作品タイトル不明
後始末の算段1
予想を超えるほどの手に余る大荷物だったカーナの受け渡しを終え、俺は要塞側へと戻る。
跳ね橋も上げれば、まるで何事もなかったかのよう。
対岸を埋めていた鎧達も、谷に響かせ、はためかせていた旗の音さえも見る影すらない。
これで、とりあえずは一段落ってところか。
戦争云々は避けられたんじゃねぇかな?
あとは――、
「やってくれましたね・・・」
この。なにかとうるさい軍団長をどうするか? だが。
「なにか問題でもあったか?」
「大問題でしょう。敵の逃亡を助けるなど、軍の面子を潰しただけでは済みませんよ? 引いては我らが軍のみならず、お父上の活躍にさえ泥を塗ったのです。それも―――兄弟そろってとは・・・・・・」
軍が主導で戦争を起こすより面子は潰れてねぇと思うが、それより。
「兄弟そろってってのはなんのことだ?」
「とぼけても無駄です。監視塔には常に我らが軍の兵士が詰めているのは、言うまでもありませんな? であれば、当然。先のような事情と知っていながら橋を下ろすとは考え難い。ではなぜ、橋が下りたのか? 理由は明白でしょう? そういう命令があったからです。そして、そんな命令を下せるのは、あなた様方のお父上を除けば・・・現在領主代行の任につかれているグラン様のみ。事情を伝えずに命令だけを言い渡しておけば、なにも知らないものならば従わずにはおれません。それが軍というものですからな」
言い分はわかる。
わかるんだが・・・。
「じゃぁなんて命令してたんだ? まさか兄上が帝国側の連中がいつ来るか知っていたとでもいうつもりか?」
「まさか。合図を出したら跳ね橋を下すように言っておいたんでしょう」
「兄上が据わっておられる位置は要塞の影になって監視塔からは見えないが? それに、お前の部下達は命令だからって、敵が対岸に来てるのに橋を下すような真似をするのか?」
「それは――ッ⁉ いえ、合図がゼネス様の挙動ならば監視塔からでも見えるでしょう! なにより、一兵士に命令を聞かせるくらい容易いはず! 領主代行としての強権をかざせば誰でも――‼」
「兄上を馬鹿にするなよ? いくらお前だからって領主代行を相手に、ありもしねぇことをのたまえなら首が飛ぶぞ? そもそも、たった1人を動かすためにそんな汚ねぇ真似を兄上がするわけねぇだろうが」
「―――ッ⁉ ですが、口でならなんとでも言えるでしょう‼ しかし、そうすればするほど立場が危ぶまれるのはグラン様のはず! 私の発言こそを忠言だと思って頂きたい!」
「まぁそうだな。だったら証拠を見せてやるよ」
「なにを・・・?」
俺はなんの動きも見せず、ただ突っ立ったままもう一度、跳ね橋を下す。
「俺の動きに合図らしい点があったか?」
「なぜ⁉」
「さぁな? 上げるのはお前の指示に従ってやろうか?」
どうする? と顎で促すとゴルドラッセが今一度跳ね橋へと視線を送る。
またしても、俺は指1本動かすことなく跳ね橋を上げる。
ゴルドラッセの視界の中には俺を含め、ジェイド達まで収まっている。流石にここまですりゃぁ、兄上への疑いは晴らせたといっていいだろう。
「どうだ? これで兄上が関係ねぇのはわかっただろ?」
「本当に、私には出来ないことばかり。目の前でやってくれるな? ゼネス」
「グラン様・・・」
丁度いい頃合いを見計らって兄上が立ち上がり、歩き寄ってくる。
こういう間の取り方は兄上の得意分野だな。人の心の隙をつくのがうまいというか、すぐに懐に入ってくるんだ。
「ゴルドラッセもそうは思わないか? ゼネスはいつも、私には想像もつかないことばかりやってのける。跳ね橋の操作も。帝国側の介入も。私には実現できない。精々が独房に入れられそうになっている相手を別宅に匿うくらい。器の差を見せつけられるというものだ」
「そのようなことは⁉」
「いいんだ。軍の若い者達が、私には威厳がないと、従いたくないと言っているのは承知している。そして、お前がそのことに苦労していることもな」
「そこまで承知でしたか・・・」
「この要塞は私の家だからな。知らないことなどほとんどないさ。苦労を掛けてしまったな」
「いえ! 滅相もございません‼」
「なにを言う。今回の一件も、私を案じてのことだろう? ゼネスの強さが本物であれば、自分の後釜に――と。そう考えていたのだろう? そうすれば、自分が軍団長を退いた後も、盤石な地盤を築き上げることが出来ると。私と、ゼネスを。信用してのこと。違うか?」
「お恥ずかしい限りですが、その通りでございます」
兄上の言葉にゴルドラッセが頭を下げる。
本当にそう思っていたかは定かじゃねぇが、この話はこれで手打ちだ。表面上は兄上が言った理由での暴走。故に今回のことは大目に見ると。つまりそういうことになった。
だが、まだ解消できてねぇ問題がある。