作品タイトル不明
side――栄光ある騎士団5
そこにいるのは間違いなくゼネス・C・グラーニン。
その姿は山のような体躯のドラゴンで隠れて見えやしないが、間違えることは決してない。
冒険者パーティー”栄光ある騎士団”と他2名の教育係を担当し、やり遂げた男。
今は冒険者ギルドの本部へと出向いていたはず・・・。
「なんで先生が⁉ ギルド本部ってそんなに近くにあったんですか⁉」
「違う。ギルド本部からここまではどんなに急いでも4日はかかる。普通なら7日・・・だから、今日辺りに本部へ着く頃」
「ですが、アレは間違いなく先生。まさかこの事態を予測していたのでしょうか?」
「それはないんじゃないかしら? それなら適当な理由を付けてでも私達と一緒に行動してると思うわ。だってあの人、あれで結構心配性じゃない?」
「私も同じ意見ですわ! それに、焦って周囲を確認しているあの様子から、かなり急いでここへ来たのではないかと見て取れますわね。もし、この状況を事前に知っていたのだとすれば、もう少し余裕があってしかるべきかと思うのですけれど?」
「そんなことはどっちだっていい! ただ、俺達には都合がいいのも事実だ。今のうちに細部まで詰めるぞ‼ 時間は稼いでくれんだろ!」
しきりになにかを探すような仕草が気になるものの、その実力は十分知っている。
例えドラゴンには敵わなくとも、そうすぐにはやられたりしない。
それだけの信頼があった。
しかし、なぜかゼネスは倒れた冒険者を、さらにはドラゴンまでもを煽る。
ヨハンを除き、誰も取り得なかったドラゴンの背後という折角の立ち位置さえ捨てて。
その真意は掴めない。
そして、真意は掴めないまま。
《その死を以って、我が役目の礎となるがいい‼》
判決が下される。
高らかに歌い上げるように、大口を開けて構える。
その口内からは人知を超えた魔力の集約を感じた。
特別な目を持たずして、魔力の流れを確認した。
人の罪を焼き尽くす龍の息吹だ‼
恐らくはその場にいた全員が直感的に理解できたはずだ。
「「「「――――――ッ⁉⁉」」」」
どんな考えがあってのことか、それはわからない。
けれど、ゼネスは今! ”栄光ある騎士団”の前に立っている‼
そのことに。ドラゴンはもちろん、ゼネスすらも気付いていない。
どうやって防ぐつもりか。あるいは避けるのか。
だが避けられてしまったら‼
ジェイド達6人とワイバーンは息を吞む。
ゼネスの動きを一挙手一投足まで見ていた。
自分たちの命運を分かつのだから当然である。
故に気付いてしまった。
ゼネスの致命的なミスに。
なにかを取り落すその動作に。
心臓を握りつぶされるような感覚が襲う。
体が凍り付き、時間が止まる。
次の瞬間‼
――――・・・・・・。
なにも起きなかった。
反射的に目を瞑ってしまったため、誰にもなにが起きたのか、なぜなにも起きなかったのかはわからなかったが、助かったことだけはわかった。
唯一。
《ほう。汝が・・・―――》
ドラゴンだけがなにかに気付いたようだった。
続く問いはこうだ。
《理に反するものよ。なにゆえ汝は世界を乱す?》
どうやら、ドラゴンが騒いでいた原因こそゼネスであるらしかった。
「どうなってんだ?」
ジェイドが不意に零すが、誰かにわかるわけもなく全員が首を振る。
《沈黙は許さぬ! 答えよ、人間‼ 汝はなにゆえ世界を乱そうとする⁉》
「もしかしなくても、俺に言ってんのか?」
なんだったら、当の本人にも自覚はなかった。
そこからドラゴンとゼネスによる問答が始まったが、その内容について考えている場合ではない。
雰囲気で分かった。
これは戦いが始まる奴だと。
であれば、さっきのような思いはしたくない。
ここに留まるわけにはいかなかった。
6人はワイバーンを連れてより離れたところへ。
土を調べ、瓦礫を調べ、発射台の材質と方式を決める。
結論から言えば、アドレスは岩山。土の量が多くなかった。
岩で発射台を作るには適正の問題からあまり効率がいいとは言えなかった。
だから廃材を集めてそれらしいものを作ることにした・・・のだが、なぜか上手くいかない。
一見丈夫そうに見える瓦礫が、思っているよりもずっと脆く、上手く発射台として組み上げられなかったのだ。
「もっと丈夫なのはないの⁉」
「それがどういうわけかねぇんだよ‼」
エイラの言葉にジェイドが嘆く。
「おかしい。さっきまでこんなに脆くなかった・・・」
「そうですわね。頑丈なものを選んで集めていたはずですわ!」
ケイトが首を捻り、キューティーも確かめてみると同じように拾ってきた廃材が先程までと違っていることに気付く。
「こっちも同じですね・・・場所を変えますか?」
「なにか原因があるのでは? 流石に不可解かと思うのですが・・・」
ヨハンが別の場所を指さすが、リミアはその意見に懐疑的だ。
こんな怪現象が局所的に起こり得るものだろうか?
なにより、自分達は現在誰にも認識されていないのに。
だとすれば。この怪現象はサルベージ全域で起きていると考えるべきではないか?
ならばその原因は言うまでもなく、ドラゴンの存在。
さっきまでとの違いといえば、そのドラゴンが戦闘へ入り、尚且つ―――劣勢であること。
そんな光景を目の当たりにして、
「どうなってんだよ・・・?」
再びジェイドの口から転がり出るが、その答えが変わることはない。
言葉もなく。誰もが首を振るだけだった。