作品タイトル不明
side――ライザード
教師ゼネスの宣言を受けて、バロンは戸惑い、そしてこの僕へと窺う。
「殿下はどう思う?」
「どう思う、とは?」
「ゴブリンの討伐だよ! 急だよね?」
「降って湧いた話ではありますね。しかし、この僕にとっては実績を上げるいい機会でもあります。文句などありませんよ」
「叔父様は知ってたのかな・・・?」
「今回のことをですか? それはないでしょう。協力者からも、そういった話は聞いていませんから」
バロンの言葉にこの僕は確かな根拠をもって否定します。
「協力者? そんな人が居るの?」
「当然でしょう? この僕は皇族なのですよ? 根回しは万全です! 惜しむらくは、都合のいい教師を付けられなかったことですが・・・まあいいでしょう。なので、今回の出先にも協力者は存在すると。そう認識しておいて構いませんよ」
「やっぱり皇族って凄いんだね・・・」
「普通は上級貴族でもそういった存在の手配ぐらいはしていますよ。貴方のところがおかしいだけで―――と思いましたが、そうでしたね。あの教師は貴方の叔父でしたね。なにもしていなかったわけでもなさそうですね」
「うーん・・・それは多分、偶然だと思うけど・・・・・・」
「それより、お聞きしたいのですが。命を奪うという感覚について――貴方はどう思いましたか?」
「・・・・・・それって、あのお祭りの・・・?」
「ええ。貴方には経験があるんでしょう?」
「それがね。実は―――」
バロンは慎重に言葉を選び、新年の祭りで起こったことを話します。
「つまり、貴方にもまだその経験がない、と」
「うん。そうなんだ」
「貴方の心情も理解はできますよ。役目なら果たすべきだとも思いますが。それにしても、あの教師がそんなことを・・・思っていたよりも野蛮ではないのでしょうか? いえ、やっていることだけ見るならば野蛮極まりないのですが・・・」
「まぁ・・・ね。皆の前でやることじゃないよね。でも、僕は―――」
「言ったでしょう? 心情は理解できると。本来、処刑されるはずだった人物が、貴方から見ればその判断は正しくなかったということも・・・ですが、そんな光景を間近で見てあなたは大丈夫だったんですか?」
「僕は後ろにいたから決定的なところは見てなくて・・・ただ、赤い液体に混ざって、なにかが飛んでいったあの瞬間は・・・今でも夢に出るよ」
「だから今回のことも恐れていると?」
「どう、かな? まだ実感がなくて・・・」
「今回の相手はゴブリン。モンスターですよ? 人間じゃありません。なにを気にする必要があります?」
「うん。そうなんだけど・・・ね」
憂鬱に目を伏せるバロンの姿からでは、あの傲慢ともいえる教師との接点が見つけられません。
同じ家名を背負っていなければ、誰も血縁などとは信じなかったでしょう。
「あの教師も、昔は貴方のように純粋だったのでしょうか?」
「叔父様のこと? どうだろう。少なくとも、僕みたいに迷ってはなかったって聞いてるよ・・・? 僕の弱さはお父様譲りなんだって、お父様自身が言ってたから」
「一領主が己の弱さを。しかも、辺境伯が語るとは何事か! と。言いたくもありますが、今はいいでしょう。貴方の言うことに根拠はありますか?」
「叔父様が処刑執行役を担当した時の話なんだけど、その年はなんとかっていう組織が捕まって、何十もの人が壇上に並んだんだって。これは例年から見ても異常なんだけど、でも――終わるまでの時間は倍にもならなかったって、お父様が・・・。同じように当時から軍に残ってる人達も言ってたから、多分本当なんだと思う」
そういうことであれば、調べれば記録も出てくるのでしょうね。
何十人もの人間を僅かな時間で・・・。
更には、
「それをこの僕達と変わらない年齢でやっているんですよね?」
「うん。僕の時と同じで、この学園に来る直前のことだって。その後は幼少部を卒業してそのまま冒険者になったんだって、これもお父様からよく聞いたから間違いないよ」
頷くバロンに寒気を覚えるほどです。
いったいどんな心境であれば、人間をそんな短時間で処理しようなどと――いえ、それが役目ならばこの僕にだって!
そう今回のゴブリン討伐で証明しなければ‼
「であればまず、人選を考えなければなりませんね」