作品タイトル不明
悪を介して
「・・・これでよかったんだよね?」
「よかったかどうかを決められるのは貴様だけだ。だが、これでよいと言うのであれば、それに異を唱えさせないのが私の仕事だ」
降ろされた刃に汚れはない。
だらりと延びた腕に繋がれた斧には、責任の重さだけ残る。
「「「なにやってんだぁあああ‼‼‼」」」
「「「殺せぇええ‼‼‼ 臆病者がぁあああ‼‼‼」」」
拘束されたカーナの首は繋がったまま。いや、繋ぎ止められたままだ。
それを見て領民の馬鹿共が吠える。
「騒ぐな! 愚民共‼ 沙汰を下すのは愚かなるお前たちなどではない‼ このものは殺すに能わなかった! それだけのことだ‼」
「「「納得できるかああああ‼‼‼」」」
「「「敵は殺せ‼‼‼」」」
まぁこれも予想済みだ。
血を見るまで収まることがねぇだろうことは最初からわかっていた。
だから、
「いいだろう! では、殺すに能うものを連れて来よう。お前たちの望む死を。見せてやろう」
代わりといっちゃぁなんだが、犠牲になる役はもう決めてある。
「「「代わりなんかいるかよ‼ そいつを殺せぇ‼‼」」」
「「「敵は皆殺しにしろぉおおお‼‼‼」」」
最前列では観衆が兵士を押しのけ舞台に取り付こうと必死の形相だ。
兵士はそれを押し返す以上、自然の摂理として間で押しつぶされるものが出てくる。それでも尚、殺せと声を上げる姿には、もはや感心すら覚える。
どうしてそこまで醜くなれるんだろうなと。
事前に。兄上と打ち合わせをしておいた手筈通り、代わりの男が処刑台へと運ばれてくる。
檻には布をかけられた状態で、怒号が飛び交う処刑台へと運ばれてくる。
その心境はどんなものなんだろうか? と思わなくもねぇが、聞ける機会は訪れない。
固定されていたカーナを外し、一応檻に入れ直して脇へ。運び込まれた檻を中央へ置いて、いざ紹介と行こうじゃねぇか。
「この男の名はゲーニル。窃盗団を率い皇都を中心に盗みを働いた男だ」
檻に被せられていた黒い布をバサッと取り上げ、状況を飲み込めないまま寒空の下、白い息を吐く男の名と罪状を述べる。
「「「そんなちんけな奴にようはねぇよ‼‼」」」
「「「そっちの女を殺せぇ‼‼ 裸に剝いて、少しでも屈辱を与えてからな‼‼」」」
確かに、代わりにするには釣り合いが取れねぇ・・・このままじゃぁな。
「ちんけだと? この男の所業をちんけだと言ったな?」
「「「ちんけじゃねぇか‼‼ ただの盗みだろうが‼‼‼」」」
「「「そうだ‼‼ この処刑ではなぁ‼‼ 重罪人を殺すんだよ‼‼ そっちの女みたいな、なぁ‼‼‼」」」
「その言葉、承服しかねるな。私は軍を束ねるグラーニン家に生まれたものとして。いいや、この皇国に生きる1人として。この男がしでかしたことを許すことなどは出来ない‼ なぜなら――」
馬鹿共は話を最後まで聞かないが、こういう場合には都合がいいな。誘導がしやすい。その上、印象付けまで楽になるんだからな。
「この男は皇都で軍の装備を盗み、あまつさえ東の国の敵方へと流していたのだから‼‼」
そこまで言えば、風向きは変わる。いとも簡単に。
そりゃそうだろう。
ここは国境線を預かる領地。軍との繋がりは深く、裏切りには容赦がない。
「「「殺せぇぇええええええええ‼‼‼」」」
俺の言葉に怯み。ざわめいていた観衆から、今までよりも一際に張り上げる叫びが津波のように押し寄せる。
「ま、待てよ! なんの話じゃん⁉ 俺はそんなこと・・・・・・ッ‼」
ただ1人。なにもわからないまま。処刑台に固定されるゲーニル。
「お前は今から国家反逆罪を理由に処刑される。なにか言い残すことはあるか?」
「おかしいじゃん⁉ 俺はそんなことしてねぇよ‼‼ ちゃんと調べろよ‼ 俺は―――‼‼」
「残念だが、証拠は皇都のノクアッド侯爵家より提出されている。この期に及んで恥の上塗りとは、見るに堪えんな」
こいつを荊棘の庭園で捕らえた時点でベルザフォンに手紙を出した。
俺が里帰りする経緯と共に、皇都での盗み騒ぎ、及びその対処についての手紙だ。
結果。前日にノクアッド侯爵家から正式に広域通信魔法で連絡があった。
被害の全貌。その後の盗品の流れ。そして関係した者たちの詳細。
だが、どうみてもそれ等には足り無いものがあった。
それが被害の大きさ、広さに対して、取られたものや関係者の数だ。
あからさますぎて素直に聞き直したが、向こうでも色々あったらしい。
そして、最終的に。ゲーニルという男が全てを企んでいたということになった。要はトカゲの尻尾切りだ。その方が都合がいいって人間が多かったんで、俺もそれに乗っかったってわけだ。
「そんなはずねぇじゃんッ‼‼ そんなはずがッ‼‼」
固定された首をどうにか引き抜こうと必死に足掻くが、年に1回の慣習のために用意された台座だ。その程度の力ではビクともしねぇ。
「なんで俺がッ‼ 俺がぁあああ――‼‼」
泣き、喚き、鼻水まで垂らして訴えるが・・・身から出た錆だ。
そこに救いなど。あるはずもなかった。