作品タイトル不明
重々とした空気
「全員。準備はできたな? これから特別授業:ゴブリンの討伐に向かう。道中、ゴブリンについても説明してやるから、よく聞いておくように」
昨夜の内に仕込みは終わらせ、朝になってから生徒達を誘導する。
団体の先頭は俺。殿は女教師。その間に生徒達を携えて行進する。
仕込みの段階で洞窟の近くまで来たため足取りは軽い。
周囲への警戒が最小限でいい分、生徒達の表情に気を配れるのも面白い。
普段どれだけ大口をたたいていようとも、緊張はするもんだ。
身分や階級に関わらず、皆が一様に同じ顔なのは飽きそうでいて飽きない。
その上で言葉を選び、それぞれの行動をする様は、正に縮図といえる。
庶民として最前を歩くもの、下級貴族として上を気遣うもの、上級貴族として周りを見るもの、そして。皇族として己をかえりみるもの。
言葉数も少なく。けれど、俺の言葉に歯向かうわけでもない。
ある意味異様な光景が続く。
「ゴブリンの数は100匹前後と予想されてる。中には、弓を用いて遠距離から攻撃してくる個体もいるそうだ。まずはそいつらから狙え。そうすれば格段に安全になる。上位個体の存在も懸念される。時間をかけすぎると雪崩込んでくるぞ。1人で1匹を狙わず、周りと狙いを合わせて確実に1匹ずつ仕留めていけ」
「先生! そういう戦闘的なことじゃなくて、もっとこう。ゴブリンとはどういうモンスターなのか・・・っていう話はしないの?」
「知らねぇのか?」
「はい! なので是非‼」
後ろから、わざわざ手を挙げてまでそんなことを言うのはエイラス。
商家の人間が知らないわけねぇだろうに、この発言はいったい誰のためなのか? あるいは全員のためか。
「ゴブリンは所謂最弱モンスターの一角に位置するモンスターだ。単体での能力はお前ら子供と同等かそれ以下。知能はお前らよりよっぽど低い。武器を持っていることは多いが、扱いは下手以外のなにものでもなく、手入れもされてねぇことがほとんど。その知能の低さから魔法を使える個体は珍しく、更に使える魔法も初級が精々で、それ以上の魔法が使えるゴブリンを上位種とする。あまりにも弱いため、常に群れを形成し生き繋ぐ。絶滅しないのは繁殖力に優れているからだ。ゴブリン同士以外でも人間や一部別種のモンスターとの繁殖が可能。その場合、上位種が生れる可能性が高くなるらしい」
俺はつらつらとゴブリンの情報を並べ立てる。
この全ては冒険者ギルドから広く世界に知られている内容で、今更確認するほどのことでもないんだが、子供なら知らない可能性もある・・・のか?
子供だからこそ知ってそうなもんだがな。
本当に。丁度いい脅威として。言い聞かせたりしねぇんだろうか?
「上位種っていうのにはどんなのが居るんですか?」
「よくいるのはホブ・ゴブリン。今回も居そうなのがコイツだな。成人程度の大きさを持つゴブリンで、それに見合った筋力を持ってる。ジャイアントゴブリンとの違いは少しばかり知能が高い。低級の魔法を使えることが多く、そのほとんどが人間との間に生まれたゴブリンの生き残りだと言われてる」
異種間に生まれた存在が上位種になりやすいって話と合わせての通説だが、確証はない。むしろ、確証を得るためだけにそんな存在を作り出すわけにもいかねぇしな。
「次がジャイアントゴブリン。今しがた話に出したが、特徴はホブ・ゴブリンと同じくデカい体躯。こっちは人間じゃなく母体がサイクロプスやオーガだと言われてる。さっきも言った通り、その差は知能の高さ。こっちは知能が低い分、迷いなく突っ込んできたりで注意が必要だ。この2種類の見分け方は体型で、太っていればホブ・ゴブリン。そうでなけりゃジャイアントゴブリンだと思ってりゃいい。たまに違うこともあるし、見分けがつきにくい個体もいるだろうが誤差だ。気にするな」
「対処法が違ったりはしないの?」
「しない。どっちもただのデカい的だ。よく狙え」
「・・・そんなのでいいんだ」
「今回はな。もしお前らが冒険者になって1人で、あるいはパーティーを組んで戦うってんなら話は別だが・・・そんな予定はねぇんだろ?」
もちろんだと、ほぼ全員がうんうん頷いて見せる。
「だったらそれでいい。今回お前らが積むべき経験は、ただ敵を殺すことだ。忘れるな。俺達は戦争をしてる国に住んでる。いざ目の前に脅威が迫れば、なににも置いて敵を殺さなきゃならねぇ。これはそのための練習だ。敵は人間でもねぇモンスター。しかも、お前らと同じ程度の力しか持たねぇ雑魚だ。こんな丁度いい相手なんざそうはいねぇ。心してかかれよ」
そう言うとまた空気がズンと落ち込んだ気がした。
そんな雰囲気を気遣ってか、エイラスがなんとか話を続けようとするが、
「そんなことより! 他の上位種ってどんなの?」
「・・・・・・そうだな。中級以上の魔法が使えるゴブリンメイジ。若干強くて他の個体を従えるキングゴブリン。他種と共生してその上に跨るゴブリンライダー。細かく言えば武器別にファイター・レンジャー他にも居るが、結局は全部ゴブリンだ。侮ったところで足元にも及ばねぇ。ゴブリンってはその程度の存在だ」
もう話す内容の方がねぇ。
「えぇ・・・⁉ そんなことはないんじゃ・・・?」
「なら聞くが、お前は杖と棍棒の違いも分からねぇような奴らが怖いか?」
「えーっと、それは―――」
突然の問い。
それでも首をひねるのは、そのまま想像してしまったからだろう。
杖と棍棒を並べて、同じように首をひねるゴブリンの姿を。
そして、それは現実に起こる。
深く考える必要も、重く受け止める必要もねぇ。
「授業と同じだ。よく狙って魔法を放つ。それだけでいい。それだけで敵は死ぬんだからな」
つまりはただ、それだけのこと。