軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

物理的試行

かろうじて戻った程度の魔力でなにができるのか・・・取り敢えずで殴りかかる。

「ゼネス! ジーナ! こいつの膜には気をつけなさい‼ 硬いわよ‼」

踏み込む瞬間にアンナからそんな声が届く。

膜・・・?

という疑問が頭をよぎるが、実際に確かめた方が早いかとそのまま拳を突き出す。

しかし、その拳はアンナの言う通り膜のような何かに阻まれて止まる。

なんだこれは? それが素直な感想だった。

アンナが言うほど硬くはない。

拳に伝わる感触はむしろ、やわらかく重いものを殴った時のような、それでいて押し返されているかのような感覚。

目に飛び込む情報はさらに難解。

透明な壁が水のように波打ち拳を受け止めて見えるが、波紋を描き、揺れ動くその壁の内側には幾つもの色が混在している風にも見える。

珍しい現象のはずだが、これには強烈な既視感がある。

時空魔法だ。

転移門の揺らぎや、転移扉を開く瞬間の扉の隙間。そういった2つの空間を繋ぐ時、微かに現れる現象。その光。

そんなものを自在に・・・?

だとするならば、その差は歴然。

《先ほどまでの余裕はどうした⁉》

一瞬の遅れを見逃すまいとドラゴンが右前脚を振り下ろす。

俺はそれに身を大きく翻しながら、その脚を蹴り返す。

《ぬぐ・・・っ‼》

ドラゴンはその弱さゆえに痛みへの呻きを隠しきれなかった。

さらには踵に残る感触。

それはあの膜とは違う。肉を蹴ったときのそれだ。

「なるほど? カウンターは防げねぇと・・・」

「へぇ? 良いこと聞いたわね‼」

俺と同じように、攻撃を膜に阻まれ動きが止まったところを狙われていたアンナが、迫る尻尾を目掛けて振りかぶる。

《―――っ⁉》

寸でのところでドラゴンは停止。

全身を躍動させて放たれたアンナの一撃は地面に深く突き刺さった。

「なんでやめるのよ‼‼」

文句を言いながら1/3ほど埋まった四角く分厚い大剣を地面から引き抜くアンナに、流石に肝が冷えたのかドラゴンが青ざめた声で言い返す。

《なにゆえ我が行動を制約されねばならぬ? 我は汝らに都合の良い存在ではないぞ・・・》

「アタシ達の攻撃なんて通じないんでしょ? だったらいいじゃない‼‼」

《そうであろうとも、わざわざ受けてやる義理などない!》

「はぁ⁉ ならさっさと攻撃してきなさいよ‼ その部分叩き斬ってあげるから‼ ほら早く‼ さっきまでの余裕はどうしたのかしら⁉ ドラゴンが聞いて呆れるわ‼ 腰抜けじゃない‼」

そうアンナが捲し立てるも、ドラゴンには攻撃しようという様子がない。

まぁそれは仕方ねぇのかもな。

誰も逆らわない環境で、蝶よ花よと育てられ、碌に痛みも知らずに生きてきた身に。

あのあまりに苛烈な攻撃は、恐怖以外のなにものでもないだろう。

アンナの武器は分類上は大剣だが、性質的には棍棒に近い。

重く、分厚く、硬く、鈍い。

あの大剣には刃がついてねぇ。

つまり、さっきの叩き斬ってあげるってのは文字通り、圧力で潰して引きちぎるという意味だ。

それがドラゴンへ正確に伝わっていれば、動きたくなくなるのは当然のこと。いや、見て分かったから動けねぇのか。

なんでそんなことをするのか。効率が悪いだろう? とアンナに聞いたことがあるが『だってその方が気持ちいいじゃない‼』と言われ、クライフと共に閉口したのを覚えている。

それがこんな形で。ドラゴンの動きすら止めているとなると、生粋の狂気は種族の壁なんぞモノともしないということを思い知らされる。

しかし膠着は不利だ。

その気になれば無限に回復できる相手と、そうじゃない俺達。

もしかすればドラゴンにも魔力酔いがあるかもしれねぇが、それにしたってそこまで魔力を削り続ける必要がある。

なにより、”もし”なんて言葉に頼るわけにはいかねぇ。

それは例え冒険者じゃなくなってもだ。

つっても、どうする?

物理的に触れられねぇなら後は・・・と考えていたところで丁度、

「危ないからね。そこを離れることをお勧めするよ?」

後ろに控えていたジーナの声が届いた。