作品タイトル不明
煌々とした魔法
遠距離攻撃は脅威にならない。
そのことを生徒達は理解した。同時に、ゴブリン共も。
だからゴブリン共は弓を捨て、その場にあった武器を拾って突撃してくる。その手に握る武器が壊れたものであっても。
そうすりゃ今度は生徒達に不安がよぎる。
弓矢は弾いた。けれど、本体はどうだ?
理屈はわからないが確かに弓矢は寄せ付けなかった。
だが、突撃してくるゴブリンは防げないんじゃないのか? と。
緊張が走る。
ゴブリンの能力は子供のそれを同じだと話した。
それはつまり、足の速さも変わらないということ。
ゴブリンに見つかってからも前に出た俺達とゴブリン共との距離は50Mそこそこ。
両者がぶつかるまでは、時間にして――およそ10秒。
生徒達はすぐに思い出すはずだ。
俺の言葉を。
『授業と同じだ。よく狙って魔法を放つ。それだけでいい。それだけで敵は死ぬんだからな』
必然。
生徒達は次々に魔法の詠唱を始める。
『火よ!』『水よ!』『風よ!』『土よ!』――と。
それは初級の攻撃魔法。
目を見開いて敵を狙う生徒と、目を閉じて魔法を意識する生徒は半分ずつ。
これは教室の差か。
そして、そうなれば否応なく魔法は先頭の1匹に多く集まってしまう。
敵が見えてねぇんだから仕方がねぇ。
目を開けていれば、そういうことにも気付ける。
気付いた誰かが、標的を変えるぐらいはできるだろう。
目の前の光景に怯みさえ、しなければ・・・・・・。
それは幸運か、もしくは不運か。
先頭のゴブリンに魔法が当たる。
誰の魔法かは判別がつかなかった。
ただ、その魔法は火の魔法だった。
走るゴブリンは眼前に飛び出した火の玉を避けられず、直撃。
弾は形を失い、火がゴブリンの体を覆うように広がる。
ここまでならば、大したことはない。
所詮はただの初級魔法。
それだけじゃ燃え広がるようなことはない。
だが、既に仕込みは終わっている。
ゴブリンの体にまとわりついた火が消えるより早く、次の魔法が当たる。
風の魔法だ。
本来であれば、風の初級魔法は当たれば吹き飛ばされるだけ。
しかし、この魔法は違った。
ゴウ! と、ゴブリンについていた火の勢いが増す。
散り、消えるはずだった火は燃え上がり、ゴブリンを焼く。
「ギィイイイイャアアアアアアア――――」
自分の身になにが起きたのか。
先頭を走っていたゴブリンにはわからない。
足を止め、自らの腕を、身体を見る。
そこには炎がこびりつき、皮膚を黒く焦がし、油のように溶かす。
腕を、肩を、頭を払うが・・・炎は消えない。落ちない。
後ろを振り返り、仲間に助けを求めるが・・・誰も、助けてはくれない。
そんな手立てを持ち合わせてはいないからだ。
崩れ落ちるように膝をつき、けれども。一縷の希望に縋って懸命に手を伸ばすゴブリン。
だがしかし、その手を取る者など居はしない。
やがてその体が黒く染まるより早く、声を失い、形を崩す。
そこに残るのは干からびた黒い物体。
命が焼き尽くされ無機物へと落ちた炭くれだ。
その事実に、打ち震えるのはゴブリン―――だけじゃない。
足を止め、震えあがるゴブリンを見る生徒達にも。同じ恐怖が広がる。
”もしかすれば、自分もああなるんじゃないか”
決して逃れることのできない怖気。
それは、目を開けていたものにこそ目の当たりとなる。
乱れ飛ぶ予定だった魔法は舞わず。
先に気を取り直したのはゴブリンだった。
「ギギャ‼」
行くぞ! と手を振り号令をかける。
奴らにとって戦闘は日常茶飯事。
誰かが死ぬこと自体は慣れっこだ。
――ただし。
それ目の当たりにしなかった・・・それどころではなかった者にとっては、今の事象は存在しない光景だ。
号令をかけたゴブリンは先頭にいたゴブリンの後ろに立っていた。
最初のゴブリンがリーダであったなら、コイツは次のリーダーだったのかもしれねぇ。
それが道を分けた。
先頭のゴブリンを狙った直線上に、そいつが居たからだ。
次に飛んだのは土の魔法。
当たって砕けるはずの魔法。
しかし、そうはならない。
固められていた土は砕けず、そのままゴブリンにへばりつき、押し倒すように地面へ。
胴体を丸ごと拘束されるゴブリン。
立ち上がろうと手足をばたつかせ、地面を押すが意味はない。
そこへ、さらなる魔法が喰らいつく。
水の魔法だ。
弾けてなくなるはずの水が、ゴブリンの顔をすっぽりと覆って離れない。
余談にもならねぇが、ゴブリンだって呼吸ぐらいはする。
そして、それができなければ死ぬ。
拘束されたゴブリンは水を払いのけようと必死に手を使ってバシャバシャと掻き出すが、水は形を変えるだけでその量が減ることはない。
ゴボゴボとゴブリンの視界には気泡が溢れ、次第にもがくこともなくなり、最期には喉を掴んで沈黙する。
血の代わりに臭い小便が流れ出るが、肉の灼けた臭いが充満するこの今に、その悪臭が目立つことはない。
続く2匹の死を前に。
ゴブリンには号令をかけたものが死ぬという恐怖が上乗せされる。
お互いに、言葉もなく押し付け合うゴブリン共より早く。
生徒達はこの、目も鼻も耳さえ覆いたくなるような状況から立ち直り、ゴブリン共を殺し尽くすことができるのか。
それが第2段階の”殺すことの自覚と覚悟”・・・だったんだがな。
「炎よ! 砲弾となって貫き壊せ‼」
「石砂よ! 散弾となって貫き遊ばせ‼」
迷いなく魔法を唱えたのが2人。
1人はライザード。俺が授業で教えた強化詠唱で通常よりも大きい火弾を。
もう1人はビューティー。こっちも強化詠唱の内容を少し弄って、大量の小さな石弾を飛ばす。
工夫をしなかったからか、あるいはただ迷いがより少なかったからか。
ライザードの大きい火弾が先に現れ、その後ろからビューティーの小さな石弾が飛び込む。
結果として、ビューティーの魔法がライザードの魔法を食い破る様に通過。
焼けた小さな石弾は勢いよくゴブリンへと飛来し、その体をものの見事に突き破っていった。
降り積もった雪に焼けた石を落とすが如く。
残っていた4匹のゴブリンは、大方の形を保ったまま、声もなく絶命した。