作品タイトル不明
寄せては返す。いたずらに。
「ちょっといいか?」
キューティーの際どい質問への答えはアルガムの言葉で差し押さえられる。
「話を聞いてて思ったんだが、その感覚とやらはスキルの習得とはまた違うのか?」
レベル100を超え得なかった者の代表として、遥か昔の冒険者が問う。
スキルの習得にも感覚的な問題が起こる。
それも正しく、ある時スッと納得できるような、満足のいく瞬間が現れ、以降は思い通りの物が作れるようになる。
「うーん・・・似てはいる、かな? こう具体的なことを言えるわけじゃなくて申し訳ないけど、スキルの習得が終りだとするなら、レベル100を超えた時の感覚は始まりに近いんだ。今までの形を一新するような・・・」
それに対してクライフが悩みながらも言葉を綴る。
「あー・・・確かにそんな感じだったかも知れないわね。これでいいってより、これじゃダメだったんだって印象が残ってるわ」
「そうですね。むしろ、なんで今までこんなことにさえ気付かなかったのかって恥ずかしくなるような・・・」
「自身の愚かしさに悶えそうにはなりました」
「欠落していたなにかを。あるいは忘却していたなにかを取り戻したような。そんな清々しさがあったね」
レベル100のボーダーを超えた面々はクライフの言葉へと同調する。
「すまんがその説明じゃあよくわからんな・・・・・・もし本当にそれが正しいんだとすりゃ、それこそ条件や要因はなんだって話になるじゃねぇか。こっちも、えらく昔とはいえ元冒険者だ。無理や無茶も随分やってきたつもりだ。だがそれでも、レベル100の壁は分厚かった。今更ここにおらん奴に便乗してレベルを上げようなどとは思わんが、納得のいく理由ぐらいは気になるってもんだろ?」
遠慮なしに踏み込んでいくアルガムを、ジェイド達はガツガツ行くなぁと思い眺める。
そこまでする必要があるのだろうか?
アルガムとて。本人が言うように今さらレベルを上げることに興味はない。
だが、自分にはなくとも後輩にはあるはずだ。
そう考えるからこそ、こういう場面では率先してそういった話を掘り起こす。
この場で言えばジェイド達のことを思って、だ。
ただ、それは単純な優しさではなく。
後から来た簿冒険者がこのサルベージで長く活動してくれれば、自分の工房へと仕事が回ってくることもあるだろう。そして、その可能性はここで恩を感じて貰えればその分だけ上がるはず。
なにより、レベル100を超える冒険者になれば、遠からずA級への昇格も見込める。
そうなれば素材の回収や、定期的な装備の修繕なども請け負えるかもしれないという打算から。
故に、おっさんはおっさんであることすらも利用して無遠慮に振舞う。
「ふむ。よくある勘違いだが、無理や無茶をしたからと言ってレベルは上がらないからね。それどころか、無理や無茶を繰り返すほど。レベル100へと至る道は遠退くと考えた方がいい」
意外にも、ジーナが研究者らしい口調でアルガムの問いに答える。
「まず初めに、ステータスレベル100は己を知る者の証明だということを理解したまえ。無理や無茶というのは、そうだね・・・俗にいう力み過ぎというものに当たるね。それは限界を超えたんじゃなく、余計な力を入れているだけさ。緊張状態だと本来の能力を発揮できないのと同じだね?」
その場にいる全員に呼びかけるようにして、ジーナは続ける。
「つまり、どんな状況であろうとも。緊張や不安・恐怖などの感情に惑わされることなく、自分自身の力を出し切れる・・・ということこそが。先の条件に当てはまるんじゃないかな? もちろん。これは仮定だけれど、それほど漠然とはしていないし、一般的に知られているステータスレベルの上昇条件とも合致するはずだ」
ステータスレベルの上昇条件。それは、己の身体をどこまで理解していて、その内のどれ程を発揮できるか・・・だと言われている。
だからこそ、身体の成長よりも早く実力をつけることで、レベルダウンという奇妙な現象が起きる。
「では次に。その要因なんだが・・・これは私の憶測に過ぎないけれど、本当の限界を迎えた時なんじゃないかと思っている」
「本当の・・・限界?」
「そうだとも! 本当の限界。これ以上はないという境目。私の場合なら、興味の果てとでも言おうか。考えに考えた理論の先。突き詰めたはずの最奥で、私は一つの答えと新たな側面を観測した。その時に進化したこの”魔眼”でね」
ジェイドの口からつい零れた言葉を取り零さず、ジーナは得意気なまま変質させた目を見開いてみせる。
「凄い‼ 流石ジーナ様‼ でも、本で見たのとは違うような・・・?」
「アレは一例に過ぎないよ。出来ることはほとんど同じさ」
瞬きを経てサッと魔眼を戻すジーナ。
「エリック君も私と似たようなものだろう。魔法への関心や興味から自分の使える最高の魔法を求めた先で。フェリシア君は信仰と疑念に悩み、敬愛や畏怖を抱えた祈りの先で。アンナ君だって。ギフトが進化しているのだから、同じようなことがあったんじゃないかな?」
「それは・・・まあ、そうね。あの時はワンダーゴーレムに苦戦して、出来そうなことは全部やったわ」
「クライフ。君がどうだったか・・・私は知らないのだけれど、どうだい? この仮説は破綻しているかな?」
「・・・・・・いや。俺だって変わらないよ」
その責めるような物言いに、ジェイド達が腑に落ちないところを感じていると。
「するってーと、なにか? ゼネスの奴はそういう限界を迎える機会がなかったってことか?」
「そうなるね。己の限界は自分で思っているよりもずっと先にある。そして、それがどのような機会に発揮されるのかは千差万別だろう。私のように研究で迎える者もいれば、物作りで迎える者もいるかもしれない。しかしだね。冒険者であるならば、そういった場面は圧倒的に戦闘時ということになるんじゃないかな? ましてや、本人にさえわからない限界を。いくら側で見ていたからといっても、それだけで測れるものではないと。私は思うわけだ」
アルガムに続いたジーナの言葉で態度のわけを知る。
ジーナはゼネスに冒険者を引退して欲しくなかったんだなと。
そして、その原因であるクライフ達へ、今まさに。
先程の意趣返し返しをしているのだなと。