作品タイトル不明
黙々とした行動
ドサリと倒れる死体の風穴からは赤くはない血と、様々なものが垂れ流れ出る。
それでも、戦場に充満するにおいはいつだって同じだ。
むせかえるような血のにおいと大小混ざった便のにおい。焼けた肉のにおいも追加されてる。
そして、それに耐えられず吐き出された吐瀉物のにおい。
目の前に横たわるを正しく理解した生徒達が次々と口元を押さえ、へたり込み、胃の中のものをぶちまける。
その反応は初めて戦場に立つなら普通であって・・・むしろ。
「お前らはいいのか?」
「モンスターが死んだ。それだけでしょう?」
「そ、そうですわね! ・・・うぷ、いえ! 気持ち悪くなどありませんわ‼ みっともない姿など見せないと誓いますわ! ぉぇ――ですわ‼」
痩せ我慢であっても、耐えられる方が稀だ。
しかも自らの手を汚したとあれば尚更。
「どうせ立て直すのには時間がかかる。無理する必要はねぇんだぞ? お前らもな」
まだ立ったままだった他の生徒にも、同じように問う。
「商人は襲われることが多いので。皆が捕まるわけじゃないですし」
「僕も・・・大丈夫、です」
言葉通り平気そうなエイラスと明らかに無理をしているバロン。
エイラスの言っていることはわかる。
町にあっても、移動中にあっても。商人は襲われるものだ。
理由がいくらでもあるからな。
で、下手人は捕らえるより殺すことの方が多い。
技量的にその方が簡単だからだ。
捕らえて引き渡せば賞金になることもあるが、街中でもなければ運搬の費用も掛かるし面倒も見なきゃならない。
だから、見慣れてるって理屈はわからなくもねぇ。
エイラスのその歳でどれだけの経験があるかは疑問だが・・・。
逆にバロンは―――。
そうするべきだって使命感だけで我慢してる。
まぁできるならそうすりゃいいとは思うんだが、どう見ても無理してるんだよな。
祭りのあの場面でも後ろに下げさせたのは、決定的瞬間を目の当たりにさせねぇためだったし、免疫がねぇのも無理はねぇ。
ただ――・・・いや、俺の手前。泣き言なんざ言ってられねぇとでも思ってるのかもな。
どちらにせよ死体の放置は衛生的に良くねぇし、さっさと処理しちまおう。
そのことの重要性も教えなきゃならねぇし・・・なんて思っていると。
「だらしないですね? 国のために戦う者達を束ねる要職に就くはずの将が、まさかこんな小物の死体に辟易しているのですか?」
ライザードがらしくもねぇ無駄口を叩く。
「・・・・・・別に。こんなの、どうってことないから」
それを鬱陶しそうに流すバロン。
なにかあったのか? とでも、聞けりゃ楽なんだろうだが・・・聞いてみたところで話すつもりもねぇだろう。
「気分は悪いだろうが、そろそろ注目しろ。死体処理のやり方を見せるぞ。これをそのままにしておかねぇ理由についても説明するから、ちゃんと聞けよ」
俺は生徒達の視線を集めて実演しながら解説した。
いつもなら焼いちまうところだが、今回はにおいのこともあるから、土で分解するやり方を選んだ。
一通り。モンスターの死体を残さない理由と合わせて手順を教え、質疑応答を挟んで次へ。
碌に質問できるような状況でもなかったため、大した時間はかからず。
未だ若干名体調の悪そうな表情だが、悠長に待っても居られねぇ。
さらに段階を1つ進める。
俺達は洞窟の入り口にまで進み、中の様子を探る。
「コイツはそのための魔法道具だ。こっちには探知が、こっちには感知の魔法が掛けられてる」
俺は両手に持った2つの魔法道具を見せる。
そして、その片方。探知が掛けられた魔法道具を洞窟内へと転がす。
「探知の魔法道具で中を探索して、その結果を感知の魔法で読み取る。こうすることで中に入らずとも、それなりに正確な情報を手に入れる事ができる。難点があるとすりゃ、探知の魔法道具は回収が難しいから使い捨てになりがちってところと、横穴が多い場合は役に立たねぇことがあるってところだ」
転がされた探知の魔法道具は丸く、全方位360度へ向かって探知の魔法を飛ばす。そうすることで、洞窟の内部構造や、生物の配置を調べることができ、その情報を感知の魔法が小型の立体映像として映し出す優れもの。
ただし、横穴が多い場合には探知の魔法道具を大量に用意するか、分岐路で探知の魔法道具を止めて、そこまで取りに行くかしなきゃならねぇ。
後は、それなりに強いモンスターであれば、探知の魔法道具に気が付いて破壊されるのが玉に瑕だな。
今回は下調べでそうはならねぇと踏んでるが・・・どうだろうな。
感知の魔法に映し出される洞窟は順調に広がっていき―――やがて、分岐路へ。
この時点で探知の魔法道具は一時停止。
放っておけばその中から1つを勝手に選んで進むんだが・・・俺は遠くからでも魔法道具の位置を正確に補足できる。
その能力を使えば遠隔から魔力を流し込むことも可能だと、気付いていた。
だからここで探知の魔法道具に魔力を送り込み、同時に操作する。
探知の魔法を最大出力で起動。
分岐路のさらに奥まで。感知の魔法によって映し出される情報が一気に広がる。
「うわっ⁉」
生徒の驚く声が聞こえるが、誰のかまではわからねぇ。
広がった立体映像では、片方は短い行き止まり。もう片方は奥へと続く。
それが数回。
どの行き止まりにもいくつかの生体反応。
大体が6の倍数であるため、予備の戦闘部隊かなんかだろう。
奥へ奥へと転がり続けた探知の魔法道具は、とうとう最奥と思わしき場所へ。
中途半端に広く膨らんだ空洞。その中央に、比較的大きな生体反応。
コイツが上位種で間違いないだろう。
そしてそのさらに奥。探知しきれなかったが小さい生態反応がチラホラ。
繁殖場か育児場か。
わかりゃしねぇがそれより奥はねぇだろう。
それ以上に守るべきものが奴らにはねぇからな。
とはいえ、だ。
「それなりに数が多い。釣り出して戦うぞ。気付いてるだろうが、魔法を強化する道具も設置済みだ。入り口に縫い留めるつもりで狙い撃て! 撃墜数が多けりゃ学園からなにか出るかもな。気合い入れていけ! いくぞ‼」