作品タイトル不明
side――ゼネス1
1人で山を降り、集落へ到着の後、索道を使ってギルド本部を目指す。
道中、村で宿泊をしながら数日。
俺は冒険者ギルド本部まで辿り着いた。
以前ここへ来たのはもう随分前だ。
その時の理由も、そういえば自称師匠のせいだったな。
胸元に入れた手紙の主を思い出しながら扉を開く。
受付で手紙を見せ、奥の部屋へ。
そして、さらに通路の奥へと進もうとしたところで、
「そんな話は聞いていない‼ ここを通りたくば、キチンとした手順に従ってもらおう‼」
などとぬかすポンコツに足止めされる事件が発生。
特段の問題もなく事なきを得たので詳細は省くが、過去の厳格さからは考えられないほどの零落を感じるのは、俺が冒険者をやめちまったせいかもしれねぇな。
今まで、チャード集合国の中心たる冒険者ギルド本部まで来ることなんざほとんどなかった。
その間に索道はロープウェイと名前を変えていたし、空中を渡る籠にもゴンドラとかいう名前が付けられていた。
個人的には、縄の道ってよりは綱渡りだと思うんだが、まぁそこはどうでもいいことだ。
時間があれば状況や環境はいとも簡単に変わるってだけの話でしかねぇ。
「ごめんね! あの子もアレで悪い子じゃないんだよ? 純粋で健気で言われたことを曲げないだけで・・・」
「その結果が融通も聞き分けも利かねぇじゃ話にならねぇだろ。一昔前からは考えられなかったと思うんだが・・・最近はこうなのか?」
「別にミスは昔からあったよ! 君にそういう感想がないのは、君が僕に会いに来ないからだ‼」
「そういう割には、頻繁に顔を合わせてた気がするんだがな?」
「それは僕が君に会いに行ってたからじゃないか! 僕は君が会いに来てくれるのを楽しみにしてたのに‼ しかもだよ! 来たら来たで連絡もないなんて‼ どういうことなんだい⁉ さっきのアレも、半分は君のせいなんだからね‼」
「いや、アレは全部あのポンコツのせいだろ」
幾つもの扉や通路を進んだ先。
なんのためにあるのかよくわからねぇ謁見部屋? のような、だだっ広い部屋へ、少々ちんちくりん気味の年齢不詳、性別不明の自称師匠を引きつれて入室する。
そこへ、
「やっと来たか・・・貴様が自分の弟子だと言うから任せていたが、もう少し躾というものをするべきなんじゃないかね?」
「せめて連絡は入れさせろ。私はそれほど暇ではない」
中で待っていたらしい2人から早速の苦情が届く。
そんな言葉に自称師匠は、
「僕の弟子はみんな優秀だから躾なんていらないの!」
部屋へ入る直前の態度とは180度意見を変えて、それでも悪びれすらしないところは見習っておくべきなのかも知れねぇな。
この後ふてぶてしさを指摘されたら、師匠のせいだと言えば的をずらせるだろ。
そうして、俺は入り口に近い位置で立ち止まり、自称師匠は3段ほどしかない階段の上に設置された椅子の脇まで歩いて立ち止まる。
さっき文句を言ってきた片方はその王座とでも言うべき椅子に座り、もう片方は少し離れた柱の近くに椅子を持ち込み座っているようだ。
「それでは・・・此度、貴様を呼び出した件について話とするか」
王座に座る女。冒険者の頂点にして冒険者ギルド本部のギルドマスター。
そして、個人S級冒険者。
通称:暴虐の螺旋
本名は一部の者しか知らねぇらしいが・・・、
「ヴィ―ちゃんそんなに堅苦しい感じにしないでよ!」
「ヴィ―ちゃんと呼ぶな‼」
「じゃあ・・・バーちゃん?」
「あのな・・・というか、貴様がバーちゃんと呼べる相手など存在しているのか? 私の10倍は生きているはずだろう?」
「なら僕がバーちゃんだね? だったら、ほら! 年長者の要望には応えないと‼」
「そもそも私は貴様が女なのかどうかすら知らないのだが・・・あぁもう! 鬱陶しい‼ ちょこまかと動くな‼」
自称師匠のせいで威厳なんてもんは粉微塵にされちまってる。
そんな自称師匠も個人S級冒険者。
通称:未知の理
誰が付けたのか全くふざけた名前だなと。聞く度に思う。
少年にも少女にも見える外見に、年齢不詳、性別不明の真正エルフ。
何年生きて来たのか、これから何年生きるのか。
あの見た目は偽りなのか、それともまだ成長の段階にあるのか。
男なのか、女なのか。あの態度はわざとなのか。
なに一つとしてわからないから未知の理。
これまでの過去とこれからの未来を意味する”道のり”と掛けてあるのが、殊更に腹立たしくて仕方がねぇ。
一説には本人が付けたっつー話もあるが・・・、
「僕としてはかなり大胆に動いているんだけどなぁ? ちょこまかっていわれると傷付くなぁ?」
本当かどうか、聞いたところでわからねぇんだろうな。
わざわざヴィ―ちゃんの前で首を傾げるウザ絡みを見ている限り、はぐらかされんのがオチだ。それにしても鬱陶しいな。
「いつまでも話を進めないのならば、私は帰るぞ」
そんな2人のやり取りに横やりを入れたのは、柱付近に椅子を置いて座っている甲冑。
厳つい重装甲に全身を包み、身の丈に合わないようなデカい盾を脇に置くその姿は、見覚えしかねぇ。
こいつも個人S級冒険者。
通称:自由騎士
だが、俺は知っている。
こいつは偽物・・・正確には2代目か。
何年か前に、こいつが自由騎士を名乗ってると知って、当時はたまげたもんだった。
なにせ一目でわかるほど体格に差があるのに、本人は一向に代替わりを認めようとしねぇんだから。
つい最近、北で会ったおっさんの身長は190程度。
それに比べてこいつは160あるかないか。
それと、こいつの中身は恐らく女だ。
なんで魔法で声色を変えてるのかは知らねぇが、息遣いや言葉遣いの端々が気色悪い。
甲冑も。わかり辛くしてはあるが、胸元が不自然に膨らんでるせいで、よく見りゃわかる。
後は匂いもだな。
おっさんは臭かった。まぁあんな甲冑を常時着込んでりゃ当然だ。
だがこいつは綺麗好きなのか、近付くといい匂いがしやがる。なんでこれでバレねぇと思ってんのか本当に意味がわからねぇ・・・。
そんでもって。
意味がわからねぇと言えば、この状況もだ。
個人S級冒険者が3人。
ついでに、それ以外の職員がいねぇ。
普通、話し合いってんなら書記だなんだといるもんじゃねぇのか?
一体どんな話をされるんだが、わかったもんじゃねぇな?