作品タイトル不明
子供のパート4
「い、いいのかな?」
「静かにっ! いいわけないでしょう⁉ ですが、目的のため。野望のためならば、多少の冒険も必要というもの‼」
カチャリ・・・と静かに回したノブの音ですら、ライザードにはやけにうるさく感じられた。
絶好の好機。
今まで在り得なかった自身を嗜める人物。
皇族という絶対的な権威にすら、ひれ伏す様子を見せない相手。
それでいて、計り知れないだけの強さを感じさせる存在。
目上だからではなく、近親者だからでもなく、教師というだけで皇太子の嫡男である自分の上に立とうというゼネスに。
一矢報いる事ができるかもしれない。
それはこれまで一度たりとも感じたことのない高揚をライザードへともたらしていた。
心臓が強く早鐘を打つ。
視野が狭まるほどに顔が熱い。
震える手で内ノブを握り、ゆっくりと扉を閉める。
いつもより高い位置にあるノブに、知らぬ間に背伸びをさせられ、不安定になった足元で、それでも静かに部屋へと入る。
「・・・侵入成功ですね」
「これが学園長室・・・」
中を覗き見ることが叶わなかったバロンには、すべてが新鮮な部屋。
ここまでに見てきたどの教室とも違い、床には絨毯が引かれ、装飾の豪華な机や棚が並び、中央には向かい合った布張りの長椅子が出迎える。
照明さえも天井のみならず、置き型も豊富に取り揃えられており、棚のガラスから顔を覗かせる茶器は、どこか気品を漂わせる。
「靴、脱いでおいてよかったね」
「消音のためでしたが・・・靴跡が残っていては、事がうまく運んでも後から露見する可能性がありましたから、良い判断だったと言えるでしょうね」
2人は片手に揃えた靴を持ち、ソロリソロリと忍び歩きで部屋の中を進む。
大人であれば数歩の距離が、子供の足取りでは長く思える。
音を気にするあまりか、止めていた息を整えながら、大人が消えた扉の前へ。
「耳を当ててみましょう」
「う、うん!」
そのままではどうにも中の声は聞き取れない。
壁が意外と厚いのかもしれない。
そう思った子供の2人は、大胆にも扉に密着することを選んだ。
しーっ! と人差し指を顔の前に構えながら、神経を尖らせ向こう側へと意識を飛ばす。
「なにか聞こえませんか?」
「なんの音だろう?」
ガサゴソガタンと。なにかを動かすような、乗せるような、揺するような音がすると共に、途切れ途切れに声が聞こえる。
『・・・・・・―――物は?』
『―――・・・・・・悪いね? もうちょっと、・・・―――反応を見せてくれ―――・・・・・・―だって・・・・・・!』
『・・・・・・―――いいだろう・・・』
『―――・・・・・・・乙女心・・・だよ。こっちへ―――』
『この・・・―――ちが・・・――好き・・・・・・よ』
『――より――・・・多いな』
『・・・数十人の――だから・・・君が、使っている・・・らし、い、物も―――・・・みたい・・・。それ――もっと・・・・・・』
『そっち・・・も―――・・・じゃねぇの・・・』
『はは! あんな、のが・・入るわけがない―――・・・今・・・、君しか・・・いない。ほとんど――は、・・・・・・当時のまま―』
「こ、これって! 良くないことなんじゃ⁉」
「そうでもありませんね。必要なことではあります。場所は選べと言いたいですが、2人の関係が偽りでないならばそういうことだってあるでしょう」
バロンは顔を青ざめさせてライザードへ言うが、ライザードは大したことじゃないと至って冷静に返す。
この時、2人はまるで別の場面を思い描いていた。
バロンは、血が好きだと聞こえたがために、酷く陰鬱とした痛々しい場面を想像してしまい。
ライザードは2人の噂を基に、幼いながらに身体の関係を確かめる場面を想起した。
故に2地はお互いに首をかしげる。
そのせいで少しの間、耳を扉から話してしまっていた。
そこへ―――ガタン! と大きな音が響く。
2人は反射的にまた耳を扉に押し付け、聞き耳を立てる。
『愛されている自信はあるけど―――義理はない、よ‼ 無駄だから‼』
『どうせ碌な、事ねぇんだから――・・・付き合いやがれ‼ 使ってやるよ‼』
『・・・強制、だなんて⁉ なにを・・君は‼ まさか、本当に⁉』
『お前が――嫌ってんなら、いし・・・・ごと‼ してやる――よ‼』
『なんてこと――・・・ないよ‼ ・・・約束しただろう⁉ なに・・・こんな、白そうな・・・ものを‼ いや――! これは、ぁいの証‼ 私、は答えなければ―――‼』
『――そんな気、があるなら・・・――ごっこ遊びにき・・・てねぇだろうが‼』
『それは―――いや・・・いた―――ああっ‼ もう‼ 手を放して――よ・・・‼』
あまりの急展開に2人は顔を見合わせる。
どうするべきだ?
触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず――を参考にいち早く立ち去るべきか?
それとも、虎穴に入らずんば虎子を得ず・・・とばかりに踏み込むか。
現場を押さえれば言い訳のしようなどないはず!
そういった思考が駆け巡る。
けれど、未だ浅い2人の人生経験から答えは出せず。
結果として。
「お前ら、こんなところでなにやってんだ?」
動くより先に、動かれてしまったのだった。