作品タイトル不明
自故、照会
改めて教壇に立って思うことは、相手がどうしようもないほどに子供だということだ。
さらに面倒なことに、新任の俺は体よく新入生を押し付けられてしまった。
なので俺の前に行儀よく座っている子供達は今年で7歳。
成人まで約半分程度の時間を生きてきたとはいえ、その人格は未熟であり、貴族である以上は甘やかされているため、正直に出来もよろしくはない。
「せんせ~い。贔屓はしないってことでしたけど~、本当にできるんですか~?」
間延びした、あからさまに舐めた口ぶり。
「その質問に意味はあるか?」
「え~? そんなの先生が考えてくださいよ~。先生なんですよね~?」
「その答えじゃぁまるで、自分が贔屓されたいように聞こえるんだが・・・つまりそういうことか?」
「そう聞こえませんでしたか? それともこの僕を誰だかご存じないと?」
「生憎だが顔と名前が一致しなくてな。文句があるなら名乗って見せろ」
「っ⁉ いいでしょう‼ この僕こそが未来の皇王‼ ライザード・F・ガルバリオ‼ 優遇されるべき存在と言えるでしょう!」
「その根拠は?」
「だから‼ この僕は未来の皇王‼ それこそが優遇される存在という証左でしょう‼」
「お前が皇王になるという、その保証は?」
「この僕は現皇太子たるライザンが嫡男‼ それで十分では⁉」
「だったら次の皇王様は第1皇子のイーライ殿下になるはずだがな?」
「ははっ‼ あなたはなにも知らないようですね‼ 叔父上は過去に失態を演じ、継承順位を繰り下げられているんですよ‼」
「そうだな。で? お前がそうならない保証はどこにある?」
「――ッ‼」
「自信があるのは結構だ。だがな? 身分にかまけ、研鑽を怠った姿こそがお前の叔父上だろう? そこから学ばないのであれば、同じ轍を踏むのは見え透いている。そうは思わないか?」
懇切丁寧に自尊心をへし折っておく。
余裕と自信に溢れていた少年の顔は恥辱と悔恨に濡れるが、それも成長の足掛かり。是非とも国を背負う身として、強く気高く育っていただきたいものだ。
というやり取りをした相手が、皇王様の孫で現皇太子の第3皇子ライザンが息子ライザード。
俺が受け持つ教室で数少ない見知った顔の1つだ。
第3皇子のライザン殿下が皇太子のわけは、第1皇子のイーライ殿下と第2皇子のニドライ殿下が皇王位継承権をめぐって内戦直前までの騒動を起こしたから。そういう意味ではライザードの言う通り、コイツは未来の皇王様という可能性はある。
ただ、気になるとすれば――。
第3皇子ライザン殿下は、あまり前に出る性格のお人じゃねぇ。
成功よりも失敗を恐れ、慎重であることを良しとする。
そんな父を持つ子供がこんな性格に育つのだろうか?
母の影響か? それとも、父のないものねだりか?
皇族らしいと言えば、そうなのかもしれねぇが・・・注意しておくに越したことはねぇか。
そして、数少ない見知った顔のもう1つ。
「お前も。ちゃんと理解しておけよ? バロン」
「はい! 叔父様‼」
「ここでの俺は教師だ。その呼び方は正しくねぇな?」
「す、すみません‼ 先生‼」
兄上の息子。バロン・P・グラーニン。
確かに今年から学園に通うっつー話だったが、まさか俺が受け持つことになるとはな。
こういうのはお互いのためにずらしてくれた方が有難いんだが・・・俺の登用も急だったからな。文句は言えねぇか。
適当に、端の席から起立するように促し、自己紹介をさせていく。
さっきの2人の他に見知った顔はねぇが、ちらほら名前に覚えがある。
「ビューティー・D・ゼフォーでございますわ! 以後お見知りおきを‼」
そう言って優雅に座る少女は間違いなくキューティーの血縁だろうし、
「私、エイラス・マンサ! よろしくね!」
屈託のない笑みで活発さを隠そうとしない少女はサンパダの血縁だろう。
それにしても、貴族や一部富裕層の子供が通うこの学園で、教会の洗礼を受けてねぇのも珍しいな? マンサ商会ほどの収入があれば、それぐらいは簡単だろうに。それとも、洗礼名を隠しているだけか? まぁ、大した意味があるわけでもねぇしな。
などと、下らねぇことを気にしている間にも、自己紹介は滞りなく行われていく。
男爵・子爵・伯爵と・・・そのあたりは珍しくもねぇ。
皇都貴族には伯爵までが多いからな。
だが、辺境伯・商家・皇族に騎士爵まで。随分と幅の広いことで。
もしかしなくとも、これは。
面倒な連中を全部ぶち込んだ教室に宛がわれちまったかもしれねぇな?