作品タイトル不明
見落としていたもの
「だとしたら・・・ゼネスの奴はここを離れてから、そんな機会に巡り合ったってことになるよな?」
クライフ達をチクチクと言葉でつつきながらその様子を観察して楽しんでいたジーナが、アルガムの一言に振り向く。
「それは私も気になっていたんだ。彼が冒険者として15年以上活動していた。ここサルベージを活動の拠点にしてからも8年は経っていたと思うんだが・・・それでも得られなかった経験を、引退して僅か1年で手に出来るものか? とね。しかも、皇都などでだ」
皇都など、と言われると。一応は皇子であるクライフとしては思うところもあるのだが、それを冒険者が言っているのならば、皇都は危険も少なく、刺激や経験を得られる舞台ではないということも理解できる。
「よほど仲間に制限をかけられていたのでもなければ、それこそ数奇な出来事だといえるね。そして、いくら心配していたと言えども、彼にそこまでの制限は設けていなかったんだろう? となると・・・・・・君達なら、なにか知っているのかな?」
さぁ早く事情を説明してくれたまえ! というような態度のジーナとその周りを固める大人達に、”栄光ある騎士団”は顔を見合わせる。
「ええと、ジーナ様はその・・・皇都へお戻りになったりする・・・んですよね?」
「その必要があればね」
「前回お戻りになったのは・・・?」
「年始の挨拶だから、ついこの間だね。それがどうしたんだい?」
「その時に皇都で冒険者ギルドへ行ったり、競売を確認したりは・・・?」
「? 皇都のギルドに用はないからね。競売だってこちらの物を持ち帰って開かれているんだ。必要なものがあればこちらで調達した方が早いし、その方が安上がりだよ? まぁ、そのせいでこの間まで彼が引退していたことすら知らなかったのは盲点だった・・・けれど・・・・・・って、まさか⁉」
もし一度でも顔を出していれば、あるいは気にかけてさえいれば、どこかからゼネスの戦果、あるいはその片鱗は耳に入ったことだろう。
そこから足跡をたどれば、なにがあったかなど聞く余地もなかったはずだ。
そのことに気付き始めたジーナへ、さらにはその周りにいる大人達へと、ケイトがありのまま。真実を告げた。
「「「「ワンダーゴーレムを単独で討伐したぁ⁉⁉」」」」
「まぁ倒した瞬間までは見てねぇけどな」
ジェイドが要らないかもしれない補足を一応ながら付け加える。
「どういうことだい⁉ 君達は見ていたんじゃないのかい?」
「途中までは見てたんですけど最後の方はその、転移門の接続が切れたのか、向こう側が見えなくて・・・」
迫るジーナにはケイトが答え、ジェイドを庇うようにキューティーが侍る。
状況的には間違いないが、ゼネス本人もなにがあったのかわからないまま。ジェイド達も門の向こう側を観測できないままワンダーゴーレムが倒れていたため、本当にどうなってゼネスが生き残ったのかは不明なままである。
「なるほど・・・確かにワンダーゴーレムともなれば、限界くらい超えてみせなければ勝ち目などなかったのだろうね。なにせ、ほとんどの属性に対して耐性を持ち、尚且つ。その装甲は地上で一番硬いとまで言われるS級モンスターだ。過去に一度。討伐の経験があったところで、それだけでどうにかできる相手ではない」
「普通なら逃げるところなんだろうがな。奴はアレで面倒見がいいからな。教え子の安全を考えりゃ、少なくとも追えねぇようにはするわな。転移門は正確に言やあ門じゃねぇ。だから、潜る必要がねぇ。ワンダーゴーレムの巨体であっても、最悪出てくる可能性はあった」
「でも、転移門は壊れてなかったんでしょ? あんた達は途中までアイツの戦いを見てたのよね? どうやって戦ってたのよ?」
今アルガムの口からとんでもない情報が出てきた気がするが、結果はそうなってないのだから、なんの問題もなかったと言えなくもない。
それに、
「それはもうぶん殴っておりましたわ! 膝の歯車をこう、執拗なまでに‼」
シュッシュッ! と腕を振りながらキューティーが答える。
そうだ。ゼネスは初めから敵の足を狙っていた。
そして最後には立ち上がることも出来なくさせていた。
であれば、たとえあそこでゼネスが負けていたとしても、続く増援がワンダーゴーレムを討伐したに違いない・・・はずだ。
皇都の戦力でそれが本当に可能だったかは、ジェイド達には知る術がない。
「そうか。歯車は外装より柔らかいんだったな! それでも当時の俺達には硬すぎて、アンナの攻撃もエリックの魔法も中々通らなくて苦戦したな」
「そうだね。ゼネスさんの籠手はワンダーゴーレムの外装である不可思議鋼を加工して作ってあるから、それなら殴り勝てる。でも、そうするとゼネスさんの拳は・・・」
「それなら意識を取り戻した後に自分で治してましたよ。治してるってことは当然、無事じゃなかったってことだけれど・・・」
エリックの心配通り、ゼネスの拳は衝撃に耐えきれず砕けていたものの、エイラの証言通り、自身の魔法で回復している。
こういうところで治療系統の魔法を自分で使える優位性を認識できるが、かといって。そこまでして戦いたいとも、戦えるとも思えないエイラは、きっと正しい。
「そういえば、ゼネスさんは今現在。ギルド本部から召集を受け、向かっている途中・・・で、良かったでしょうか?」
「そのはずですが・・・」
考え込むように確認するフェリシアに、リミアが返す。
「しかも、その召集は以前から催促されていたとか」
「先生はそう言っていましたね」
「そうですか。では、そのワンダーゴーレムの討伐はいつの話でしょう?」
「秋の頃だったと思いますが・・・」
リミアは冒険者になってから、程なくしてゼネスが教育係に着いた。
そこからの1年は余りにも激動で、辿る記憶がどこまで正しいかに自信が持てない。
故にふわっとした回答になってしまったが、
「そうであるなら、本部への召集の理由はゼネスさんを復帰させるのが目的ではないでしょうか?」
フェリシアにはそれでも十分な情報であったようだ。