです。
その結果、関係が悪化しました。
現地までの移動中でさえも、居心地が悪く。
皇族であるこの僕に・・・このような感覚を味合わせるなど、不敬極まりない。そう思うものの、バツの悪さからか言葉にはできませんでした。
おそらくですが、根底には自らの過ちに対する呵責があったのでしょう。
そこで謝ることができたなら―――・・・どれだけよかったことでしょう。
しかし、この僕は頂点へ君臨すべく生きるもの。
頭を下げることなど、出来ようはずがなかった。
だからこそ、憎まれ口をたたいてしまった。
それがどんな行動へとつながるのか・・・・・・よく考えもせずに。
戦場に立つという非日常感が。
戦果を挙げることであられる昂揚感が。
そしてなにより、この僕の力を見せつけられたという慢心が。
この僕を増長させた。
その末に発した言葉が『役立たず』いったい僕は何様か・・・。
まだ、なにもなし得ていない。ただの子供だというのに。
守られているだけの存在だったというのに。
そんな言葉を真に受けて、バロンは走り出してしまう。
今までの有象無象とは違う。一目見て分かる強敵へ。
駆け出してしまう。
碌な武器も持たずに。大した作戦も無しに。
この僕の・・・どうしようもない言葉だけを背負って。
”待て‼”そう言って手を伸ばす。
けれど、届くはずなどない。
それに、この僕を押さえつけるものまでいるじゃないか‼
振り返れば必死な顔をしたエイラス。
その顔には”あなたの身になにかがあってはいけない”と。
そう書いてあった。
こんなことになったのは。この僕のせいなのにだ‼
こういった時にこそ不自由を感じます! 不条理が身に沁みます!
権力があればこそ、この血が貴ければこそ!
いざという時――矢面に立つことなど許されない‼
どうしたって、この僕は王であり・・・騎士にはなれないのだと‼
そして、その責を負うのは―――あの教師、ゼネスだ。
飛び出したバロンを制止するために駆け寄ろうとしたのだろう。
僅か一瞬だったが目もあった。
それで安堵してしまった自分を情けなくも思うが、これで・・・・・・と、そんな希望は露へと消える。
ゼネスが動き出すと同時、巨体を誇るゴブリンも動き出したのだ。
本当に。アッと言う間でした。
一言発するほどの速さで、岩が宙を舞ったのです。
更にゴブリンは走ります。
バロンの蛮勇を咎めるように。
この僕の失態を嘲笑うように。
決して逃さぬという気迫で。
必然。
それを迎え撃つのはゼネス。
バロンには荷が重い。いいえ、重すぎる。
そんなことは誰の目にも明らかでした。
敵の目にも。
だから岩の投げたのでしょう。
ゼネスがもし、バロンと岩の間へ入ることができたのなら・・・岩を砕き、その残骸を以ってゴブリンへの牽制とできたでしょう。
ですが、ゼネスは間に合わない。
最短距離を移動しても、宙を舞う岩の横面に辿り着くのがやっと。
そこで岩を壊したとしても、ゴブリンは止まらない。
逆にゴブリンを止めようものなら、岩はバロンへと襲い掛かる。
そのどちらも、バロンの力ではどうすることもできないでしょう。
それらを防ぐ唯一の選択肢は、その両方を迎撃すること。
―――しかし。
しかし、そんな事ができるのであれば、あれほど必死に走ったりなどしないはず!
ならば、そのどちらを選ぶのか・・・・・・あまりに不謹慎ですが、興味が湧いてしまいました。
贔屓はしないと大層な宣言をした教師が、取るに足らないと判断を下した相手に。
甥の、あるいは生徒の命を取るのか。
もしくは、探しさえしなかった行方不明者のように目的を取るのか。
・・・結果から言いましょう。
あの教師はバロンを守りました。
岩へ走るわけでもなく、敵へと走るわけでもなく、生徒の下へと駆け寄って―――より確実な安全を保証したのです。
押し出すようにしてバロンと入れ替わり・・・・・・。
そして、岩に圧し潰された。
反撃がなかったわけではありません。
ゼネスは岩に圧し潰される寸前に、奇しくも同じく岩でゴブリンを撃った。
その籠手から弾丸のように発射された岩は、巨大なゴブリンの頭部へと直撃し、片目を奪った。
ゴブリンは痛みに喘ぎ、足を止め、バロンは救われた。
この僕らを守る最大の戦力と引き換えに―――・・・・・・。
そうなってから、ようやく気付く。
自分達の置かれた状況に。
やがて、騒然とした後。
静まり返っていた生徒達へ混乱が伝播する。
絶対的な安全を作り上げていた盾が失われたのだと。
にもかかわらず。
脅威はまだ、存在するのだと。